第43話 追跡 (2)





借りだした馬に乗って、北門を出るやいなや、私たちの前に広大な草原が広がった。 私たちはバレンブルク市を後にして、メイたちが乗っている馬を追って走り出した。


彼らが北に向かったことは、城門を守っている守備兵たちにもう一度確認を済ませた。


「はい。確かに男と少女を乗せた馬が、さっき通過しました。」


「分かりました。 警備隊長に伝えてください。 私たちが先行するので、ついて来てほしい、と。」


『王冠のドラゴン』の店主がまっすぐジヌの所に行って話を伝えたら、遅くても今頃は警備隊も出動しているはずだ。 どうか一刻も早くついてきてくれることを願うしかなかった。


しかし、私が向き合っている、今最も大事な問題はそれではなかった。


「ふざけないで、しっかり捕まりなさいよ!」


そう言われても!

すぐにでも折れそうな細い腰の、どこを掴めって言うんだよ!


ちょっと大げさに言えば、私の太ももより少し厚い程度しかないミルの腰を、私はどうしても抱きしめられず、必死にサドルだけを握りしめていた。


「この、バカが。」


そんな私が情けなかっただろうか。耐えられずミルが私の手を引いて自分の肩の上に乗せた。


「え、おい!?」


「うるさい。もっとスピード出すからしっかり捕まって。 もう落ちても私は知らないわよ。」


そうやって、私は木にくっついたセミのように、ミルの背中にぴったりとくっついたまま、彼女の両肩をぎゅっと握りしめた。サドルを握るよりはそれなりに安定していたが、ミルの長いストレートヘアが私の顔をまるで筆で塗るようにくすぐるのは少し大変だった。


いい匂い……って、何を考えてるんだ、私って奴は。


「え?何て言ったの?」


「いや、何も言ってない!」


その最中でも、ミルはしきりに気合を入れて馬に拍車を拍車を加えていた。馬の下を見下ろすと、地面が凄まじい速度で通り過ぎていた。


遊園地のジェットコースターに乗ったのと似ているかも。でも、馬のひづめに蹴り上げられた砂利が見えるほど生々しいこの感覚はくらべにならない。


風が耳たぶをかすめて、鼓膜にじーぃんとくる刺激を与えて通り過ぎた。


ぴりっとするスピード感。


「私が乗馬に詳しいわけじゃないけどさ。」


「え?」


「これって単にドラマの撮影など準備しながら学んだほどではないと思うけど?弓術もそうだし!すごすぎるんじゃない?」


「……これはジョユン姉さんオンニ、いや、ジョユンさんの仮説なんだけどね。」


「ジョ…それって誰?」


「チョ·チョルヒョン総官と一緒に韓国から来た…… あ、まだ会ってないんだね。今カハルに行っているわ。」


総管も一人で転移されて来たわけじゃなかったんだな。

ところで、なぜこの前はそんな話を全然…そうだ、自分の話をペラペラ喋る性格じゃなかったな、あの人。


「私の弓術も、兄のシャベル術も、元の世界ではただ普通の技だった。ホウジの言うとおり、ドラマの準備でいきなり学んだり、軍隊で適当に学んだスキルが、そこまで優れるわけがないでしょう。


ところが、そういうスキルたちがこの世界に来てから、私たち自らも信じられないほど非常に上手になった。チョユンさんの話では、普通に身につけいた技術がこの世界に来て、生き残るためにもっと発現されてるんじゃないか、って。


詳しい説明は難しすぎて、私は聞いてもよくわからないけど。」


その上、ミルが使っていたホローポイントの矢もその人が開発したと付け加えた。よほどすごい人であることは確かなようだ。


「私の乗馬術もこの程度じゃなかった。でも、いつの間にかここまで馬を走らせることができるようになったわ。


だから、ホウジやサヤもちゃんと考えてみれば、自分たちの中で成長されているスキルがあるんじゃないかしら。」


ミルの話を聞いて私が思い出したのは、沙也の料理だった。


「(そういえば、沙也はもともと料理が好きだったけど、正直なところ、上手というほどではなかったな。)」


だが、この世界に来てからは、確実に料理の幅も広がり、味もよくなった。


しかし、私は……


「そういえば、ホウジは野球をしたんだって?」


「うん、そうよ。」


「じゃあ、これを持っていて。」


ミルは懐から取り出した物を私に渡した。受け取ってみたら、それは私の指尺で 一尺ほどの小さな巻物だった。


「これはファイヤーボールのスクロールよ。魔法を習っていないホウジでも、これを裂きて始動語を唱えるとファイヤーボールを使えるはずよ。 私よりホウジが持っているほうが役に立つと思って。」


「あ……始動語って,何と言えばいい?」


「それは自分で考えなくちゃいけない。この魔法に何を望んで、何を具現化したいのかをホウジが考えるの。そのイメージをまとめる言葉を思い出せるなら、それでいい。」


そんな話をしているうちに、馬はいつの間にか草原を通って、森へと向かっていた。



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