襲撃、そして、アヴェンジ起動
「………………………」
「………………………」
………気まずい……。
朝食の最中、ビョルンとミシェルはお互いに目が合いながらも昨日の事を思い出しながら顔を赤くしお互い視線を逸らす。
「ねぇ、ビョルン兄ちゃん、ミシェル姉ちゃんとなんかあったのか?」
リンクがビョルンの顔を覗き込んできた、そんなリンクをビョルンは頭を撫でながら「なんでもねぇよ」とはぐらかす。
無理もない、昨日のキス以来お互いに異性として意識してしまったのだから、ミシェルもあのあと女として生きる事を決め、性別を女にしたままだ。
(さて……どうしたものかな……)
ビョルンは困惑していた。つい昨日までミシェルの事は付き合いの長い男友達、兄弟同然のような感じだったのに。
「ねぇ、ビョルン」
「なっ……なんだ?」
「昨日の事なんだけど……」
ミシェルの方から何か言いかけた。その時だった。
ドゴォォォンンンン!!!
突然となか建物が揺れ始める。
「何!?」
ミシェルは怯える子供を抱き寄せる。
「まさか」とビョルンは食堂近くの監視モニターをチェックする。そこにはに無数の帝国製のHARBT(ハービット)、ドレッド-T型が5機、中央にはそれを操作する操縦カプセルを詰んだ装甲車が工場跡地の門前で待機していた。
(やっぱりか……ジェシナード・フォン・ヤカリントス……あの腐れ外道が……)
◇
「ゲットーの廃工場に住み着く寄生虫どもに告ぐ!貴様らは完全に包囲されている!!速やかに投降せよ!!」
ドレッドの口部の音声マイクから野太い声がゲットーに響く。
「我らが主人、ジェシナード様は大変ご立腹である!!速やかに投降しなければ敷地内諸共砲撃する!!」
装甲車内にはこのゲットー第三区画の領主ことジェシナードが高級そうな椅子にあぐらをかき、裸の女奴隷達をはべらせていた。その顔は卑しく歪めている。
(あの小娘……おおかたサキュバスであろうな……どのようにして可愛がってやろうか……他のガキ共も我の性処理道具(オモチャ)として調教してやろうぞ……フハハハハハハハハハハ!!!!)
自身が管理している敷地内にビョルン達が住み着いている事に関してはまったく気にせず、ただただ自分のありふれる性欲の捌け口となる玩具が手に入る事に身を昂らせる。
この男は自分の性欲のためならいかなる非道な手段も問わない、人間の形をしたケダモノのような男なのだ。
◇
「くそ!!」
ビョルンはモニター付近を叩く。今まで監視の目を掻い潜ってここに住み着いていたがついにバレてしまった。ヤツらに目をつけられた以上、もうここにはいられない。
「ミシェル!!ガキ達を連れて地下のガレージに向かえ」
「えっ?」
「あそこに大型のジープがあっただろ、座標を送るからそこに向かって全速力で逃げろ」
「……ビョルンはどうするの?」
「お前らが逃げる間の時間を稼ぐ」
ビョルンは昨日のHARBT格納場所に向かおうとするが、ミシェルにより引き止められる。
「ビョルン!!まさかアレを使う気!?まだ未完成でしょ!?」
「あとはオートバランサーの調整だけだ!!武装は無いがやるしかないだろ!」
「そんな!!危険すぎるよ!!あんなのいいからビョルンも逃げよう!!」
「いいから言う通りに!!」「嫌だよ!!!!」
ミシェルの叫びが谺する。
「もう嫌だよ……ビョルンが……大切な人がこれ以上いなくなるのは……」
その目には大粒の涙を流しビョルンの服を握る手を強める。ミシェルは数年前のレジスタンス壊滅時に親代わりだった多くの人を失った。もう誰も失いたくない、そんなミシェルの想いがビョルンに伝わる。
「ミシェル……」
ビョルンはミシェルを抱き寄せ、優しく抱きしめる。まるで不安になる恋人を安心させるかのように。
