第28話 迷いの中の光

書店でPOPを書く経験をしたことで、真一の中に「自分の言葉が誰かに届く」という新しい感覚が芽生えた。それでも、未来に向けての道はまだ漠然としており、不安は完全には消えていなかった。学校では進路の話が増え、クラスメートたちも少しずつ自分の未来について動き始めていた。


沙月の相談


放課後、真一が机にノートを片付けていると、沙月が近づいてきた。

「ねえ、真一くん、ちょっといい?」

「うん、どうしたの?」


沙月は少しためらいながら言った。

「実は、進路のことで悩んでて……先生に相談したら、専門学校を勧められたんだけど、私、本当にそれでいいのか分からなくて」


沙月は昼間アルバイトをして家計を支えながら学校に通っている。将来への迷いを抱えながらも、現実的な選択肢を考えなければならないというプレッシャーが、彼女の表情に表れていた。


「真一くんは、進路のことどう思ってる?」

その問いに、真一は少し考えてから答えた。

「僕もまだ迷ってる。でも、最近少しだけ分かってきたことがあって……」


真一は書店での経験や、自分の言葉が誰かに届いたときの喜びについて話した。

「僕の場合、具体的な道はまだ見えてないけど、何かを届ける仕事がしたいなって思ってる。それが本なのか、言葉なのかは分からないけど……」


沙月はその話をじっと聞いていた。そして、少し微笑みながら言った。

「真一くん、なんだかすごく変わったね。自分のこと、ちゃんと話せるようになったんだ」


その言葉に、真一は少し驚いた。以前の自分だったら、こんな風に自分の考えを人に伝えることはできなかったからだ。


夜間高校の風景


その日の帰り道、真一はふと夜間高校の校舎を振り返った。窓から漏れる明かりが、暗い夜の中で静かに輝いている。その風景が、自分自身と重なるように感じた。


「迷いながらでも進むことが、大事なんだろうな……」


頭の中で沙月の顔が浮かぶ。自分の迷いを共有することで、誰かの心を少しでも軽くすることができるなら、それも一つの役割なのかもしれないと思った。


アルバイト先での気づき


次の日、アルバイト先の書店でいつものように棚を整理していると、一冊の本が目に入った。それは「迷いの中にいる人へのメッセージ」と題されたエッセイ本だった。


真一はその本を手に取り、少しだけページをめくった。その中の一節が目に留まる。


「迷いは、進むべき道を探している証拠だ。大切なのは、その迷いを恐れず、一歩ずつ進むこと。」


その言葉が、真一の胸に深く響いた。迷いがあるからこそ、自分の道を探しているのだと気づいた。


未来への決意


その夜、真一はノートを開き、思いのままにペンを走らせた。

「迷っていてもいい。今の僕には、自分の言葉を誰かに届けることができる。そして、それが少しでも誰かの役に立つなら、それが僕の進む道かもしれない。」


自分の中に小さな確信が生まれつつあった。書店での仕事、学校での人間関係、そして自分の言葉。それらが一つずつつながっていく感覚があった。


夜空を見上げて


ベランダに出ると、夜空にはまた星が輝いていた。少しずつ見えてきた自分の道が、その星々の光に重なるように感じられた。


「まだ迷っているけど、それでいいんだ。迷いながらも進んでいこう。」


そう呟きながら、真一は次の日に向けて小さな決意を胸に抱いた。迷いの中にも光があることを信じて。

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