機動幻想戦機

神無月ナデシコ

第1章 閃血の復讐者《アヴェンジ》

寄宿舎の子供達

 ◇


「父さん!!!嫌だ!!行かないで父さん!!」


「ビョルン!!お前は逃げろ!!逃げて生き延び…」


 幼いビョルン・アキヅキの目の前で養父のセルゲイが長距離ミサイルの弾頭にやられ、身体がバラバラに散っていった。


 ビョルンはただただ呆然としていた。


 えっ?今何が起こったんだ?この目の前の肉塊は誰のだ?っと。


 セルゲイの頭の亡骸を抱えてセルゲイが死んだことを理解すると彼は、


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 高らかに泣き叫んだ。


 この日、セルゲイ・アキヅキをリーダーとするレジスタンス組織「ケルベロス」はヴァルキューレ帝国軍の大規模HARBTハービット大隊により壊滅へと追いやられたのだ。


 ビョルンは押し寄せてくる帝国製HARBT、M2-ドレッドS型の軍勢を睨みつけ、誓った。


(殺す………殺してやる……あいつら全員……皆殺しにしてやる!!!!!!!!!)


 ◇


 剣と魔法の世界、そんな幻想は独裁国家ヴァルキューレ帝国が対魔導兵器を開発した事により打ち砕かれた。


 リストニア大陸に位置する機械技術に長け、身分至上主義のこの国家は、他国を圧倒的に凌駕する軍事力、強襲用人型機動兵器「HARBT(ハービット)」の開発に成功し、大陸の7割を侵略、占領下に収めた。


 占領下となった現地民は下民(ノーメイク)と呼称され貴族(ティアラー)、王族(エンプレス)と呼ばれるヴァルキューレの社会優遇地位者達から圧政を強いられ、虐げられ、支配される存在となった。


 圧政に耐えきれなくなった下民達の中には各地で対抗組織(レジスタンス)を結成し対抗していくも、戦力差でヴァルキューレ軍に圧倒され多くの組織が壊滅へと追いやられていき。


 そして今なお現在、ヴァルキューレ帝国による王族と貴族による下民への圧政は継続されていたのであった。


 リストニア大陸のヴァルキューレ帝国のライネル領の首都ガリアルは領主、サルサージュ・フォン・ライネルが統治する帝国随一の商業首都。


 ガリアル城を中心とした上層、貴族街の中層、名誉貴族(セミティアラー)が住む下層によって貧富の差がある。


 中でも最下層の地下空間(ジオフロント)


 巨大な都市ほどの大きさがあるこの区画は下民(ノーメイク)達の強制収容区域、通称「アンダーゲットー」と呼ばれ、人間や亜人種を含む様々な下民(ノーメイク)たちが収容されていた。


 ◇


 8年後、ガリアルアンダーゲットー工業地区ゴミ処理施設跡。



 金髪の少年と銀髪の少年がゴミ捨て場からゴミを漁っていた。


 どちらも中性的な顔立ちの美少年だが、金髪の少年、ビョルン・アキヅキは銀髪の少年、ミシェル・カミィラとは比べ物にならない程の美しすぎる美貌を持っている。


「ねぇビョルン、このパーツはどう?」


 ミシェルがビョルンに資材ゴミ置き場から見つけた回路基盤を見せる。


 ビョルンは基盤を手にしてじっくり観察するも、


「ダメだな、制御系チップが全部焼け焦げてる。使い物になんねぇよ」


 その場で舌打ちをしながら基盤をゴミの山に投げ捨てた。


「やっぱりか、もうこの辺りじゃまともなパーツが見つからないね」


「だな、いっその事大破したHARBTの残骸でも上から落ちてきてくれりゃいいんだがな」


 ビョルンは頭上のジオフロントの天井、固く閉ざされた鋼鉄の壁を憎たらしく眺め、


「俺たちがこうして虐げられてるにも関わらずは優雅に暮らしてるんだろうな、忌々しいぜ」


 と言い放った。現に今尚地上での亜人や下民への圧政は続いている。


「僕みたいな亜人との混血やビョルンみたいな無国籍者は絶対に上層へは行けない、一生ここで惨めに生きていくしかないのかな」


「何弱音吐いたんだよミシェル、俺は絶対この腐った帝国をぶっ潰してやる!こんな所で犬死なんてごめんだね」


 ミシェルはビョルンの顔を心配そうに覗き込んむ。


「まだ、セルゲイさん達の…….レジスタンスの事を気にしてるの?」


「…………当たり前だろ……忘れるもんかよ……」


「ねぇ、こんな事言っても気休めくらいしかならないけど……壊滅したのはビョルンの責任じゃないからね……」


「………ありがとよ兄弟……」


 ミシェルに笑いかけ肩に手をやるビョルン。


「そろそろ戻ろっか、子供達が待ってるし」


「だな、明日には他の場所も探してみようぜ」


 二人は近くに駐車してあるビョルンがレストアしたオンボロのジープに乗ってその場を後にする。


 ◇


 レジスタンス「ケルベロス」の壊滅後、ビョルンは幼馴染みのミシェルと共に王都ガリアルのアンダーゲットーへと身を潜め、現在では工業地区の廃工場の寄宿舎跡に親を失った孤児5人を匿って暮らしている。


『マクスウェルインダストリー』


 大手の軍事企業メーカーで主にHARBTの製造においては業界No.1。しかし、数年前に格レジスタンス組織にHARBTをはじめとした軍備品を売り込んでいた事が発覚し数年前に現皇帝の命令によって従業員を全員処刑、倒産に追い込まれた。


