第11話 一歩踏み出す勇気
翌日、真一はいつもより少し早めに学校へ向かった。昨晩、自分で決めた「少しずつ周りを受け入れてみる」という思いを試すつもりだった。いつも通り制服を着て校門をくぐり、静かな廊下を歩く。教室に入るとまだ数人しかいなかったが、その中に良平の姿を見つけた。
授業中の挑戦
午前の数学の授業で、先生がまた全体に質問を投げかけた。真一は一瞬緊張したが、自分でノートに書き留めた問題を思い出し、心を落ち着けた。
「この問題がわかる人、いますか?」
少し間があったが、真一は意を決して手を挙げた。教室内がざわつく。「真一が答えるのか?」という小さな視線が集まる。
先生が微笑みながら真一を指名した。
「じゃあ、真一くん、答えてみて」
彼は立ち上がり、自分のノートを見つめながら答えを口にした。
「……たぶん、答えはこれです」
教室内が静まり返った瞬間、先生が笑顔で答えた。
「正解! よく頑張ったね」
その言葉に、真一はホッと胸を撫で下ろした。同時に、良平が隣から「よっしゃ!」と小さくガッツポーズをしてくれたのが見えた。
笑いの意味を考える
授業が終わった後、真一は後ろの席の男子から軽く声をかけられた。
「おい、真一、すごいじゃん。俺、全然わかんなかったぞ」
その言葉には揶揄のニュアンスはなかった。むしろ、少し感心したような雰囲気だった。
「ありがとう」
短く答えたが、真一の心は少しずつ変わり始めていた。昨日、先生が言った「笑いの裏にある気持ちを考える」という言葉が頭をよぎる。確かに、すべての笑いが悪意から生まれているわけではないのかもしれない。
昼休みの変化
昼休み、良平と一緒に給食室に向かった。今日のメニューはサンドイッチだった。真一にとっては少し食べやすいメニューだったこともあり、席について少しだけ口をつけることができた。
「やっぱり腹減るだろ? 少しでも食べとけよ」
良平がそう言いながら、自分のサンドイッチを勢いよく食べ始める。真一はその様子に少し笑ってしまった。
「何だよ、お前も笑うんじゃん」
良平の軽口に、真一は少し気が楽になった。
帰り道の気づき
その日の帰り道、真一は自分の中で何かが変わり始めているのを感じていた。すべてがすぐに良くなるわけではないし、揶揄や偏見が完全になくなることもないだろう。それでも、自分がどう受け取るかで世界の見え方が少しずつ変わることに気づき始めていた。
「少しだけだけど、変われたのかもしれない」
夜の街を歩きながら、真一はそんな小さな成長を感じた。
夜空には相変わらず星が少ないが、その中でも光る一つ一つが見えるような気がした。今までとは違う景色が、ほんの少しだけ目の前に広がり始めている。
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