「悪い……でも俺はお前もチビ達も守りたいんだ……それだけは分かってくれ……」
「ビョルン……」
「心配するな、俺は死なない……生きて必ずお前達を追いかける……約束する…」
ビョルンがそう言った瞬間、ミシェルはビョルンの唇に自らの唇を重ねる。
甘い香りがビョルンの鼻をかける。唇を離すと銀色の糸がツーっと掛かり。
「死んだら一生恨むからね」
「分かってる」
「絶対生きて帰ってきてよ!!」
首を縦に振ったビョルンは大急ぎでHARBT格納庫へと向かう。そんなビョルンの背中を見送ったミシェルは、
「さぁみんな!!ここから逃げるよ!!急いで!!」
リンク達を連れて地下のガレージへと向かったのであった。ビョルンの生還を祈って。
◇
ビョルンは格納庫に入るとHARBTの胸部のコックピットハッチまで軽やかに飛び移り、ハッチの右側にあるハッチ開閉グリップを回す。
すると胸部のハッチが解放されマクスウェル社製有人型HARBT特有のコックピットブロックが露になる。
ビョルンは颯爽とコックピットシートに座り込むと近くのタッチパネル型モニターをタッチして操作。
ハッチは閉鎖されコックピットのモニターがセッティングモードとなる。
ビョルンはタッチパネルを操作してオートバランサーの調整を始める。
『OSチェック、油圧チェック、機体パラメータチェック、システムオールグリーン、NS-3 アヴェンジ起動シーケンス開始』
機体のガイダンス音声と共にモニターに機体名「AVENGE」が表示される。
「ア……ヴェンジ……」
それがこの機体の名前か、2年間機体名を知らず組み上げてきたビョルンは初めて知る機体の名前に親近感を覚える。
「復讐者」の意味を持つ名前、帝国に復讐を誓っている今の自分にピッタリではないかと。
『イメージトレーススタンバイ、操縦桿(コントロールグリップ)を握ってください』
ガイダンスがそう告げビョルンは両手でそれぞれ左右にある操縦桿を握る。その時不思議に思った。この操縦桿にはボタンが付いていない?このままじゃただの把手だ。いったいどのようにして機体を操作するのか……
そんな時、体の腕、足、腰やらが急に各場所から出現した拘束具でパイロットシートに固定されてしまう。
「なんだ!?何が起こった!?」
『パイロットの脳波とリンクします。リンク開始』
その刹那な、ビョルンは自分の意識が薄れていく事に気がついた。まさかこんな時に急激な眠気?何考えてるんだ?こんな状況で眠るわけには……
だが虚しくもビョルンの意識はその場で途切れてしまったのだ。
◇
『パイロットの意識を機体に譲渡します』
ビョルンの意識が覚醒した。そこには格納庫の天井が見えた。自分は仰向けに眠っていた事に気がつきビョルンは起きあがろうとする。
が、その時、ある事に気がつく。そう、視線が普段より高くなっている。
いったい何がどうなってるんだ?そう思ったビョルンは意識が覚醒した時に聞いた先程のガイダンス音声を思い出す。
「機体に意識を状態?……まさか!?……」
もしやと思い自分の右手を見る。そこにあったのは普段見慣れている自分の腕では無い、
ビョルンは確信した。この機体はコックピットそのものが意識を譲渡するための装置となっており他のHARBTと大して変わらないのだ。
ただ、カプセルの遠隔操作で意識を移すか、機体に乗り込んで意識を移すかの違いであって。
身体を動かすように操作できる事がわかったビョルンはその場で起き上がるようにHARBTの身体を動かしていく。
「さぁ、復讐開始だ」
ビョルンはそのまま真上に向かってジャンプし、天井を突き抜け、敵の待つ外へと出ていったのだ。
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