第13話純粋
自分の背中に自分のおっぱいをくっつけながら歩いていないと、寂しくなるのかを試していた鮪と鮪。
息を合わせてたどり着いた自動販売機で、ジャコ天が売られていることに気がつくのであった。
「宇和島が近いんだなぁ」
あいにくタオル札未対応機のため、手元の日本円を使うか迷っていると、進行予定の方向から何やら光が近づいてきた。
「あの!」
光の主である自転車に乗っていた人物は、長い前髪で鮪と鮪には顔はよく見えなかったが地元の学生のようで、学校名の入ったジャージを着ている少女であった。
「「うわーっと!宇和島をみた」!「うわーっと!宇和島をみた」!」
目隠れっ子は鮪と鮪に、そう一心不乱に声をかけた。しかし、「何を言っているのかわからない」といった鮪と鮪の反応を見て、たどたどしいながらも説明をはじめた。
「夕方の!ニュース!野相撲!わたしと!して下さい!」
「あー、昼の取材のやつか。夕方の放送だったんだ。え?相撲とりたくて夕方から私と私のこと探してたの?自転車飛ばして?」
頷いて応える目隠れっ子。
「「うわーっと!宇和島をみた」!「うわーっと!宇和島をみた」!」
「別に、キーワード言ったら安くなるキャンペーンとかしてないけど、さ」
鮪もそんな目隠れっ子に応えることにしたらしく、腰落として構えをとった。
「それでもいいなら、来なよ」
スタンドも立てずに手放された自転車は、音を立てて倒れた。
ハッケヨイの言葉もなく、二人の体はぶつかり合った。
「強いね」
「お姉さんも」
土俵も描かずに始まった尋常の勝負は、両者倒れ込んで終了となった。
息も絶え絶えに、二人の掛け合いは続く。
「相撲部なの?」
「学校に相撲部は無くって、お相撲好きって友達とかにも内緒にしてて。だから夕方のニュースで、お姉さんを見つければお相撲が出来るって知って、わたし居ても立っても居られなくなって」
「そうなんだ。なんか日銭のために相撲取ってて申し訳ないなぁ」
「あっお金!」
「気持ちでいいよ」
「持って来てなくって…」
「お待たせしました!チャンコです!」
翌朝、精米所で一夜を明かした鮪と鮪の前にあらわれたのは、大きな大きなアルミホイルの包みを抱えた、昨夜の目隠れっ子であった。
アルミホイルの中身は、海苔で全面濃緑になるまで包まれた巨大おにぎりであった。
「鍋かと思った」
「お相撲さんのご飯は、みんなチャンコって呼ぶらしいです!具はジャコ天です!」
やっと辿り着いた中心部では、五枚束のジャコ天が待ち構えていた。
向かう方向が一緒のようなので、目隠れっ子は乗ってきた自転車を押して、途中まで鮪と鮪と一緒に歩くことにした。
「勝つと気持ちいいですけど、強くなりたい訳じゃなくって」
「そうなんだ」
だんだんと目隠れっ子と同じ制服姿も増えてきて、皆一様にこの先にある左の道へと曲がって行った。
「ここまでですね。このまま大きな道を道なりに進むと、宇和島市、愛南町、高知県の宿毛市に出るらしいです。わたしは行ったことないんですけど」
「そうなんだ。おにぎり、朝からありがとうね」
「いえ、お代の代わりなんで」
「取っとく?」
「…周りの目があるん、で!?」
返事を待たずに、鮪は目隠れっ子に飛びかかった。
「こういうの、別れのハグっていうんじゃないですか?」
「アナタは今、みんなの前で相撲を取ってる。私に土つけちゃいなよ」
二人は互いの腰に手を回し、その手がどちらともなく離れたら、何も言わずに道を別つのだった。
「ねぇ、鯛波さん。朝抱き合ってたお姉さん誰?」
「え!?抱き合って、え!?」
「ほら、バス停の角のところで」
「あっあれね?あれは違くて、お相撲取っててね?」
「えー?苦しいなー」
「本当本当!なんなら再現するから、ちょとわたしと取ってみようか?」
「いや、取らんけども」
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