第14話 見えない不安

定時制高校での生活が少しずつ日常に馴染んできたものの、真一の胸には相変わらず見えない不安が渦巻いていた。学校では新しい人間関係を築こうと少しずつ努力しているが、どこかぎこちなさが残る。何かを変えたいという気持ちがありながらも、具体的にどうすればいいのか分からなかった。


夜間高校ならではの孤独


夜の授業が終わり、真一は一人で廊下を歩いていた。昼間の学校とは違い、夜間高校の廊下はひっそりと静まり返っている。クラスメートたちはバラバラと帰り支度を済ませていくが、誰も真一に声をかけてくることはなかった。


「このまま、誰とも深く関わらずに卒業するのかな……」

真一はふとそんなことを考えた。


夜間高校にいる生徒たちは、それぞれが異なる背景を持ち、目指すものも違う。昼間は働いている者、家庭を支える者、やり直しを目指している者。それぞれが忙しく、深く関わる時間も限られている。真一にとって、それが新鮮である一方、どこか孤独を感じる原因でもあった。


良平との会話


帰り際、良平が後ろから声をかけてきた。

「おい、今日は何か静かだったな。大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ただ、なんとなく考え事してただけ」

真一は素直に答えた。良平は歩調を合わせながら、少しだけ真一を見つめた後、軽く笑った。

「お前、たまに深刻そうな顔するよな。そんな難しいこと考えなくても、もうちょっと気楽でいいんじゃね?」

「気楽に……できたらいいんだけどね」

真一は苦笑いしながら答えた。


クラスメートとの距離感


翌日の授業中、先生がクラス全員にグループワークを指示した。

「今日はグループで意見をまとめて発表してもらいます。近くの席の人たちと組んでね」

真一は周りの数人とグループを組むことになった。最初の話し合いでは、みんながそれぞれの意見を出し合い、真一は聞き手に回ることにした。


「真一くんはどう思う?」

一人の女子生徒が真一に話を振ってきた。突然の質問に驚きながらも、真一は自分の考えを絞り出す。

「うーん、こっちの方が簡単にまとまるかもしれない……」

「それいいね! じゃあ、それでいこう」

彼女の明るい返事に、真一は少しだけ肩の力が抜けた。


小さな手応え


グループでの発表が終わった後、メンバーの一人が真一に声をかけてきた。

「さっきの意見、助かったよ。ありがとう」

「いや、そんな大したことじゃないけど……」

照れくさそうに答えながらも、真一の心は少しだけ軽くなった。自分が誰かの役に立てたという感覚が、新鮮で心地よかった。


帰り道の光


その日の帰り道、真一は少しだけ明るい気持ちで夜の街を歩いていた。人との距離感を掴むのはまだ難しいが、少しずつ自分から関わってみることで、何かが変わるかもしれないという希望が芽生えていた。


「焦らなくてもいい。少しずつでいいんだ」

自分にそう言い聞かせながら、夜空を見上げると、雲間から月が顔を出していた。


夜間高校での日々はまだ手探りの状態だが、小さな一歩が積み重なることで、真一の世界は少しずつ広がり始めているのかもしれない。そんな希望を胸に、真一はまた一日を終えた。

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