ミシェルの愛

ビョルンはその夜、ミシェルが子供達を寝かしつけているタイミングを見計らっては3番整備工場跡に来ては奥の部屋でこのHARBT(ハービット)を組み上げていた。


大型カプセル型の操縦デバイスに寝込んで意識を機体に移して操縦する現代のHARBTからすれば珍しい、そのまま直接乗り込んで操縦する有人型HARBT。


昼間、使えそうなパーツをミシェル達にバレないようにこっそりとこの整備工場へと持ち込み少しずつ着実に組み上げていき、後もう少しで完成のところまできていたのだ。


ミシェルには何も伝えてはいない。


伝えればHARBTを組み上げ出る事に対してきっと猛反対する。だから完成すれば静かにこれを持ち出して子供達をミシェルに託して姿を消して、一人で帝国軍に立ち向かう。


それが四年前、この廃工場の奥で未完成状態で眠っていたこの機体を見つけてから進めていたビョルンの計画であった。


(あともう少しで完成する、帝国奴らに復讐するための力が、待っててくれ、父さん……みんな…)


ビョルンが作業に取り掛かる。


外装はほとんど完成状態にある。あとはコックピットの調整をすれば完成である。


しかし一つ気がかりな事があった。


コックピットの座席の後ろに大きな丸いパーツ。中心部VAVELと書かれた代物だ。


(何か特殊なパーツのようだが……一体なんなんだ?………)





本日の作業終了後ビョルンは完成寸前のHARBTを眺めながら水筒の水を飲み干す。


(結局何にも分からないまま、完成一歩手前まで来たな)


外装のフレームは完璧、コックピットの調整も片付いた。しかし完成まではまだパーツが足りない、これではまだ未完成だ。


「明日、工場の周辺を探してみるか、もしかしたら見つかるかもしれないし」


「何が見つかるかもなの?…ビョルン…」


「!?」


ビョルンは扉の方向を視線をやる。そこにいるはずないミシェルが驚愕めいた表情でビョルンを見つめていた。


「ミシェル!?なんでここに!?」


「質問を質問で返さないで!!」


ミシェルはビョルンを睨みつけ詰め寄る。普段穏やかなミシェルが初めて見せる表情にビョルンは戸惑いを隠せない。


「ここは何!?あのHARBTはなんなの!?」


「…………………………」


「答えてよビョルン!!!!」


ミシェルは何も言わないビョルンの右頬に平手打ちをかました。ビョルンの思考が一瞬止まる。


初めてだった。普段は温厚なミシェルがここまで激昂したのは、


「悪い………ミシェル……」


「謝ってなんかほしくない……ただ僕はビョルンがここで何をしてたか知りたい……」.


気まずい不安な空気が部屋に漂い始める。


「…………分かった……話すよ……」


ビョルンは意を決してミシェルに全てを打ち明けた。



「…………………」


全てを話し終えるとミシェルは下に俯き何も話さなくなった。気まずい空気が数分流れたのちにミシェルはようやく口を開く。


「ビョルンがここを出ていった後、僕たちの事はどうするつもりだったの?」


「………前にドローンでここから数十キロ離れた所に廃墟を見つけた…多分誰もいない…あそこならここより安全に過ごせるはずだ……あいつらの事は……悪い、お前に任せるとしか言えねぇ……」


「ビョルはそれでいいの?僕やみんなと離れ離れになっても平気なわけ?ヨナ、物心着いた頃にはビョルンの事覚えてないよ?」


「平気な訳ねぇだろ!?でもだからってお前やあいつらを……俺個人の勝手な復讐に巻き込むわけにはいかねぇだろ!」


「一人で抱え込まないでって言ってるの!!!」


ミシェルはビョルンを真正面から抱きしめた。ミシェルに抱き着かれた瞬間、ミルクのような甘い香りと豊かな胸の感触がビョルンの身体を包み込む。


「ミシェル、お前、今女に?」


「そんなの今関係ないでしょ!バカ!!」


ミシェルの頬に一筋の涙が流れ抱き締める力が痛いくらいに増していく。しかし、ミシェルがどれだけビョルンの事を想ってくれているのかが伝わっていく。


「なんで一人で抱え込むの!?僕たちみんな家族でしょ!?」


「…………悪い……」


暫くの間、沈黙が続くも次の瞬間、ミシェルはとんでもない行動に出た。


「…………んっ♡……」


ミシェルはビョルンの唇に自らの唇を重ねたのだ。強引で、だけど何処となく優しさを含んだキス。


ミシェルが唇を離せばお互いの銀色の橋が架かる。


「これが僕の覚悟と気持ちだよ……」


「ミシェル……お前…」


「僕は何があってもビョルンに何処までもついて行く。あの子達の事も全力で守る。それじゃあダメ?」


「本当にいいのか?……俺なんかのために付いてきてくれて……」


「何度も言わせないでよ……バカ……」


再び唇を重ねる二人、不器用ながら、でも確かに感じるミシェルの自分への愛情を唇越しに感じるビョルンはミシェルを抱き寄せ優しく抱きしめる。


そして、ミシェルを、子供達を、何が何でも守らなければならない。そう改めて決意したのだ。



その一方で、ゲットー監視施設では、ゲットー西側の管轄の監視を任されている帝国貴族の一人。


ジェシナード・フォン・ヤカリントスが自身の部屋で裸の女達とまぐわいながら監視モニターをながめていた。


(近頃は、レジスタンスネズミ共の動きが全くない)


こうしてモニターを眺めて監視する仕事は退屈で仕方ない。


気に入った女を取っ替え引っ替えし、玩具のように弄んだ後、飽きたらゴミのように捨てる。


毎日、毎日そんな事の繰り返し。そろそろ女を抱くのも飽きてきた。


そんな頃だった。


モニターの一つに下民の少年二人が、数年前に倒産した、マックスウェルインダストリーのHARBT製造工場に入り浸っている映像が偶然映ったのだった。


(これは……久々の退屈しのぎになりそうだ……)


ジェシナードは恍惚な笑みを浮かべなが、最後の女を弄ぶ

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