第26話 新しい世界への扉
アルバイトを始めて数週間が経った。最初は不慣れだった仕事も、少しずつ慣れてきた真一。書店の店内で本を並べたり、レジでお客さんとやり取りをしたりする中で、これまでとは違う充実感を感じていた。
職場での出会い
ある日、真一が棚の整理をしていると、一人の中年女性のお客さんが声をかけてきた。
「すみません、この作家の新作、もう入荷してますか?」
彼女が手に持っていたのは、文芸作品のシリーズ本だった。真一は在庫を確認しようとレジに戻り、システムを操作する。少し緊張しながらも、仕事を進める中で新しい感覚が芽生えた。
「こちらですね。在庫がありましたので、すぐにお持ちします」
本を手渡すと、女性は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。あなた、すごく丁寧に対応してくれるのね」
その言葉に真一は驚いた。自分が誰かに役立つことができる、それを言葉にしてもらうことで初めて自分の中に小さな自信が生まれた。
学校での変化
学校でも、真一の態度は少しずつ変わり始めていた。授業中、先生の質問に手を挙げる回数が増え、休み時間にはクラスメートとの会話も以前より自然にできるようになった。そんな中、良平が笑いながら言った。
「お前、本当変わったよな。前はなんか影薄かったのに、最近は普通に目立ってるじゃん」
「目立ってるって……悪い意味じゃないよね?」
「当たり前だろ。いい意味だよ。お前、自分に自信持ってきてるんだなって思う」
その言葉に真一は少し照れくさくなりながらも、心の奥で確かな喜びを感じていた。
進路への一歩
アルバイトを始めたことで、本や書店という環境に対する興味が真一の中で広がっていた。
「もしかしたら、本に関わる仕事をもっと知ってみたいかもしれない」
ふとそんな考えが頭をよぎった。
放課後、担任の先生に相談することにした。職員室で話を聞いてくれた先生は、少し驚いた表情を浮かべたあと、微笑んで答えた。
「それはいいね。今のアルバイトを通じて、自分がやりたいことが見え始めたのかもしれないね。次は、そういった分野について調べてみようか」
先生の言葉を聞いて、真一の胸に少しずつ具体的な目標が生まれ始めた。
書店での気づき
次のアルバイトの日、書店で新しい本を棚に並べていると、ある一冊の本が目に留まった。それは「進路に迷う高校生へのメッセージ」と題された自己啓発書だった。表紙を見て、「これ、今の自分にぴったりかもしれない」と思った真一は、休憩時間に少しだけその本を開いてみた。
本の中には、「焦らず、自分のペースで進むことが未来を切り開く」というメッセージが書かれていた。その言葉に、真一は勇気づけられた。
「焦らなくていい、自分の道はこれから見つかる」
そう自分に言い聞かせながら、再び仕事に戻った。
夜空の下での決意
アルバイトを終えた帰り道、夜空には満天の星が輝いていた。星を見上げながら、真一は心の中で小さく呟いた。
「自分の道、少しだけ見えてきた気がする」
まだ未来は曖昧で不確かなものだが、その輪郭が少しずつ形を持ち始めているのを感じていた。書店でのアルバイトや学校での学びが、真一の中に新しい世界への扉を開きつつあった。
「この扉を自分の手で開けてみよう」
その決意を胸に、真一は夜の道を歩き続けた。
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