第27話 読者とつながる瞬間
アルバイト先の書店での日々は、真一にとって新しい発見の連続だった。並べる本のタイトルや表紙を見るたびに、自分の知らない世界が広がっていることを実感する。ある日、真一は書店の店長から少し特別な仕事を頼まれた。
POPを書くという依頼
「真一くん、今度この本のおすすめPOPを書いてみない?」
店長が手渡したのは、新刊の小説だった。
「POP……ですか?」
「そう。お客さんにこの本を手に取ってもらうためのメッセージを書いてみてほしいんだ。特別に文章が上手じゃなくても大丈夫。君がその本を読んで感じたことを書いてくれればいいから」
真一は少し戸惑いながらも、その本を持ち帰り、読むことにした。
読書と思索
家に帰り、真一はその本を開いた。内容は、夢を追う若者が自分の道を見つけるまでの物語だった。ページをめくるたびに、その主人公が自分と重なるような気がした。迷いながらも一歩ずつ進んでいく姿に共感し、自分の中にも小さな勇気が芽生えてくる。
「この主人公みたいに、僕も自分の道を探しているんだな……」
そう感じながら、真一は読了後にPOPに書くメッセージを考え始めた。
真一のPOPの文章:
「迷いながらも進む主人公の姿に、きっとあなたも共感するはず。この物語を読むことで、少しだけ前を向けるようになるかもしれません。」
店頭に並ぶPOP
次の日、真一が書いたPOPが本と一緒に書店の目立つ場所に飾られた。自分の言葉が公の場に出ることに少し緊張したが、同時に小さな誇りも感じた。
数日後、真一が書店で作業をしていると、一人の女性客がその本を手に取っているのが目に入った。彼女はPOPを読み、少し考え込んだ後、その本を持ってレジに向かった。真一はその場面を目にし、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「僕の言葉が誰かに届いたんだ……」
学校での報告
次の日、学校で良平にその話をした。
「おい、それすげえじゃん! お前の言葉でその本が売れたんだろ?」
「うん、そうかもしれないけど、なんか不思議な気持ちだったよ」
良平は嬉しそうに笑いながら言った。
「お前、どんどん新しいことやってるよな。なんか、俺も頑張ろうって思えるわ」
その言葉に、真一は改めて気づいた。自分が少しずつ前に進むことで、周りの人にも影響を与えているのかもしれないと。
新しい目標
その夜、真一は机に向かい、自分のノートを開いた。
「本を通じて人とつながるのって、すごく面白いかもしれない」
自分の書いたPOPが、誰かの背中を押すきっかけになる。それは、これまでに感じたことのない喜びだった。
「本を届ける仕事を、もっと深く知りたいな……」
そんな思いが、真一の中に新たな目標として芽生え始めていた。
夜空を見上げて
その夜、真一はベランダに出て夜空を見上げた。星が少しずつ輝きを増しているように見えた。それは、これからの自分の未来が少しずつ形を持ち始めているように思えたからかもしれない。
「自分の言葉が誰かに届く。その喜びをもっと知りたいな」
そう呟きながら、真一はまた新しい一歩を踏み出す準備をしていた。
未来はまだ遠くにある。でも、その道筋に小さな光が見え始めていた。
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