第5話 お金の種類

 現在、時間は午前十時過ぎ。

 トリスさんが店に戻ってから一時間くらい経った。

 やっていけるかもって思ったのに、あれから一人も客が来ていない。

 そもそも人通りが少ないから、こんなものなのかな。それに初日だしね。


 この一時間は厨房に入り外の様子を見つつ、トリスさんと交換した肉の串焼きを食べた後、タブレットでメシポイントの回復状態を見ていた。

 肉の味は鳥っぽい淡白な感じ。結構うまかった。


 肝心のメシポイントだが、十分で一メシポイント回復するようで、今日使用したポイントはすでに回復している。要するに、一時間に六個塩おにぎりが作れる計算だ。朝九時から、夕方五時までの八時間営業として四十八個。開店時のメシポイントを含めると六十個近くは作れることになる。ただ、俺の食べる分をいれると実質売れるのは五十個くらいになるか。

 これを二百五十ウィッチで販売するとなると、一万二千五百ウィッチ。葉っぱ以外の費用が掛からないので、結構良さそうに思える。完売すればだが……。

 一日一万と考えても、七億は遠すぎるな。

 スキルが成長して、もっと高く売れる物が作れるようになるのを期待するしかなさそうだ。


 メシポイントの事を考えていたら、この満タン状態が勿体ないことに気付いた。

 計四個の塩おにぎりを召喚し、専用のトレイにのせてホットショーケースへ並べておく。これは、最悪売れ残ったら自分で消費すればいい。

 あと、こうしておくことでホットショーケースの性能を知ることが出来る。予想ではコンビニにあるものくらいだと思っている。



 時計を見ると十一時。先程より、更に一時間ほど経過した。

 溢れるメシポイントで召喚した塩おにぎりについては、部屋から持って来たお皿にのせておくことにした。売れないと葉っぱが勿体ない。一時間なので六つ。


 昼前ということで、さすがに先程よりは人通りが増えてきているが、うちの店の方を見ても通り過ぎていくばかりで誰も買ってくれない。トリスさんの店の方は、多少客が来ているようなので、売れないのはこちら側に問題がにありそうだ。


 そうして、ややぼんやりとしているとトリスさんがやって来た。手には木の皿を持っている。


「よお。さっきの塩おにぎりだっけ。アレ売ってくれや。なんか癖になる味なんだよな。店に戻ってから、また食いたくなってよ」

「ありがとうございます。いくつにしますか?」

「そうだなぁ、六ついっとくか。この皿に入れてくれや。うちの串焼き三本分だから、えーっと千五百ウィッチか。釜のコイン一枚と杖のコインを五枚だな」

「はい。少々お待ちください」


 コインと木の皿を受け取り、一旦厨房へ。

 部屋から持って来た箸を使い、二つはホットショーケースの物を取り出し、残りは皿の物を移す。


「お待たせしました。こっちの二つが温かい物で、残りはちょっと冷えちゃってます。冷めた方もおいしいと思うんで、すみませんけど試してみてください。不味かったら後で返金しますので」

「なら、ここで一つ食ってから戻るか」

 そういうと、トリスさんは一つその場で食べてくれた。


「うん。いいじゃねえか。問題ねぇよ」

「よかったぁ」

「んじゃ、またな。って、そうだそうだ。兄ちゃんとこよ、外から見ると何売ってるかわかんねぇぞ。だから通行人が見るだけでどっかいっちまうんじゃねぇかな」

「あっ⁉」

「ははは。初日だもんな。いろいろあらぁな」

 俺がカウンター内でメニューに代わる物を探しているうちに、トリスさんは店に戻って行った。


 販売スペースだけでなく、厨房と部屋も探したがメニューは見つからないので、タブレット端末を確認する。またしても新着マークのある店舗のアプリを開くと、項目が増えていた。容器の時にも似たような事があったし、次回からはまず端末をチェックすることにしようと誓う。

 さすがに初回無料と書かれていて、一安心。だけど、初回無料ってことは増やす際にお金がかかるということ。


 とりあえず初回無料分で設置する。

 まずは、値段設定からのようだ。そういえば忘れていた。

 次に背景と画像の選択。

 よく考えると当たり前なのだが、撮影するところから。

 厨房内で、葉っぱの上に二つのせた様子を撮影し設定。背景は、白だと地味すぎるだろうし木目っぽいのを選択。なんとなくそれっぽくなった。

 最後に設置場所は、外側の販売カウンター上下なんかも選べたが、俺から確認できないのでこれは無し。ということで、メニュースタンドタイプを選択する。これならカウンターの上にのせておけば良い。

 確定ボタンを押すと「チリリン」という音と共に、突然メニュースタンドが現れた。

 確認してみるとバッチリ。良い出来栄えに、少し口角が上がっているのに気付いたので、慌てて外を確認したが誰もいない。ニヤニヤしてるのを誰にも見られなくて良かった。


 少し慌てたことで、気持ちのリセットが出来た。

 初回以降のメニュー設置にいくらかかるか確認をする。

 五千ウィッチ。高いような、そうでもないような微妙な値段に顔を顰める。


 続いてお金の処理。

 先程は普通に受け取ってしまったが、コインの種類について全然知らない。トリスさんの話だと、釜のマークのコインが千ウィッチで、杖のマークが百ウィッチ。

 微妙にサイズが違うんだなと感じながら、掴んでいく。

 レジの使い方も知る必要があるし、まずは塩おにぎりの値段を二百五十ウィッチに設定しようとすると、店舗アプリでの操作の影響かすでに二百五十が仮登録されていた。決定が点灯しているので押しておく。


 最初の画面に戻り、塩おにぎりを押して売り上げを六個と入力。合計千五百と表示されたので、コイン投入口に入れて試してみる。するとちゃんと千五百ウィッチだったようで『支払い』が表示された。迷わず押すと「チン!」と聞きなれた音が鳴る。

 昔のレジみたいに、現金を入れておくキャッシュドロアが出てくるわけではないので、なんともシュールだ。


 お金が入ったことで、両替の項目が増えたようだ。押してみるとコインの一覧が表示された。

 十からのようで、『箒』『杖』『釜』『帽子』という風に並んでいる。とんがり帽子のコインで一万ウィッチ。その上もあって、『子猫』『猫』『女の子』『魔女』と零が一つずつ増えていく。最高一億。要するに俺は、魔女のコインを七枚集めるのが目標のようだ。『七』という数字だが、全然ラッキーな感じがしない。

 コインの模様は、どうやら魔女に関する内容みたい。だとすると女の子は、小さい魔女ってことなのかな。


 塩おにぎりが二百五十ウィッチなので、箒から帽子までのコインは今後頻繁に手にすることになりそうだ。逆に、女の子や魔女のコインとは当分縁が無さそう。子猫と猫すら怪しい。


 コインについて理解したところで、営業モードへと気分を戻す。

 確認のためにこちらに向けていたメニュースタンドを表に向け、改めて営業スタート。

 お金を触ったので手を洗い、溢れたメシポイントで塩おにぎりを追加するのも忘れない。


 さっきまでと違い、店の前で止まる人が増えた。メニューがあるだけで全然違うようだ。一種類しかないけど……。



 鐘の音が聞こえてきたので、時計を確認すると十二時。

 視線を時計から外に戻すと、少し離れた場所からこちらへ近づいてくる眼鏡をかけた中年男性に気付いた。

 もしかするとこの人が、トリスさんを除くと最初の客になるかもしれない。

 少しばかり緊張してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る