第12話寂しさよ何処から

 野相撲で集まった資金が8,432円に達した頃、日は沈みはじめ、海岸に吹く風は冷えだした。

「行こっか」

 鮪は鮪をともなって、海岸線を歩き始めた。後ろを歩く鮪がたずねた。

「竹馬はそっちじゃないよ?」

 前を行く鮪がこたえる。

「ここまで来た記念に刺しておこうかなって。取れないし」

「そっか」

「このまま一緒?」

「うん」

「そっか」

「そう」

「帰ろう」

「うん」

 折り返しに入った鮪の自分探しの旅。

 どこからやって来たのかわからない寂しさに包まれて、鮪と鮪は四国を反時計回りし始めた。


「おっぱいが遠いせいだと思う」

 夜の海岸沿いの県道で見つけた精米所の前に座り込み、鮪と鮪は野営前の談笑を始めた。

「おっぱいに限らず、私と私は同一人物同士なワケだから、離れて歩いていたら寂しいのは当然じゃない?」

 二人は「この寂しさはどこから来たのか」について話していた。

「竹馬に乗ってた時はさ、いっつも私のおっぱいが私の背中に当たってたわけじゃない?でも今歩きの旅になったからそれがないワケ。イコール寂しい」

「じゃあ引っ付いて歩けば寂しくなくなるのかな?」

「行けるかな。同一人物同士なワケだし。引っ付いた状態で同時に足を同じ角度で動かし続ければ、踏んづけたりぶつけたりはしないはずだよね?」

「理論上は」


 ためしに、鮪と鮪は100m先で光っている自動販売機まで、前後で引っ付いたまま歩いてみることにした。

 結果は当然、後ろの鮪のおっぱいと前の鮪の背中以外が接触することはなく、無事に自動販売機の前までたどり着いた。

「当たり前か。同一人物同士だし」

「どうだった?」

「楽しかったよ。寂しさの正体はおっぱいとの距離だったよ。私はどうだった?」

「楽しかったけど、おっぱい以外が前の私に接触せず歩けた達成感から来る喜びが、寂しさを払拭したからかもしれない。おっぱいを当てていたから楽しかったのかはわからない」

「そっかー。他に自分のおっぱい背中に当てて歩いたことある人に、寂しくなった瞬間がいつか聞ければなー」

「それと」

「なに?」

「なにを言おうとしているかは、なんとなくわかっていると思う。同一人物同士なので」

「あー、気づいた?」

「気づいた。今までは私が竹馬を操縦してたから私が荷物を背負っていたけど、徒歩の旅だと私ばかりか荷物を背負うのは公平ではない。同一人物同士といえど」

「バレたか。私も気づいてた。さすが同一人物同士」


 明日は鮪の方の鮪が、荷物を背負っておっぱいを押し付けてみることになった。

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