暁と黄昏のアライアンス:異次元日韓コラボレーション

恵一 津王

第1話、暁の夢

存乎人者莫良於眸子

人を見分けるに、사람을 살피는 데에, 瞳に勝るものはない。눈동자보다 좋은 것은 없다.


眸子不能掩其惡

瞳は、己の中の悪を눈동자는 자기 안의 악을充分に隠すことができない。능히 감추지 못한다.


胸中正則眸子瞭焉

心が正しければ、마음이 올바르면 瞳は明るく澄んでいる。곧 그 눈동자가 맑고,


胸中不正則眸子眊焉

心が正しくないと、마음이 올바르지 않으면瞳は暗く曇っている。곧 그 눈동자가 흐리게 된다.


聽其言也觀其眸子人焉廋哉

相手の言葉を聞き、그 말을 듣는 것은 その瞳を見れば、그 눈동자를 살펴 보는 것이니,人がどうその心のなかを사람이 어찌 그 마음 속을隠しきれるだろうか。숨길 수가 있겠는가?


『孟子』 離婁上





暁と黄昏のアライアンス

第1話、暁の夢




ぼんやりとした意識の中で枕のもとを手探りする。

曇った暗闇の中を彷徨う指先には何も捕まらない。そこには携帯電話はおろか、目覚まし時計すらないんだ。習慣とは恐ろしいものだ。

もう何回…いや、何十回と繰り返してきたことだ。あるはずのない物を求めてしまうのは。

それでも直らないのは、心のどこかに残っている一欠片の希望のためか。 それとも単に未練が残っているせいなのか。


今何時頃になったのだろう。


窓の隙間からほのかに差し込む月明かりの一片が、まだ日の出どころか、薄明りにもなっていないことを知らせていた。


「まだこんな時間か…」


すぐにでもシーツを蹴飛ばしたいという欲求を抑えた。 今寝ておかないと一日中疲れるに違いない。 汗びっしょりになった枕カバーの感触がいらいらするけど。

私はむりやりに、また目を閉じた。



***



そして目を覚ますと、グラウンドの上に立っていた。


またこの夢か。


一晩中降った雨がまだ乾かず、地面はまだ濡れていた。 そしてその上に強烈な初夏の日差しが容赦なく降り注いでいた。黒土から噴き出している水蒸気は、息を吸うたびに肺を締め付けてきた。熱いサウナの熱気、なんてありふれた表現はもはや比喩ではなかった。

しかし本当に私を…いや、私たちを息苦しくするのは別にあった。


九回裏二死

ランナーは二、三塁

スコアは一点差

スタンドから聞こえてくる強烈なブラスサウンド。

あちこちで飛び交う励ましの叫び声と大歓声。


「あと一つ!あと一つだ!」


特に勢いよく叫ぶ声に向かって首を振り返ってセンター側を眺めた。キャプテンの先輩がグローブをパンパンと叩きつけていた。

ゆらゆらと咲く陽炎の中で、彼の顔は見えなかった。思い出せなかった。どんな顔だったっけ。 しかし、あの力強い声だけははっきりしていた。


「おい! しっかりしろ!」


私はなぜここに立っていたんだろう?

ああ、そうだ。三塁手を務めていた先輩が倒れたんだな。

激しい熱気の中で狂いそうな緊張感と連日の延長戦。 昨夜、胃薬を口に含みながら照れくさそうに笑っていたその先輩は、地区大会決勝の重圧感に最後まで耐え切れなかった。九回裏が始まってから、先頭バッターが打ったゴロをまともに捕球できなくてエラーを犯した後だった。まるでかかしが倒れるようにグラウンドに倒れこんだ彼を見て、監督は舌を打ちながら私をよんだ。


「チッ! 足原あしはら! 三塁に入れ!」


チームメイトのミスはみんなのミス

仲間のミスまでかばってくれるのが 真の仲間

皆は一人のために、一人は皆のために


数え切れないほどの青春ドラマや漫画で、一様に語られる話。苦しくて、辛くて、死ぬほど暑かったが、それでも、その美しく感動的な青春のページの上に立っていると私は信じていた。

ピッチャーがこっちをじっと見つめる。二年生の私が頼りないのだろうか。それとも先ほど守備エラーを犯したポジションが気になるのだろうか。

私はわざと大声を出して気合を入れた。


「あとひとつ!」



***



「はぁ…」


汗でびっしょり濡れたシートが、まるで縛るように全身をぐるぐる巻いていた。

首筋をくすぐってる汗が気持ち悪い。ベッドに入る時までは、これ以上ないほど居心地が良くて、ふわふわしていたシーツは、まるでシャワーの後に使ったタオルのように湿っていた。夢うつつのため、シーツの中から起きることすら容易ではなかった。


