第23話 言葉にする勇気
星空の夜から数日が経ったある日、真一は学校での課題に直面していた。国語の授業で、「自分の気持ちを言葉にする」というテーマで短い作文を書くことになったのだ。これまでも作文は苦手だったが、今回は特に難しく感じられた。
課題への戸惑い
「今の自分の気持ちを、できるだけ素直に書いてみてください」という先生の指示に、生徒たちはノートを開き、それぞれペンを走らせていた。しかし、真一は手を止めたまま、何も書けずにいた。
隣では良平が「めんどくせえ」と呟きながらも何かを書いている。真一はその様子を見て少し安心しながらも、どうしても自分の気持ちを形にできない自分に焦りを感じていた。
「自分の気持ちなんて、どこから書けばいいんだろう……」
ノートの白紙が真一の心を映しているように思えた。
良平との会話
授業が終わった後、良平が声をかけてきた。
「お前、何も書いてなかったけど、大丈夫か?」
「うん……なんか、何を書けばいいのか分からなくて」
真一の答えに、良平は少し考え込んだ後、軽く肩を叩いた。
「別に完璧に書く必要なんてねえんだろ? 思ったことを適当に書けばいいじゃん」
その言葉はシンプルだったが、真一にとっては大きな励ましだった。「適当でいい」という言葉が、自分を少し楽にしてくれるようだった。
放課後の挑戦
帰宅した真一は机に向かい、もう一度作文に挑戦することにした。ノートを開き、ペンを手に取る。少しずつ、自分の中の言葉を掘り起こしていく。
「今の自分の気持ち……」
ふと、夜間高校に通い始めた頃のことを思い出した。朝が弱い自分、居場所が見つからなかった自分、そして少しずつ変わってきた自分。それを思い返しながら、ペンを動かし始めた。
作文の一部:
「僕は、夜間高校に来て少しだけ自分が変わった気がします。最初は不安や孤独を感じることばかりでした。でも、少しずつ友達ができたり、得意なことを見つけたりして、自分がここにいてもいいのかなと思えるようになりました。まだ未来が見えているわけではありませんが、少しずつ歩いていこうと思います。」
書き終えた後、真一はノートを閉じて深呼吸をした。自分の気持ちを形にできたことに、少しだけ満足感を覚えた。
発表の時間
次の国語の授業で、先生が作文の発表を促した。真一は最初、手を挙げる勇気が出なかったが、良平が小声で「やってみろよ」と囁いた。その言葉に背中を押され、真一はゆっくりと手を挙げた。
教室の前に立ち、ノートを開く。心臓がドキドキと音を立てる中、真一は自分の作文を読み上げた。
「僕は、夜間高校に来て……」
読み終わったとき、教室内が少し静まり返ったが、すぐに拍手が湧き上がった。良平が「よくやった!」と笑顔で親指を立てているのが見えた。
心の軽さ
発表を終えた真一は、心が軽くなったように感じた。自分の気持ちを言葉にして、周りの人に伝えることができた。それは、これまでの自分にはなかった経験だった。
帰り道、真一は空を見上げながら呟いた。
「言葉にするのって、意外と悪くないな」
夜空に浮かぶ星が、いつもより少し明るく見えた。その星々は、真一が自分の気持ちを伝えることの大切さを教えてくれたようだった。
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