第39話 言葉がつなぐもの

夜間高校と書店での日々が重なる中、真一の中で少しずつ「本を通じて人とつながる」という想いが確かなものになっていた。しかし、そんな穏やかな日常の中、真一にとって忘れられない出来事が起こる。


一冊の手紙


書店の閉店間際、真一はレジ周りの整理をしていた。すると、レジ横のPOPが貼られた本棚に、一枚の小さな封筒が挟まっていることに気がついた。手書きの文字で「書店員さんへ」と書かれている。


「誰かが忘れたのかな?」

そう思いながらも気になり、周囲を確認して封筒をそっと開けると、そこには短い手紙が入っていた。


手紙の内容:

「先日、あなたが書いたPOPを見てこの本を買いました。人生に迷っていたけれど、本の中の言葉が、私の背中をそっと押してくれました。きっとこの書店員さんも、本を通して人に優しい力を届けているんだと思います。

どうか、これからも言葉を届けてください。

ありがとうございました。」


手紙を読み終わった真一は、胸がいっぱいになった。本当に自分の言葉が、誰かの力になれたのだと、初めて確信することができた。


「……ありがとう。」

小さく呟いたその言葉は、書いた人に向けたものだけでなく、自分自身への励ましのようにも聞こえた。


学校での報告


翌日、真一は学校で良平にその出来事を話した。

「お前、それすごいことじゃん! 手紙まで書いてくれるなんて、なかなかないぜ。」

「うん……なんだか、言葉の力って本当にあるんだなって思った。」

「お前がちゃんと届けたからだろ。それって、めちゃくちゃかっこいいことだと思うぜ。」


良平の言葉に、真一は少し照れながらも嬉しさがこみ上げてきた。今まで自分がやってきたことが、少しずつ形になり、人とつながり始めている。それが何よりも嬉しかった。


担任の先生との会話


その日の放課後、真一は担任の先生にもその手紙のことを話した。

「真一くん、素晴らしい経験をしたね。それは君が本気で向き合ってきた証拠だよ。」


先生は続けて言った。

「これからの進路も、そんなふうに『人に届ける力』を軸に考えていくといいかもしれないね。」


真一は静かに頷いた。これまで漠然としていた目標が、少しずつ輪郭を持ち始めているのを感じていた。


夜空の下での決意


その夜、真一は手紙をもう一度読み返した。書かれた言葉は、温かく、自分の迷いを包み込んでくれるようだった。


「僕も、誰かの背中を押せる言葉を届けたい。」


夜空を見上げると、星たちがいつものように静かに輝いていた。その光は、これから進む道を照らしているように感じられた。


「言葉がつなぐもの。その力を、もっと知りたい。」


真一はノートを開き、今日の出来事と新たな決意を書き記した。そして、未来に向けてまた一歩踏み出すために、ゆっくりとペンを置いた。


星空の下、真一の心には確かな希望の光が灯っていた。

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