「お水…」


ひどい喉の渇きに結局耐え切れず、身を起こした。寝る前にサイドテーブルに置いてあった水差しの水はぬるくなっていたが、それさえも今の私にはこの上なく涼しく感じられた。

ベッドに座ったまま、まだ半眠りについたぼんやりとした目で窓辺を眺めた。窓越しに見える空にはまだたくさんの星が見えたが、夜の末端からぼそぼそと上がり始めて来た薄明が、おおよその時刻を告げていた。

そっと開けておいた窓の間を縫って飛んできた一筋の夜明けの空気が頬を伝って流れる汗を飛ばしてくれる。


- チュンチュン、チュンチュン


早起きしたスズメが窓際の近くでうろうろして、ばたばたと羽音を立てて飛んでいった。


【英文に早起きの鳥が虫を食べられるという言葉がある! 早起きは三文の得という意味だ! お前は鳥にも劣るそんな精神状態でプロ選手になれると思うのか!】


「お父さん......」


さわやかな朝の空気と雀のさえずりに私が思い出したのは、私を責める父の荒々しい声の記憶だった。 いまだにも耳ともに響いているようなその声をもし防げるかと思って、頭を膝の間に埋めて耳を塞いだ。

しかし、父の声は頭の中で絶え間なく鳴り響いていた。



***



そういえば、父は私が野球部に入るのを必死に反対していた。しかし、数ヶ月に渡って意地を張った私を結局耐えられず父は許してしまった。


【たったそんな覚悟で野球をするとよくも言ったな!】


その直後から、父は私に野球を許したことに対する腹いせではないかと思うほど厳しいトレーニングを私にさせた。まるでこれでも野球をするつもりか、と言うように。

その中でも最も厳しく教えてくれたのは、守備訓練、その中でもノックだった。


【ボールを怖がるバカなプレイヤーがどこにいる! 退くな! 前に進み込め!】


野球選手になると宣言した私に、一人前の選手になるかどうかは守備にかかっていると、毎日夜明けから父は私を起こしてノックを行った。元プロ野球選手が手加減無しで打ったノックを、まだグローブさえ重く感じる新米の中学生選手が受けることは無理だった。

でも、父は止めることなく毎日朝練をつづかせた。それは、私が家庭内暴力に苦しむのではないかと当時の担任の先生が真剣に悩むほど厳しいものだった。

その恐ろしい記憶を吹き飛ばしたいという気持ちで、大声で叫んだ。


「あとひとつ!」


打席にいる相手チームの4番バッターにも、私の声が聞こえたようだった。ちらっとこっちを見たバッターはにっこりと笑った。地区を代表するスラッガーから見れば、私のような候補の内野手の気合は軽く聞こえるのだろうか。

ピッチャーが力任せの初球を投げつけた。 キャッチャーは外角のボールを要求したが、投球は逆に打者の内角へ向かっていた。


キーン!


バッターが思い切り打ったボールは私の真っ正面に飛んできた。

体側の失投を強打者が力強く引っ張った打球は、どんでもないスピードで私の胸元へと向かった。 その瞬間も、私の頭の中では父の大声が響いていた。【退くな! 前進しろ!】その言葉通り、私は一歩前に踏み出し、グローブをはめた手を前に差し出した。


一瞬、目の前が真っ暗になった。


比喩ではない。文字通り視界が暗くなった。そして頭を揺るがす強烈な苦痛。

何だ? 一体何がどうなったんだ?


「ワアアアアア!」


あっという間に沸き始めたスタンドの歓声を聞いて、気をとり戻した。気を失ったのは、ほんの一瞬だったようであった。視界が戻った私の目に映ったのは…


「あっ!」


引き裂いたようにウェブの先が破れたグローブ。 そして地面を転がっているボール。

グローブを突き破るほどの強烈な打球が私の顎に強く当たったのだ。そのまま気絶しなかったのは、グローブに当たって勢いが一度なくなったおかげかもしれない。

白い球の革面には、眼立っている赤い痕跡が通っていた。それは、まるでボールが血を流しているように見えた。


私の血か…


しかし頭で考えるよりも先に、酷いノックで鍛えられた体はすでに動いていた。口の中で生臭い鉄の味がしたが、無視した。背後を通る3塁ランナーの気配が感じられたが、それも放っておいた。バッターさえアウトさせればいい。

そうすれば試合は終わる。

このうんざりするグラウンドから、出られる。

勝者として。


「一塁!」


キャッチャーとピッチャーの両方が一塁を指して叫んだ。視界がぐるぐる回ったる最中でも、何千何万回と練習してきた通り、一度でボールを取った。

そうだった。父は、グラウンドボールを一度で掴めないことを嫌うどころか、軽蔑していた。【それでも野球選手か! それとも酔っぱらいか!】父の声が頭の中で響いた。

ちゃんと掴んだよ。お父さん!だからちょっと黙っててよ!


