第41話 メイ (3)






いっそのこと、ずっと退屈していればよかった。


私は心からそう思った。


何もなかったら。


目が回るほど忙しいメイにちょっと意地悪そうにふざけて、30ブルを渡して、適当にずうずうしく飲み物にのお礼なのか冗談なのか分からないことを言って、そのまま家に帰って沙也と瀬戸先生と一緒に温かい夕食を食べられたなら。


だったらどんなに良かっただろうか。


そう思いながら、私はバットを握った手に力をいれた。ハンドルを包む革のざらざらした感触の向こうに、鋼の重さが、今までのいつもより重く感じられた。


「ぜったい、逃さないから。」


私は急いで足を運んだ。





ㄹ ㄹ ㄹ ㄹ ㄹ






それは、メイがサービスしてくれた飲み物を飲み干した直後だった。


いくらなんでも、同年代の女の子をずっと見つめ続けているのも何だか恥ずかしくて、周りを見回していた。ぼんやりとしていた私の目に、初対面ではない顔が目についた。


「あの時のあの金髪!」


イマエールに襲われた時、ダガーを持っていた短い金髪のチンピラだった


確かにその時、ミルの矢を打たれた奴に間違いない。倒れて苦しむ姿がまだ生々しく思い出された。私はすでに空っぽになったタンブラーを慌てて持ち上げ、飲むふりをして顔を隠した。


まだ向こうからは私のことに気づいてなかった。


金髪はちゃらちゃらした足取りでメイに近づいた。よし、ここまでは計画通りだ。私は奴がメイから適当に情報を聞いて帰るのを待った。


「これからジヌさんに言われた通りすぐギルドに行って報告すれば……ん?あいつ何してる?」


多くの人々で賑やかで騒がしい「王冠のドラゴン」で、おそらく私だけだった。あの金髪が自分に向かって何か話しかけようとしていたメイの手首を掴んでねじるのを見たのは。


「あいつが!」


メイの顔は痛みで歪んだ。


「王冠のドラゴン」の店主も何か抗議をしようとしたが、凶暴な顔で脅かす金髪の前で力なく首を下げてしまった。いったい何が起きているのだろう。


金髪はメイの手首を後ろに掴みひねたまま引きずり出した。私と店長以外、誰一人もこの異変に気づいていないようだった。


「だ、ダメ!」


私は急いでバットを手に取り、前に走り出した。


「くそっ、あのくず野郎ども......」


店主はカウンターに寄りかかり、頭を抱えていた。何か大きなショックを受けたようだった。


「おい、おじさん! あいつがメイをどうして連れて行くんですか?いったい何を言ってたんですか?」


「あ……君は確かさっき警備隊長と一緒にいた…」


「そんなことどうでもいいから、なんであのチンピラ野郎がメイを連れて行くんですか?」


私は胸ぐらをつかみそうな勢いで主人をせきたてて大声で叫んだ。何かが大きく間違っているという予感がして胸がズキズキした。 こめかみの近くで打つ脈拍のせいで頭が痛くなってくる。


「わ、私も知らない。しかし…… あいつらに連れられていい目にあうはずがない… ああ、なんであの子が…」


「ちくしょう!」


悪口を吐きながら外を見ると、金髪はメイを引きずってすでにかなり遠くまで歩いていた。午後の街には大勢の人がいたが、誰も金髪やメイのことを気にする人はいなかった。


おそらく、多少の違和感を感じたとしても、一見乱暴で不良な金髪にわざわざ口出しする人はいないだろう。


「おじさん!ギルドの位置は知ってますよね? ギルドに行けば警備隊長がいるはずです。 早く行って伝えてよ! 私があいつを追いかけるから、何としてもついて来て、て!」

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