第42話 追跡 (1)
そうやって店主に言葉を残してから、私はさっそくメイを追いかけて店から飛び出した。退勤時間が近づいた中央広場は、かなり多くの人が行き交っていた。
ラッシュアワーの渋谷を思わせる人波の間で彼らを追いかけるのはなかなか大変だったが、幸いにもメイの豊かで赤いツインテールは遠くからでもかなり眼立っていた。
「よし。絶対見逃さないからな。」
ちくしょう、どこまで連れて行くんだよ?あっちはこないだの時私たちを誘い込んだ路地裏の方じゃないんだけど?
あの金髪がメイを連れて行った道に沿って入ったその先に現れた場所は、この前の狭くて陰鬱だった虞犯地域とは正反対の、広くて活気に満ちた市場だった。
「い、市場?」
結局、市場に入ってからすぐ、私は金髪とメイを逃してしまった。 バレンブルクの市場くらいの大きさになると、赤毛も一人や二人ではなかった。それだけで簡単に追跡することができなかった。
「こんちっくしょ!」
「ホウジ?」
頭をかきむしっていた私の名前を呼んだのは、深い山奥の泉のような澄んだ声。
いつものように清らかで端正な顔だが、今は少々戸惑いがあるような表情でミルがこちらを見ていた。
「ミル?ここで何してるの?」
「退勤時間が近づいたし……市場でパ、パトロールでもしようと…」
口元についている何だか分からない赤いソースでも消してそんなことを言ってくれれば良かったのに……とにかく今はこうしている暇がない。
「そんなことより、今大変なことになったぞ。」
私は一部始終をミルに説明した。
ジヌのイムマエール追跡もメイについてもミルはすでに知っていたらしい。彼女は賢く一瞬で事態を把握した。
「その人たち、今どこに向かったの?」
「たぶん、あちらの...... その変で逃した。」
「あちらは…!?」
ミルは地面を蹴って走り出した。
ごった返す市場の人ごみの中を、まるで誰もいないように躊躇なく駆け抜けて進むミルの後を追って私も走った。
「あの方向には公営の馬小屋がある。」
「馬小屋?」
「そう、公営の馬小屋では馬を貸してくれたりもするから、やつはたぶん馬に乗って行くつもなのかも。」
そうか。それなら腑に落ちる。どうしてわざわざあのチンピラ野郎が人の多い所を通りかかるしかなかったのか。
「ところで、メイって子はどうして助けを求めなかっただろう? こんなに人が多いから、大声で叫んだら助けてくれる人が一人や二人はいるはずなのに。」
それは私が説明できるかもしれない。なぜなら、私もここまで追いかけて来ながら、ずっと同じ疑問を持って考えていたから。その間、可能性のある仮説を立てることができた。
「メイは、弟や妹たちの面倒を見ていると言ってた!あのジヌさんが警戒するほどイマエールは用心深くて悪辣な奴だから、きっとメイの弱点を持って脅しただろう。素直に言うことを聞かないと、兄弟を放っておかない、って感じで!」
ミルの奇麗な眉間がひそめられた。
「確かに、あいつなら十分ありえる話しよ。」
公営の馬小屋は市場の端っこにかなり広い敷地を占めていた。 私たちの感覚で言えば、公営駐車場にレンタカー会社がついているような形だった。ミルは馬小屋のオフィスのドアを蹴るように飛び込んだ。
「な、何だよ!お前ら…」
「警備隊です。しばらくご協力をお願いします。」
オフィスの中には、中年の男性が一人、のんびりとお茶を飲んでいた。
突然現れたミルの勢いに驚いてお茶をこぼした彼は怒ったが、ミルが着ている警備隊のレザーメイルを見てすぐ途方に暮れた。
「ど、どうなさいました?」
「もしかして、短い金髪の男性と赤毛の女性を見てなかったんですか?女性は私とほぼ同じ年頃です。」
「あ、あの人たちなら、借りておいた馬に乗ってさっき出て行きましたが......」
「どっちに行くんだと行ったんですか?」
「特に聞いてはいませんでしたが、たぶん……北門の方へ…」
『北門』という言葉を聞いてミルは歯を嚙んだ。
「ここを抜け出すつもりね。狡い真似を。管理人さん、今すぐ使える馬がいるのかしら? 1頭だけ、いや2頭だけ。」
「ごめん、ミル。私、馬に乗れないんだけど。」
「…… 1頭だけちょうだい、早く!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます