第26話 イマエール (1)



バレンブルクギルドから遠くないところにあるパブである『王冠のドラゴン』(Dragon with Crown)は、大勢の人で賑わう活気に満ちたレストランだった。


我々のテーブルを担当する赤いツインテールのウェイトレスは、気さくな態度で私たちの前に注文した料理を次々に並べてくれた。


「ごゆっくりどうぞ!」


それから、すばやく次のテーブルに移ってもう注文をもらっているその後ろ姿を見ながら、私は料理を口に運んだ。


「ベビンさんの野菜料理が、早くも恋しくななってきたよ。」


炒め物をもぐもぐ食いながら、私は余計に無駄なことを言い出した。 そんな私を沙也がちらりと見て、お水を渡した。


「もうコバフ村の味に馴染んだわけじゃないの?この世界ではコバフ村が私たちにとって故郷ホームのような所だからね。」


「そうかな。」


水を飲みながら回りを見渡した。


『王冠のドラゴン』は実に妙なレストランだった。

隅っこの席に座っている中年のおっさんは、昼間から顔が真っ赤になるまで酒を飲み続けていた。そして、もう片方には子供だで連れて外食に来ている家族も目についた。


ほとんどが一般市民と見れると思ったら、そうでない人も結構いた。中には、私たちのようにあれこれと荷物が多かったり、さまざまな武器を携行した人もいた。


お出かけよりは旅行や冒険にふさわしい実用的でごつい格好をしている人たちは、おそらくギルド所属の冒険者なのだろうか。


そんなことを考えながら食事を終える頃、テーブルの横に何気なくするっと近づいてくる人っけがあった。


「このバレンブルクには初めてですか?」


一人の男が軽い足取りで近づいてきて挨拶をした。 家の近くに飲み物でもしに出たような、軽いながらもこざっぱりした身なりの、線の細く色が薄い美青年だった。


「あ、はい。コバフ村から来たばかりなんです。」


「コバフ村から! そりゃ、かなり遠くから来られたんですね。」


彼は愛想のいい笑顔を浮かべた。


「もしバレンブルクが初めてでしたら、教会の助けは必要ではないですかね?」


教会という言葉を聞いて、私たちの顔色が明るくなった。


ヨナハンのお勧め通り、ひとまずバレンブルクのギルドに登録を終えたから、次は教会に行こうというのが、食事の間に私たちが出した結論だった。


とりあえず荷物はギルドに預けたが、今夜泊まるところもまだ決めてないから、彼の紹介状を持って行けばある程度のお手伝いはしてくれるんじゃないかと思った。


「はい。もしかして、ヨナハン司祭さんのことをご存知ですか?」


「ヨナな司祭ですか? もちろんです。そのお方ならよく知っています。 ただ…ふむ… 今、ヨナハン司祭はバレンブルクにはいないと思いますが。」


男は目を細めて首をかしげた。


「私たちはヨナハン司祭の招待でバレンブルクに来ました。 あ、私は法次と申します。」


「イマエールと申します、よろしくお願いします。」


イマエールと名乗った男は、たまに教会の使い走りをしているらしい。 そのため、ヨナハン司祭の事情にも明るかったようだった。


「イマエールさんの言ってた通り、司祭はカハルに用事があるとおっしゃいました。ここに来たら教会に立ち寄って助けを求めるようにと、手紙に書いていました。」


「そうですか!なるほど、 ここで私が皆さんに会えたのもまた、神の導きなのではないかっと。」


インマエールはパンッ と、手を打ち鳴らして、私たちを見回した。


「じゃあ、私が教会にご案内しましょう。 バレンブルク市が初めてでしたら、おそらく教会の位置もまだよくしらないでしょう。」


「そうしていただけると、本当に助かりますね。」


「はは。コバフのような小さな町に比べたら、バレンブルク市は確かに大きいですからね。」


「コバフのような小さな町」という言葉に、沙也と瀬戸先生が眉をひそめるのが見えた。しかし、間違った言葉でもなため、あえて文句を言ったりはしなかった。

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