 この事がきっかけでアンダーゲットーで活躍していた多くのレジスタンス組織は大打撃を打ったのだ。


 倒産後は理由は不明はだが、かろうじて施設内の備品はそのままにされておりビョルン達はそこに移り住み、ゴミ処理施設跡で使用可能なパーツを漁っては闇市で売って日銭を稼いでなんとか生き延びていた。


 ◇


「ただいまぁー!!、皆んないい子にしてた!?」


 ミシェルが寄宿舎の扉を開けると奥の部屋から亜人種を含んだ5人の子供達ビョルンとミシェルの前に集まった。


「おかえり!ビョルン兄ちゃん!ミシェル兄ちゃん!」


 赤髪の10歳の少年リンク


「お土産何かある!?」


 獣人の8歳の少女、ヴェル


「ミシェル兄ちゃん、腹減った」


 9歳の膨よかな体格のオークのチャップ


「…………………………」


 無口な7歳エルフ少女、メアリ


「あぁぁ、うぅぅぅ」


 メアリが抱いている2歳の赤ん坊のヨナ


 全員元は親を戦争で亡くして闇市の奴隷市場で人身売買の商品として売られていた孤児たち。


 リンクとチャップは労働用の家畜奴隷、ヴェルとメアリは愛玩用の性奴隷、ヨナは研究施設の人体実験用の被検体(モルモット)として売られていたのだ。


 そんな彼らの境遇に腑が煮え繰り返ったビョルンが奴隷商人達を全員殺害してここに連れてきて二人で育てている。


「はいはい皆んな、すぐにご飯の用意するからもう少し待っててね」


 ミシェルがメアリからヨナを受け取り抱き抱えあやしながや食堂の方へと向かう。


「ビョルン兄ちゃんも、早く行こうよ」


 リンクがビョルンの手を引いて食堂へと誘う。


「分かったから引っ張んなよリンク」


 ビョルンはそんな子供達との触れ合いにも温かみを感じたのだった。


 ◇


「んで?今日もインスタントヌードルかよ」


 食堂で子供達やビョルンの前に出されたのは寄宿舎の倉庫の備品から見つけたカップの麺状のインスタント食品であった。


「嫌なら食べなくてもいいんだよ?」


「いや食うけどさ、流石に飽きたというか」


「贅沢いわない、僕はトマト味にするけどビョルンは?」


「………カレーヌードル……」


「ホント、ビョルンカレー好きだよね」


 ミシェルからお湯を注がれたカレーヌードルを渡されるとビョルンはフォークを使ってカレーヌードルをすする。


「もう少し稼げりゃお前らにも肉を食わせてやれるんだけどな」


「「「「お肉!!!???」」」」


 4人の目が輝くも、


「そんなお金ありません」


 ミシェルの一言でビョルンと子供達はガックリと肩を落とす。


「ビョルン兄ちゃんって毎回カレーだよね」


 チャップがビョルンの隣に座りカレーヌードルを眺める。


「やらねぇぞチャップ」


「いや要らないよ、というよりカレーが好きなの?」


「まぁな、昔レジスタンスにいた頃の軍用レーションのカレーがめちゃくちゃ美味くてな、それで好きになった」


「ふ~ん」とチャップは自身の席に戻り自分のシーフードヌードルをすする。


 ビョルン達が食べ終わる頃に、ヨナが愚図り始めた。ヨナだけまだ食事をしていない、がこのアンダーゲットーでは牛乳を始めとする乳製品は貴重でましてや粉ミルクなんて物はなかなか入手できない。


「あぁ、ごめんねヨナ、今お乳あげるからね」


 ミシェルはヨナを抱き抱えると目を閉じて瞑想に入る。


 すると徐々にミシェルの体が光出していく。そし腰つきが華奢になり女特有の部分が膨よかになる。


 今現在ミシェルはのだ。淫魔(いんま)との混血のミシェルは自身の能力で性別を変える事ができる。普段は男(インキュバス)の姿だがヨナに食事を与える際にはこうして女(サキュバス )の姿となる。


「はいヨナ、いっぱい飲むんだよ」


 ミシェルは衣服をはだけ豊満な胸を露わにし左の胸の先端をヨナの口元へと持っていき口に含ませる。


 コクコクとヨナに自身の母乳を飲ませるミシェルの姿はまるで若過ぎる母親の様に見えるとビョルンは思ったのだ。


「何見てるの?いやらしい……」


「なっ、なんでもねぇよ」


 ジト目でビョルンを睨みつけるミシェル、ビョルンは咄嗟に目を逸らした。


 しかし、そんな言葉とは裏腹にビョルンの下半身は昂っていたのだった。


(クソッタレ……)


 ◇


 ミシェルが子供達にシャワーを浴びさせて寝かしつけている間、ビョルンは施設内のある場所へと向かっていった。


 そこはミシェルすら知らないビョルンだけの秘密の場所である。


 廃棄された3番整備工場、その中の暗い道をライトで進んでいくと一番奥の小さな、しかしとても頑丈なドアロック式の扉。


 ビョルンはパネルの数字ボタンを操作し8桁の暗証番号を入力する。


 扉のロックが解除されたこと確認すると周囲を見渡し誰も見ていないことを確認すると中へと入っていく。そして扉を閉め入ってすぐのスイッチを入れると天井の照明がつく。


「コイツももうすぐ…完成か……」


 ビョルンの目の前にあったのは全高10m前後の機械仕掛けの巨人。


 赤と白の色をした未完成状態のHARBTが横たわっていたのだった。

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