第37話 新しい扉

進路面談を終えたあと、真一は少しずつ自分の未来について考える時間が増えていた。本を通じて人とつながる仕事、その先にどんな可能性があるのかを知るために、何か具体的な行動を起こさなければと感じていた。


店長のアドバイス


アルバイトの日、真一は書店での作業がひと段落したタイミングで、店長に相談を持ちかけた。

「店長、僕、将来も本に関わる仕事がしたいと思ってるんです。でも、具体的にどうすればいいのか分からなくて……」


店長は真一の言葉を聞きながら少し考えたあと、こう答えた。

「そうだね、本に関わる仕事にはいろいろな道があるけど、まずは業界をもっと知ることが大切かもしれない。たとえば、出版の世界を見てみるとかね。」


「出版……」

真一はその言葉に興味を抱いた。普段触れている本がどのように作られ、世の中に届けられるのか。そのプロセスに触れることが、次のステップになるかもしれないと感じた。


出版社見学の機会


その後、店長が教えてくれた情報をもとに、真一は地元で行われる出版社の見学イベントに参加することを決めた。書店の関係者向けのイベントだったが、店長の推薦で参加が認められたのだ。


イベント当日、真一は少し緊張しながら会場に向かった。出版社のオフィスに足を踏み入れると、そこには書店とはまた違う活気が溢れていた。編集者たちが忙しそうにパソコンに向かい、打ち合わせの声が飛び交う。


「ここで本が作られているんだ……」

真一はその場の空気に圧倒されながらも、新しい世界に足を踏み入れた感覚に胸が高鳴った。


編集者との会話


見学ツアーが進む中、真一は一人の編集者と話す機会を得た。その編集者は若い男性で、熱意に溢れた雰囲気を持っていた。

「本に興味があるんですか?」

「はい。書店でアルバイトをしているうちに、本を作る仕事にも興味を持つようになりました。」


真一の話を聞いた編集者は、少し考えたあとこう言った。

「本を作る仕事は大変だけど、その分やりがいもあるよ。でも大切なのは、自分がどんな言葉を世の中に届けたいのか、その軸を持つことだと思う。」


その言葉は、真一の胸に深く響いた。本を作る仕事とは、ただの作業ではなく、自分の中にあるメッセージを形にしていくことなのだと気づかされた。


新たな目標


出版社の見学を終えた真一は、少しずつ自分の中に新しい目標が生まれていることを感じていた。それは、本を届ける側から、作る側への一歩を踏み出すことだった。


「僕も、いつか自分の言葉を形にできる仕事をしたい。」


その思いを胸に、真一は書店でのアルバイトに戻った。自分が本に触れるたびに、その裏側にある人々の努力や思いを意識するようになった。


夜空に描く未来


その夜、真一はベランダで夜空を見上げながらノートを開いた。見学で感じたこと、編集者の言葉、そして自分のこれからの目標を、少しずつ言葉にしていった。


ノートの一部:

「本は、作る人、届ける人、読む人、それぞれの思いが重なってできている。そのすべてに関わる仕事がしたい。それが、僕の未来になるかもしれない。」


星が静かに輝く夜空の下で、真一は新しい扉を開けた自分を感じていた。そして、その扉の先に広がる未来に向けて、一歩ずつ進んでいく決意を新たにした。

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