第51話 戦闘(3)
額に長い傷跡がある3人目のやつは前の2人とは違って、下手に飛び掛かってこなかった。距離を置いて、確実に私に牽制をとる。 思ってたより手ごわそうに見えたのだろうか。
あちこちと動き回る視線と私を惑わせようとするダガーの動き、そして絶えず足を移すステップは、傷跡の敵が簡単な相手ではないことを知らせてくれた。
外見は一番むやみに襲い掛かってきそうな顔をしているが、意外と慎重で用心深い。 やはり人は見た目で判断すべきではない。
「はあ、ふー......」
どうやらウズクマルタカのようにうまくはいかない。 あのオヤジは5人も倒しても息のひとつ乱れていなかったのに、私はすでに息が苦しくなる。 深呼吸で自分を落ち着かせ、冷静に相手を睨む。
「シーッ、シーッ!」
ダガーをXの字に振り回しながら威嚇をしてきたやつは少しずつ間合いを詰めてきた。だが、突然、大きく驚いて体をひねった。
空気を切り裂く鋭い破裂音とともに、一本の矢が私の後ろから飛んできた。矢はやつの顔をわずかの差でかすめて通り過ぎた。
「(ミルだな!)」
ミルは援護の射撃をしてくれたに違いない。その意図の通り、敵の姿勢が崩れた今がチャンスだ!
上半身を思いっきりひねって矢をわずかにかわした傷跡の敵は、しかし体の中心を取るために全力が両足に集中していた。私は両手でバットを力いっぱい頭の上に振り上げた。そして。
「ぶっ潰す!」
きれいさっぱりに一直線で縦に引いた一撃を相手の足の甲に打ち込んだ。
足、とくに足の甲は思っているそれ以上に複雑で繊細で敏感な部位である。まだ野球部だった頃、時々自分の打った打球に足の甲を打たれることがあった。 そのたび、頭の中が真っ白になる、という言葉が何なのか実感させる途方もない痛みを感じた。 しばらくの間、まともに歩くどころか立ち上がることすら大変なのはおまけだ。
まるでカニの甲羅を割る音を10倍くらいに増幅させたような残酷な打撃の音。
傷跡の敵は目をむいたままその場に倒れてしまった。 一瞬にして押し寄せてきた激しい痛みで、完全に気絶してしまったのだ。
「ふぅー......」
呼吸を整えながら周りの状況を見回すと、ウズクマルタカはまだ大勢の敵を相手している最中だった。 さっきあまりにも恐ろしい動きを見せたから、やつらも遠くから牽制をとるだけで、簡単には飛びかかってこなかった。
そちらはしばらく膠着状態が続きそうだ。
反対側に目を向けると、イマエールはしかめっつらをしていた。 戦況が自分の予想通りにいかなかったのだろう。 残った戦力の大部分がウズクマルタカのところに行って足止めされてしまったため、イマエールの周辺には3、4人だけが残っていた。
私が彼らに飛びかかったら、勝てるかな? 無理だ。数も、位置も、実力も、何一つ私に有利なところはなかった。 向こうもそれくらいは知ってか、これ以上飛び掛からず、私をにらみつけているだけだった。おそらく私からしかけてくるのを待っているだろう。 そう考えると、さっきからひたすらに私たちを挑発した理由がわかったような気がする。
距離はおよそ50メートルを…下回っていた。45……いや、 40メートルくらい? なじみのある距離だ。
「この距離なら…」
思いつくことがあった。
私はさっきミルが渡してくれたスクロールを取り出した。
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