第17話 朝に向かう夜
キャンドルナイトが終わり、真一の中に少しずつ「ここにいてもいい」という感覚が芽生え始めていた。それでも、彼の心の奥底には、未だ拭えない孤独感と、過去のトラウマが根を張っている。夜間高校の生活には慣れてきたが、「自分が本当にここで成長しているのか」という疑問は、時折、真一を悩ませた。
先生の問いかけ
ある日、授業が終わった後、担任の先生が真一を呼び止めた。
「最近、表情が少し明るくなってきたね。どう? この学校での生活は慣れてきた?」
真一は少し考え込んでから答えた。
「慣れてきたと思います。でも……時々、これでいいのかなって思うんです」
先生は静かにうなずき、彼の言葉を待った。
「中学の頃、僕は学校に行くこと自体が苦痛でした。ここに来て、少しずつ居場所を感じるようになったけど、まだ自分が何を目指しているのか分からなくて……」
先生は少し笑いながら言った。
「自分を見つけるのには時間がかかるものだよ。でも、ここでの一歩一歩が、きっと君の未来につながる。焦らず、今を大事にしていこう」
その言葉は不思議と真一の胸に響いた。すぐに答えが出せなくてもいいということを許されている気がした。
朝に弱い自分
その夜、真一は自分の生活リズムについて考えていた。朝が弱く、昼間の活動が苦手な自分。夜間高校を選んだのも、その特性に合っているからだと思っていたが、心のどこかで「朝起きられない自分」に引け目を感じていた。
「どうして、僕は普通にできないんだろう……」
布団の中でそう呟くと、頭の中に中学時代の記憶がよぎった。朝起きられずに学校を休むたびに、「怠けている」と言われたこと。それに対して何も言い返せなかった自分。
しかし、夜間高校ではそのことを責められることはなかった。むしろ、自分のペースを大事にしてくれる環境に少し救われていることを実感していた。
朝の挑戦
翌日、真一は少しだけ早起きをしてみようと決めた。布団の中で葛藤しながらも、アラームが鳴るたびに「もう少しだけ」と自分に言い聞かせて起き上がった。早朝の空気は冷たくて澄んでいて、窓の外には少しだけ赤く染まった空が広がっていた。
「朝の空って、こんなに綺麗だったんだな……」
そう思いながら、久しぶりに朝の散歩に出かけた。
道端に咲く小さな花や、通学中の子どもたちの声。普段は聞こえない音や見えない景色が、朝の空気の中で鮮やかに感じられた。朝が苦手な自分にも、こんな景色を見るチャンスがあるのだと思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。
夜間高校の灯り
学校に着くと、クラスメートたちがいつも通りそれぞれの会話を楽しんでいた。良平が真一を見つけると、いつものように軽く手を振る。
「お前、今日はなんか元気そうじゃねえか?」
「そうかな……朝ちょっと散歩したから、気分がいいのかも」
真一は照れくさそうに答えた。そんな小さなやり取りが、彼の中に灯りをともすようだった。
授業が始まり、夜が更けていく中、真一はふと「夜間高校」という場所が、まるで昼の世界から少し離れた「自分だけの灯りの場所」に思えてきた。
「焦らなくてもいい。朝が苦手なら、今は夜の中で自分を見つけていけばいい」
夜間高校での生活は、まだ真一にとって試行錯誤の連続だが、少しずつ「ここにいる意味」を感じ始めていた。朝の空を見たことで、これからの日々に少しだけ希望を見つけられた気がした。
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