第3話オシャレすぎ?!使い切れるか?48個のポケット!

 前話までのあらすじ

 自分探しの旅に出て、瀬戸内海を竹馬で歩いていた鮪。

 途中で立ち寄った明石海峡大橋の橋桁で距離感を無視していると、何者かが盛りのついた鳥のようなダンスを交えて話しかけてくるのだった。


 今話の本編

「お嬢さんどなた?ウチに何かご用かしら」

 話しかけてきた人物は、見るからにお金のありそうな身なりをした、鮪よりもやや年上の女性であった。

 全身ポケットだらけのオシャレ過ぎるワンピースが特徴的なお姉さんは、橋桁のことをウチと呼んだ。そのことで、鮪はお姉さんが誰なのかを理解した。

 そんなことを言えるのはこの世で唯一、世界中の橋桁を独占している橋桁財閥の人間しかいないからである。

 これはまずいことになるかと思い、鮪はアンサーダンスを繰り出すも、芸術性の違いからなのか、お姉さんの関心は竹馬にうつってしまった。

「私をコレに乗せて橋桁の周りを一周すれば、無断で立ち入ったことを許しましょう。」


 瀬戸内海は穏やかであった。

 お互い人生初のタンデム竹馬であったが、鮪と橋桁嬢は波に煽られることなく、息を合わせて橋桁の周りを歩いた。

 タンデムに慣れてくると、二人は色々なことを話した。

 鮪は旅に出た経緯を。

 橋桁嬢は家出中であることを。

 鮪は今日泊まる所が決まっていないことを。

 橋桁嬢は、さっきいた橋桁は中が屋敷になっていること。そして空き部屋が充分にあることを。

 もう橋桁をとっくに一周しているのに、どちらも終わりにしようと言い出さないのは何故なのかということを。

 何故竹馬は今、橋桁の中に入る扉に向かっているのかということを。

 この高まる胸音は、どちらのものなのかということを。


 橋桁嬢は、自分にはさびしさを埋める存在が必要であることを話した。

 鮪は、自分でなければならない訳ではないらしい形の隙間に、ひとまず押し込まれてみることにした。

 橋桁の中に入るなり、返事をする口をふさがれたからである。


 毛足の長い立派な玄関マットの上で、混ざり合ったばかりの橋桁嬢と鮪は「鮪のリュックの中の米が無くなるまで橋桁にとどまる」契約を交わした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る