第13話 失敗とその先にあるもの

少しずつ学校生活に慣れてきた真一だったが、苦手なことへの挑戦や小さな成功を積み重ねる日々の中で、また一つの壁にぶつかることになる。


体育の時間


その日は、体育の授業があった。夜間高校では、週に一度だけ体育館を使った授業が組まれている。体育が得意ではない真一にとって、それは少し憂鬱な時間だった。


「今日はバレーボールをやります。チームで協力して楽しくやりましょう」

先生の元気な声が体育館に響く。クラスを4つのチームに分け、試合形式で進めることになった。真一は自然と隅に追いやられるように、チームの中で目立たない位置を取った。


試合が始まると、ボールは次々とコートを飛び交い、周りのクラスメートたちは声を掛け合いながら盛り上がっていた。真一はなるべくボールに関わらないように動いていたが、ついにボールが自分のところに飛んできた。


予想外の失敗


「真一、行け!」

チームメートの声に押され、真一は咄嗟に腕を伸ばしてボールを打とうとした。しかし、タイミングがずれ、ボールは腕に当たらず真下に落ちてしまった。試合は一時中断し、相手チームに点数が入る。


その瞬間、後ろから笑い声が聞こえた。

「おい、真一、やる気あんのかよ!」

悪意があるのか、ただの冗談なのか分からない。その言葉が真一の心に刺さった。


「ごめん……」

小さく呟きながら、真一は下を向いた。


良平のフォロー


試合が終わったあと、良平が近づいてきた。

「おい、真一、気にすんなよ。俺だってさっき、全然ダメだったし」

良平の言葉に真一は少しだけ顔を上げたが、胸の奥に渦巻く感情は収まらなかった。

「でも、俺、ほんとに何やってもダメなんだよ。体育だって、中学の時もずっと苦手だったし……」

その言葉に良平はしばらく黙ったあと、真一の肩を軽く叩いた。

「ダメでもいいだろ。全部できるやつなんていないんだからさ。お前、前に美術でちゃんと描いたじゃん。俺より全然すごいと思ったぜ」


その言葉に真一は驚いた。自分が少しだけ自信を持てた絵を、良平が覚えていてくれたことが嬉しかった。


帰り道の独り言


その日の帰り道、真一は体育の失敗を振り返りながら歩いていた。胸の中にはまだ悔しさと情けなさが残っている。それでも、良平の言葉が少しだけその気持ちを和らげてくれていた。


「全部できる必要なんて、ないのかもしれない……」

そう呟いて、真一は歩を進めた。


次への挑戦


家に帰ると、机に向かってノートを開いた。得意な教科の数学の問題を解きながら、心が少しずつ落ち着いていく。

「得意なことで頑張れるなら、それでいいのかな」

苦手なことに挑戦しつつも、自分の得意なことに自信を持つ。それが真一にとって、次の課題になりつつあった。


「また失敗してもいい。少しずつ、できることを増やしていけばいいんだ」

真一はそう心に決めて、ノートに手を動かし続けた。


その夜、窓の外を見上げた真一の目には、薄い雲の隙間から光る星がはっきりと見えていた。それは、これからの道を照らしてくれるような気がした。

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