第38話 視点を変える勇気

出版社見学を終えた真一は、新たな目標を胸に、日々の生活にさらに意欲を持って取り組んでいた。本を作る仕事と、それを届ける書店の仕事。そのどちらもが繋がっていることを実感し、自分の役割を少しずつ理解していく中で、ある気づきが真一を動かし始めていた。


店長からの課題


アルバイトの日、店長が真一に新しい課題を与えた。

「真一くん、次のフェアで『視点を変える本』というテーマを作ろうと思ってるんだ。君も一冊、本を選んでみない?」


「視点を変える本……ですか?」

「そう。今の自分の考え方や世界観を広げてくれる本ってあるだろう? お客さんにとってそんな一冊を提案してみてほしい。」


その言葉に、真一は少し悩みながらもうなずいた。


選んだ一冊


自宅に帰り、自分の本棚を眺めながら真一は考えた。これまで読んできた本の中で、自分の考え方や価値観を大きく変えた本はどれだろう。ふと手に取ったのは、かつて学校の図書室で偶然見つけたエッセイ集だった。


「これだ……」

その本には、異なる立場や文化に生きる人々の物語が詰まっていた。読んだとき、自分がいかに狭い世界で物事を見ていたかを痛感させられた記憶がよみがえる。


「この本なら、視点を変えるきっかけになるはずだ。」


真一はノートにメモを取りながら、フェアで伝える言葉を考え始めた。


POPの文章案:

「当たり前だと思っていた世界が、こんなにも広がる。本の中の言葉が、あなたの視点を変えてくれるはずです。」


フェア当日


フェアの日、店内には「視点を変える本」という特設コーナーが作られていた。真一が選んだ本は、店内の中央に目立つように並べられている。その前に立つお客さんを見つけるたびに、真一は少し緊張しながらも期待を感じていた。


一人の女性がその本を手に取り、しばらくPOPを読んでからレジに向かった。レジで真一と目が合うと、彼女は微笑みながら言った。

「この本、すごく気になったので読んでみます。」


「ありがとうございます。きっと新しい発見があると思います。」


そのやり取りが、真一の胸に小さな達成感を与えてくれた。


学校での影響


学校でも、真一の変化は少しずつ周囲に影響を与え始めていた。授業中のディスカッションで、先生が「最近読んだ本について話してみよう」と問いかけたとき、真一は迷わず手を挙げた。


「僕は最近、視点を変える本を選ぶフェアに関わりました。その中で読んだ本が、自分の世界を広げるきっかけになったんです。」


その言葉に、クラスメートたちが興味を示し、話が広がっていった。良平が真一に小声で言った。

「お前、もうクラスの本の先生だな。」


その冗談に真一は笑ったが、自分が少しずつ周囲に影響を与えていることを感じた。


夜空の光


その夜、真一はまた夜空を見上げた。星々の光が静かに輝いているのを見ながら、自分の中にある小さな変化を感じていた。


「視点を変えるって、ただ物事を違う角度から見るだけじゃない。自分の中にある思い込みを壊して、新しい世界を受け入れることなんだ。」


その言葉を心に刻み、真一は新しい一日を迎える準備をした。未来に向けての歩みは続いていく。その一歩一歩が、確かに星たちの光に照らされているように感じられた。

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