第34話 歓迎会



その夜、官邸ではささやかな歓迎会が開かれた。


私とジヌがチョ·チョルヒョン総官のオフィスで壮絶な短期決戦を(それはもしかして私一人だけの考えかもしれない。ジヌもチョ総官もその後平気に見えたから。)行っている間、沙也と瀬戸先生はミルとかなり親しくなったようだった。


「宝地!やっぱりバレンブルクは大都市なんだね! 美味しいものも多いし、服も綺麗いし、何もかももの凄かったよ!」


ああ、沙也さん。今の言葉、東京都が聞いたら多分泣いてしまいますよ。


昼間の間、ショッピングでも行ってきたのか、相当な量の買い物を積んで私たちを迎えた彼女たちは、住処が決まるまで官舎で一緒に暮らすことになったという話に歓喜の声を空高く上げた。

みんな盛り上がる雰囲気の中で夕食を済ませた後、ジヌはしばらく席を外してからすぐ戻ってきた。

ジヌが汗だくになりながら持ってきた重い木箱の中身を見た瞬間、瀬戸先生の目が輝いた。


「それワインですか!?」


そういえば、コバフ村でおっさんたちが飲んでいたお酒は、ビールだったな。でも、瀬戸先生はそれをほとんど遠慮していた。生徒たちの前だから気を付けてるのかな、と思ったら…


【あら、違いますよ。単に美味しくないから飲まないだけなんです。】


とにっこり笑っていた先生であった。


苦くて酸っぱくて口に合わなかったみたい。確かに、お酒に詳しくない私から見ても、日本で見ていたビールとは全然違うもん。


耐え切れなかった瀬戸先生は、木の実や果物で酒を仕込んでみようとしたが、味噌と違って、それは結局成功できなかった。だからその輝く瞳は100%本気なんだ。


「はい。ワインもあるし…蒸留酒もあるし…君たちはジュースだぞ。」


「えー」


「え、じゃない!」


バレンブルクも一応州都のタイトルを背負っている分、かなり豊富な物流を誇っていた。だが、それでもこのようなこのようなワインやジュースはかなり高価品だらしい。


「理由は色々あるけど、まずはこのガラスボトルのせいだね。」


私と沙也、そしてミルに一杯ずつ注いであげた後、空いてしまったボトルをジヌが振って見せた。


現代の世界と違って、ガラスの技術は王国の首都でしかできないほど高度な技術であった。そのため、ガラスボトルだけでなくそのボトルに入って運ばれる飲み物もまた高くならざるを得なかった。


正確にいくらかは言ってくれなかったが、ジヌが少なくないお金を支払ったことを推測するは難しくなかった。それだけ私たちの合流を彼は心から喜んでいた。


雰囲気は一気に盛り上がった。


「ね、ねぇ。宝地。 ミルちゃんはね、韓国でアイドル見習いだったんだって! しかもその『エバーグリーン』でデビューするところだったそうよ!」


エバーグリーンの名前を口にする沙也の目に少し懐かしさが映ったが、すぐに消えた。そういえば、私たちがこの世界に来た日が、あのエバーグリーンのデビュー日だったのだ。その日が随分と遥かに感じられる。


「おお…どうりで」


この世のものではないような美貌だとは思ったけど、まさか注目されていたアイドル有望株だったとはな。 私は感心の目でミルを見つめたが、むしろミルは目をそらして小さく言った。


「......逆に言えば、結局選ばれなかったんだから。」


ミルはグラスに注がれたジュースを眺め、一気に飲み干した。あれってまさかワインじゃないんだよな。なんだかミルの目がとろんとなった気がするんだけど。

あの、ミルさん?


「あの時、あのステージでミスさえしなかったら…」


「あのステージ?」


「エバーグリーンのメンバーは…オーディションで選ばれたの。 多分沙也もファンだったら知っているかも… 『明日のシックススターズ』。」


「 『明日のシックススターズ』?」


「宝地も一緒に見てたじゃん。エバーグリーンのメンバーを選抜する公開オーディションテレビ番組だよ。 あれ?私、一話も欠かさずそれ全部見たんだけど?

あ!そういえば…… もしかして『ベガ』?」



ミルはボトルをもう一つ開けジュースを(ワインかもしれない)注ぎながら小さくうなずいた。「きゃあ!」と沙也は頬を包みて悲鳴を上げた。


「やっぱり、ミルが『ベガ』だったんだ!」


「なぁ、沙也。 私、今全然、話が見えないんだけど。」


「もう、宝地! やっぱり私がエバーグリーンについて話してたこと、全然まったく聞いてなかったでしょう! 『明日のシックススターズ』の決勝トーナメント1回戦で脱落した『ベガ』ちゃんがね、実は今ここにいるミルちゃんだったってことよ。私がずっと一番推してるって何度も言ってたのに!」


そ、そうなのか。

空っぽになったボトルをもう一つの滴でも注ごうと逆に持っていたミルは「推し」という言葉に目をかすかに輝かせた。


「推し?私が?」


「そう!あの日そんなにむなしく怪我さえしなければ、ミルちゃんがエバーグリーンになってたかもしれない。いや、きっとそうなったわよ! 私はそう信じる!」


沙也は久しぶりにK-POPファンモードに戻った自分を思いっきり楽しんでいた。 あんなに元気なのは本当久しぶりだね。


「でも怪我も実力だとプロデューサーも言っていたし…」


「ミルちゃん!」


「あら。」


ミルは沙也に自分の手をギュッと握られて、小さくかわいい悲鳴を上げた。


「私たち、絶対帰ろう! 元の世界に帰るんだよ。 たとえエバーグリーンでなくても、もっと素敵なグループで…いや、ソロデビューもできるかも!」


「沙也…私たち、帰れるのかな?」


「もちろん!ジヌのお兄さんも、宝地も、私たちみんな頑張ってるから!」


ああ、二人が交わすキラキラした視線は私が耐えるにはあまりにもまぶしすぎるよ。


帰り方を調べるのもいいけど、とりあえず私はこの世界で無事に命だけでも失わず生きていけたらと思ってるんだけどね。このように夢について話す二人の女子高生の間に私が入る暇がないってことに気づいた私は、瀬戸先生の方を見つめて…


「あれ、瀬戸先生は?」


「さっきバルコニーはどこにあるかと聞かれたけど? そんな素敵なものはないけど、屋上に上がると似たようなものがあると言ってあげたよ。」


グラスにワインを注いでいたジヌが代わりに答えた。


「風にでも当たりたいようだな。」


「寒くないでしょうかな?」


「そんな天気じゃないけど、ちょっと私が上がって見てくるよ。」


ジヌはワインがなみなみとしたグラスを持って、口ずさむようにしながら階段を上った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る