「一塁へ!」


わかったよ!

再び誰かが急かす声に、私は一塁に視線を向けた。足が速くないバッターランナーはまだ必死にベースに向かって走っていた。さっきまで打席で私を見て嘲笑していたあのスラッガーが。

今度は私があいつを狙い撃つ番だ。一遍......


「逃げてみろ!」


腕を力いっぱい引っ張って、そして一塁手に向かって伸ばした。


「あ…」


球を投げる刹那の瞬間、違和感を感じた。何だろう。指先に感じられた、普段とは違う微細な感触。

そんな中、送球は稲妻のように1塁に向かって飛んでいった。ほぼ同じタイミングなのか? 違う。ボールが少し速いんだ。なのに、しかし。


- ドン


ほんの少しだった。

ほんの少し進路を外れたボールは、バッターランナーの頭を直撃してしまった。グラウンドに倒れたランナーは、痛苦しみの中でも必死に一塁をタッチした。

ヘルメットに当たって跳ね返ったボールは、ファウルエーリアの奥深くまでごろごろ転がってしまった。


「ホームだ! バックホーム!」


「ちくしょう!間に合わない!」


「早く走れ!走れ!勝つんだ!」


みんなが大声で騒いでいるのが遠く、エコーのようにとても遠く聞こえてきた。

指先を見下ろすと、ぬるぬるした血が少しついている。この血で滑ったんだ、ほんの少しズレた制球が…


「…終わった。」


試合を終えた。

我々の負けで。

口元から一筋の血がぽろぽろと流れ落ちた。



***



チーン, チーン, チーン, チーン


教会の鐘の音がやがて朝の訪れを告げながら街中に広がっていく。

その鐘音に救われるように、ベッドの上に座った姿勢のまま横になっていた体を起こした。夜明けの頃に目が覚めたと思ったが、いつの間にかまた眠ってしまったようだ。

窓から強烈な朝日が差し込んでくる。嫌な悪夢に彩られて、特に長かった夜はいつの間にか痕跡もなく消えていた。

髪を手でかきあげた。手のひらにいっぱいたまっている汗が、昨夜一晩中私を苦しめた夢の時間が嘘ではなかったことを知らせていた。


「あと一つ···あと一つ···」


夢の残響が残っているのだろうか。口の中にはまだ「あと一つ」が響いていた。

部屋の隅に視線を投げた。そこに置かれているのはヘッドからノブまで一つの鉄の塊でできている一本のバットが朝日を受けて無機質な金属の光を吹き出していた。


お父さん。お父さんの教えで、この息子は毎日を生きています。


窓を開けた。

パアッと日差しの熱気と露を含んだ空気が同時に顔に吹きつける。 続いて聞こえてくる賑やかな、一日の始まりの音。窓の下に広がる光景は。


双剣を背中に背負い、大通りを歩く鋭い目つきの戦士。

灰色のローブを羽織って早足でどこかに向かうモンク。

街のあちこちを丸くした目で眺めるみすぼらしい身なりの流民。

そして深緑のマントを羽織り背中に弓をつけた黒髪ストレートロングの美女。


イベント会場でもない限り、日本では見ることのできない風景。

しかし、これが今は私の日常だ。

ストレートロングの美女が私の視線を感じてこちらを振り向く。

黒曜石のように輝く純黒の瞳。落ち着いてるように見えても、いつ爆発してもおかしくない凶暴さを秘めたヒョウのような目だ。

何だかいつもより少し怒っているような気がしますけど?


宝地ほうじ、いま起きたんですか? 相変わらず朝が遅いですね。」


「おはよう。 今すぐ準備して行くよ。」


ささやかな溜息が含めているドライな口振りを聞いて、私はわざと明るい声で挨拶をする。


「今日は辺境伯が自ら訓練の世話をする日なので、早く準備したほうがいいですわ。」


「ゲエ、わかった!」


ここはバレンブルク市。


ゼロガム王国の辺境伯領であるバレンブルク州の州都である。剣と魔法と殿様がいる、絵に描いたようなファンタジー世界。


私の名前は足原あしはら宝地ほうじ


わけも分からないまま異次元アウェイ世界グラウンドで日々を過ごしている、日本から来た高校生…いや、元高校生。







―――――――――――――――――――――

はじめまして。お読みいただいて、誠にありがとうございます。

皆様にこの作品を読んで『良い物語だった』と思っていただけるように頑張ります。

ご指摘はいつも歓迎しますのでコメントでたくさんご指導お願いいたします。

では、宝地と一緒に異世界の冒険を楽しいんでください。

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