第2話 その日
「
「ああ、
クラスメイトの
「掃除、まだなの?」
「見れば分るでしょう。すぐ片づけるから、そこでちょっと待ってて。」
いつも一緒に登校して、
いつも一緒に授業を終えて、
いつも沙也と一緒に家に帰る。
当たり前のような毎日のルーチンだ。
それは今日も同じだった
「もう、私が手伝ってあげるから早く終わらせて帰ろうよ。だいたい、なんで宿題を忘れたのよ?」
「忘れたんじゃないってば。ただ、家に置いてきただけだっつの。」
沙也は哀れな目つきで返事を代わりにした。。
「今日をどれだけ待ってたか宝地も知ってるでしょ。 そうでなくても今日は『エバーグリーン』のデビューステージがある日なんだから、放送が始まる前にまでは帰りたいんだよ。」
「はい、はい。」
K-POPに興味がない私も「エバーグリーン」というガールズグループのことは何度も聞いて知っていた。メンバーを集めるためのオーディション番組から話題になって注目されたグループが、今日初めてのデビューステージにあがるんだそうだ。
朝のテレビでもうるさかったんだが、私はK-POPマニアである沙也がすでに何度も話していたから知らないわけがなかった。あいつ, 両親には勉強会をするんだとか言い訳したくせに、うちに来てそのオーディションの番組を全部見たんだから。おかげで、私はうっかりチャンネルの選択権を奪われてしまったんだがね。
沙也は本当に早く帰りたいのか、腕を組んで重いはずの机をぱっと持ち上げた。
「分かった、分かった。 早く片付けよう。」
-キーン!
グラウンドの方から鋭い金属性の音が聞こえてきた。見なくても分かる気がする。 今この時間なら野球部の練習真っ最中だろう。
キーン! キーン!
次から次へと豪快な打撃の音が聞こえてくる。あれはとてもよく当たった打球だ。音だけ聞いてもわかる。なぜなら……
「宝地も野球部続けてたら、宿題なんか忘れても掃除当番しなくてよかったのに。」
「別に掃除当番が嫌いなわけじゃないんだから。」
私は何気なく椅子を動かしながらつぶやいた。
「それに、どうしても、お父さんのようにはなれないってことが分かったからさ。」
外からは野球部員たちが気合を掛ける叫び声が打撃音と共に聞こえてきた。
私もあの中にいた。
夏休みの前まではな。
中学時代までは 期待株として注目されたこともあった。だが、中途半端な才能は高校に入学して数カ月も過ぎてない間に底をついてしまった。1年生の時は何となくチーム内に留まることができたが、一人前の役割を果たさなければならない2年生になってからは到底持ちこたえることができなかった。
結局、春と夏の地区大会ともに、試合の最後の最後で代打、代守として出場するのが背いっぱいだった。それに、夏の大会では先輩たちの夏を終わらせた罪人となってしまった。
それは仕方なかったことだと何人かの仲間が小さい声で弁護してくれたが、すでに戦犯として確定されてしまった私を救うことはできなかった。先輩たちと同僚たちが私を眺める視線から冷たささえない無関心を感じた瞬間、私は心を決めた。
迷いは短く、諦めは早かった。
[お前はいいやつだった。ご苦労だったな。]
退部届を受け取った監督の言葉はそれが全部だった。 理由を問うこともなく、引き止めることもなかった。
その程度の逆境は自分で乗り越えろという、叱責すらなかった。
試練を共に乗り越えるために肩を貸してくれる仲間たちも、再び立ち上がるように厳しく、あるいは感動的に励ましてくれる指導者も、私の現実にはいなかった。
私はもう野球部に「要らない」やつになっていた。
ただそれだけの話だった。
5年間続けてきたとある野球少年の短い選手としての人生は何の注目もされないまま、そうして終わりを告げた。
野球が私に残してくれた体力だけはおかげでたくさんついたから、これからは勉強をしても何をしても良い土台になるだろう。
「宝地……」
むしろ幼なじみの沙也が私より辛そうにしていて、もっと悩んでいた。その視線が耐え難くて、私はわざともっと慌ただしく振舞った。今、急いで教室を整理しているように。
「それに、私が野球部続けていたら、今みたいに一緒に帰ることもできなかったしね」。
「あんたさ…」
ふざけ半分で言っている私に沙也が何か言い返せようとしたその時、もう一人が教室に足を踏み入れた。
「双美さん、まだ帰ってない…… あら、足原君のお手伝いをしていたんですか。偉い、偉い。」
「あ、瀬戸ちゃん。」
担任であり歴史担当の
「そういえば、双美さんと足原君は幼なじみだと言ってましたよね?」
「あ、はい……」
「羨ましいですね、とても仲の良い友達同士で。私は転校が多かったので幼なじみと言えるような友達がいませんよ。」
瀬戸ちゃんは額に垂れた髪をまたかきあげながら小さく微笑んだ。瀬戸ちゃんを学校のほとんどの男子生徒(及び一部の女子生徒)の憧れの対象にした、いわゆる「聖女の微笑」だ。
「そんな瀬戸ちゃんは、クラスのみんなと友達でしょう?」
「あ、先生にまた瀬戸ちゃんって!ひどいよ!足原君。」
瀬戸ちゃん…いや、瀬戸先生は頬を膨らました。「ぷー」 こんな時の先生は可愛くて冷やかし甲斐がある。 普段も可愛いけどね。 だから瀬戸ちゃんだ、やっぱり。
「そうだ! そうだ! 宝地がそうするから、最近の生徒は礼儀知らずって言われるんだよ!」
「「だよねー」」
「お前ら、さっさと行けよ。早く掃除かたずけたいんだから。」
二人にツッコミを入れながら背を向けると、沙也が呼び立てる。
「あれ、宝地。携帯のフラッシュがついてるみたいだよ。」
「えっ、どういうこと?」
沙也は私の腰のあたりを指差した。
「今、ズボンのポケットから光ってるの、それ携帯のフラッシュじゃない?」
「何言ってるんだよ、私の携帯はかばんの中に…… あ、あれ?」
沙也の言う通り、後ろのポケットから明るい光が漏れていた。
「これはいったいなんー」
しかし、私が言葉を終える前に、私を中心に広がった真っ白で強烈な光が私たち三人の体を包んだ。
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