第24話 小さな勇気の連鎖
作文発表を終えた次の日、真一はどこか心が軽くなった感覚を抱えて学校に向かった。教室の扉を開けると、すでに何人かのクラスメートが席についておしゃべりをしていた。良平が手を挙げてこちらを呼ぶ。
「おい、昨日の作文、みんな褒めてたぞ」
「そうなの?」
「お前、もっと自信持てよな」
良平の何気ない一言に、真一は少し照れくさそうに笑った。
グループワークの時間
その日の授業は、グループでのディスカッションだった。「学校生活での小さな成功や気づきを共有する」というテーマで、数人ずつのグループに分かれて話し合うことになった。
真一のグループには、普段あまり話したことがない同級生がいた。彼女の名前は沙月。どこか大人びた雰囲気を持つ生徒で、昼間はアルバイトをしながら学校に通っていると聞いていた。
「じゃあ、誰から話す?」
グループの一人が尋ねると、真一は少し迷ったあと、「僕から話そうか」と口を開いた。
「昨日の作文発表が、僕にとって小さな成功でした。正直、みんなの前で話すのは苦手だけど、自分の気持ちを言葉にできたことで、少し自信が持てた気がします」
話し終えると、沙月が微笑みながら言った。
「すごいね、真一くん。私は、作文発表とか絶対に無理だな」
その言葉に、真一は驚いた。いつも落ち着いて見える沙月も、実は苦手なことがあるのだと知り、親近感を覚えた。
「そんなことないよ。沙月さんだって、きっとできるよ」
そう言いながら、自分が昨日感じた小さな達成感を思い出していた。
沙月の挑戦
休み時間、沙月が真一に声をかけてきた。
「ねえ、ちょっと相談していい?」
「もちろん」
沙月は少し照れくさそうに笑いながら言った。
「実は、来週のクラス発表で司会を頼まれちゃって。でも、人前に立つのが本当に苦手で、どうしたらいいか分からなくて……」
真一は少し考えた後、昨日の自分の経験を思い出しながら答えた。
「僕も最初はすごく怖かったけど、話す内容をしっかり準備しておいたら、意外と大丈夫だったよ。それに、失敗しても、みんな案外優しく聞いてくれる」
その言葉に沙月は安心したようにうなずいた。
「そうだね……ありがとう、少し勇気が出たかも」
クラス発表の日
来週、クラス発表の日がやってきた。沙月は緊張しながらも、真一に教えてもらった通り、司会の原稿を何度も確認して準備をしていた。そして、いよいよ彼女の番が来た。
「皆さん、今日はよろしくお願いします」
少し震える声で始まった沙月の司会だったが、次第に落ち着いていき、発表が進むにつれて堂々とした姿を見せていた。
発表が終わると、教室中に拍手が広がった。沙月は緊張した表情を浮かべながらも、どこか達成感に満ちた顔をしていた。
勇気の連鎖
放課後、沙月が真一に話しかけてきた。
「ありがとう。真一くんのおかげで、なんとかやり切れたよ」
「すごくよかったよ。堂々としてたし、自分でも頑張ったって思えたんじゃない?」
沙月は照れくさそうに笑ったあと、小さくうなずいた。
その笑顔を見て、真一は「勇気」というものが連鎖していくのだと感じた。自分が少しだけ勇気を出して話したことで、それが沙月に伝わり、彼女もまた一歩踏み出すことができた。
帰り道での気づき
その日の帰り道、真一は夜空を見上げながら考えていた。自分の小さな一歩が、他の誰かの一歩を後押しすることができる。そう気づいたことで、未来に向けての不安が少しだけ和らいだ。
「これからも、少しずつでも前に進めばいいんだ」
そう自分に言い聞かせながら、真一は夜の街を歩き続けた。
夜空の星々が、どこかいつもより輝いて見えた。自分の進む道が、少しずつ光に照らされていくような感覚を抱えながら。
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