第6話「わたし今日路上ライブする時、さおたんがカステラを立てかけられるとは思ってもみなかった」

 今治の町を散策し、食べ歩きにもってこいの屋台を見つけた鮪。蹴り転がした甲斐もあり、すっかりパンダ臭の抜けたカステラヒッチハイカーをその辺の女子高生フォークデュオに立てかけさせてもらい、名物らしい串物を注文した。

「あらーお客さん観光?」

「自分探しです」

 自分の旅の目的を改めて口に出し、少々照れる鮪に、威勢のいい屋台のおばあさんは続ける。

「あらー、お金はあるの?」

 このSNSで評判が直ちに広がるご時世に、とんでもない質問をしてくるものだと鮪が面をくらっていると、よくされる反応なのか、おばあさんは気にせず続けた。

「今治のお金はあるの?ちゃんと両替しないと」

 聞けば、どうやら今治は独自通貨を採用しているんだそうな。


 親切な屋台のおばあさんから教わった両替所の場所に着くと、聞いていた通りロール状の巨大なタオルがそこにあった。

 先客の観光客らしき人がロールの渦の中央に吸い込まれていったので、鮪も後に続いた。

 寝そべったまま自動でタオルの奥へ奥へと運ばれて行くと、球体状の空間に出た。窓口で用事を済ませたらしい先客は、出てきた渦とは反対の渦に飲み込まれて行った。

「いらっしゃいませ。今治は初めてでしょうか?」

 空いている窓口に着くと、鮪は職員にそんな事を聞かれた。

「自分探しです」

「なるほど。よろしかったらこちらのタオルパンフレットをどうぞ。本日はいかほど両替なさいますか?」


「あらーおかえり」

「ただいま。タオル串焼き四本ね」

 屋台に戻った鮪は、無事に名物らしき物を手に入れた。

 カステラを立てかけさせてもらっていた女子高生フォークデュオにお礼の串焼きを渡すと、お礼のお礼に曲を披露してくれた。お礼のお礼のお礼に、マグロは少額のタオル貨幣をタオルギターケースに入れた。タオル貨幣は最大から最小の額まで全てタオル地なので、財布を薄くしたいという思惑もあった。

 お礼のお礼のお礼のお礼の曲を聴きながら、魚由来の繊維で作られたというタオルの串焼きを、鮪とカステラは頬張った。

 お礼のお礼のお礼のお礼の曲はお礼のお礼の曲よりも叙情的で、鮪は橋桁のことを思い出していた。

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