第16話 夜間の灯り
少しずつ学校生活に馴染んできた真一だったが、まだどこか自分の居場所が定まらない感覚が続いていた。日々の授業やクラスメートとのやり取りには慣れてきたものの、「ここでいいのか」という思いがふと心に浮かぶ。
そんなある日、夜間高校ならではの特別な行事が行われることになった。テーマは「キャンドルナイト」。夜間高校の特徴を活かしたイベントで、生徒たちが協力して作り上げる催しだ。
準備の始まり
先生から「キャンドルナイトの準備を手伝える人は残ってください」と言われたとき、真一は最初ためらった。人と関わるのが苦手な自分が、イベントの準備なんてできるのだろうか。だが、周りのクラスメートが次々と手を挙げるのを見て、自分も小さく手を挙げた。
「真一、やるのか?」
良平が笑いながら声をかけてくる。
「うん、なんとなくね」
自分でも意外だった。少しだけ踏み出す勇気が湧いたのは、最近の小さな成功が積み重なったおかげかもしれない。
不器用な作業
準備は、手作りのキャンドルを並べるところから始まった。生徒たちで協力してロウを溶かし、型に流し込んで固める作業を進める。真一は慎重に作業を進めたが、不器用さが目立ち、隣のクラスメートが「ちょっと貸してみな」と手伝ってくれる場面も多かった。
「ありがとう。僕、不器用で……」
「いいよ。みんな最初はそんなもんだって」
手伝ってくれたのは、真一より年上の生徒だった。彼の何気ない言葉に、少しだけ救われた気がした。
灯りが灯る瞬間
数日間の準備を経て、キャンドルナイト当日を迎えた。校庭に並べられた無数のキャンドルに火が灯され、夜の闇の中に柔らかな光が広がっていく。普段は暗く寂しい夜の校庭が、幻想的な雰囲気に包まれた。
真一もその光景を見て、言葉にできない感動を覚えた。自分の手で作り上げたものが、こんなにも美しい形になるとは思わなかった。
「きれいだな……」
真一がつぶやくと、隣に立っていた良平が笑いながら言った。
「だろ? お前が作ったキャンドルもちゃんと光ってるぞ」
その言葉に、真一は自然と笑顔になった。
自分の居場所を感じる
キャンドルナイトが終わりに近づく頃、生徒たちが集まり、先生が簡単な挨拶をした。
「皆さん、それぞれが力を合わせて、素晴らしいイベントになりました。夜間高校は多様な人たちが集まる場所ですが、こうして一つのものを作り上げることで、みんながつながることができるのだと思います」
その言葉を聞きながら、真一は自分の胸の中に小さな温かさを感じた。完全に溶け込めているわけではないが、少なくともここにいることが無意味ではないと思えた。
「少しだけだけど、自分の居場所が見つかってきたのかな」
真一はそんなことを考えながら、キャンドルの光をじっと見つめていた。
帰り道の気づき
イベントが終わり、帰り道を歩く真一の心は、いつもより軽かった。夜の街灯に照らされる道が、まるでこれから歩んでいく自分の道を示しているように感じた。
「自分で作った灯りが、誰かの心を照らすことがあるんだ」
そんな気づきが、真一の中に小さな自信を生み出していた。
キャンドルナイトの光はすぐに消えてしまうかもしれない。それでも、その灯りを作った時間は確かに存在していて、これからの自分を支えてくれるだろう。真一はそんな希望を胸に、夜の道を静かに歩き続けた。
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