7 再会(3)



「愛梨は? 朋子とか、修二とかとは会ってたりすんの? ……って、覚えてないんだったっけ」


 優樹は、質問をしてすぐ、しまったという風に表情を曇らせた。私の記憶があやふやだということを、思い出したのだろう。


 しかし、それよりも。

 友達だったのだから、当然と言えば当然なのだが……優樹の口から二人の名前が出て、私の心はまた急激に冷えてしまう。


 タイムリープ直前の、海浜公園。

 朋子に指輪を差し出し、幸せそうに微笑む修二。


 そして、私の視線に気付いた上で、自分こそが愛されていると見せつけるような、朋子の行動。あの笑顔。


 ――私と修二が恋人同士だったなんて、どうして勘違いしてしまったのだろう。

 ……いや、今でも、まだ信じられない。

 同窓会で再会して、食事や映画に誘われるようになって、二人で会っているうちに手を繋いで歩いたり、触れるだけのキスをしたり……。


 けれど、よくよく考えたら、修二から「付き合って」という言葉はもらったけれど、「好き」という言葉は、はっきりとは聞いたことがなかった。

 ――「付き合う」には、恋愛的なことではなく、一時的な意味だってあるではないか。


 結婚の話だって、「愛梨、結婚しよう」と言われたのではなく、「結婚したい」と言っていただけ。

 朋子と交わしていたような深いキスだってしたことはないし、身体だって綺麗なまま。触れるだけのキス……修二にとっては、挨拶のようなものだったのかもしれない。


 ……やはり、私が一人で舞い上がって、勝手に恋人同士だと思い込んでいただけなのだろう。

 修二にとっては、私は単なる遊び相手。そして、彼の行動を、本命の朋子も知っていて……朋子の怒りと憎しみはきっと、修二ではなく私に向いたのだ。それで、私にマウントを取って、満足して笑ったのだろう。


 ――知らなかったのは、私だけなのだ。


 修二は、人をその気にさせるのが上手だった。私がいないとダメだと、巧みに思わせるのだ。

 お金を返してくれない割に、彼はハイブランドの服やバッグを持っていることもあった。もしかしたら、私の他にも、遊び相手がいたのかもしれない。


 修二が恋人だと勘違いしていたのと同じように、朋子が親友だと思っていたのも、私だけだったのだろうか。

 ――いや、朋子の心情を思うと、絶交されても文句は言えない。むしろ、恨まれ、憎まれて当たり前だ。

 あの時間軸のままだったら、謝って許しを乞うべきだったのだろうが……この時間軸では、まだ何も起きていない。

 けれど、だからと言って、朋子と積極的に関わろうという気にはならなかった。謝ることもできないし、一人密かに罪悪感と自己嫌悪に苛まれることは、明らかだから。


「……愛梨、ごめん。嫌なこと聞いちゃった……よな」


 申し訳なさそうに呟く優樹の声を聞いて、私ははっとした。

 修二と朋子のことを思い出して、また一人で考えに耽ってしまっていたようだ。

 どうやら、私は、まだ立ち直れていないらしい。


「ごめん、優樹が目の前にいるのに。優樹は何にも悪くないし、関係ないのに……」

「愛梨……」


 私は明るく取り繕うのをもう諦めて、顔をうつむけた。

 優樹は、心配そうにしながらも、私の言葉を待ってくれている。


「私……もう、修二とも朋子とも会わないよ」

「……そっか。二人と、何かあったんだな」


 優樹は、私の頭にぽん、と手をのせる。

 幼子をあやすように、ゆっくり、やさしく、私の頭を撫でてくれた。


「何があったのかは、聞かないよ。でもさ、辛いことがあったら……いつでも俺を頼って」

「……うん……、ありがと、優樹」


 私は、優樹のやさしさが詰まったその言葉に、思わず涙が溢れてきてしまった。

 優樹は、黙ってハンカチを差し出すと、再び私の頭を撫でてくれた。

 私が泣き止むまで、ずっと。

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