第10話いかだ磯

 朝。竹馬は変わらず岩場に刺さったままであった。


 鮪と鮪の姿に戻った鮪が竹馬の上で途方に暮れていると、何やら海上から近付いてくるコンビニ影があった。

「海上コンビニだ!」

 昨夜から何も食べていなかった鮪と鮪は、これ幸いと海上コンビニに飛び移った。

「急いで!食べたい物とりあえずカゴに入れていって!」

 海上コンビニが珍しいのか、店内をウロウロしている鮪を鮪が急かす。

 竹馬が刺さっている場所は寄港地ではないので、航行中の海上コンビニに長居すればするほど帰りが遠くなるのである。


 すぐ食べる物に、保存が効く物。ウロウロしている鮪の分もカゴに手早く詰めてレジカウンターに置き、いざ会計と財布を取り出すと、店員に思ってもみなかった言葉をかけられた。

「お代は既に頂いております」

 狐に摘まれた鮪であったが、考えている時間が惜しかったので、ビニール袋に詰めてくれていた商品をつかみ急いで店を後にした。


 焦って出たものの、竹馬は海上コンビニのすぐ横に変わらず突き刺さっていた。

 岩場に腰掛け、去り行く海上コンビニに手を振っていた時には「港でもなんでもない岩場に停泊してくれるなんて、親切だなぁ」くらいにしか鮪は思っていなかったが、鮪の手にしていた朝食を目にし、思うところができた。

「鮪、それ刺身?」

「鮪寿司。そう書いてある」

「シャリないじゃん。てゆうか、いつの間にカゴに入れたの?」

「私は入れてない。店の人間が袋詰めをする時に入れていた」


 鮪は振っていた手を下ろした。

 手を振っていたのが残酷な事をしているように思えたのが、思い上がったようで恥ずかしくなったのである。


 海上コンビニは島陰に消えようとしていた。

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