第10話 先生との対話

新しい週が始まり、真一は気分がどんよりとしていた。数学の授業で笑われたことが頭を離れず、自分の存在意義に対する疑問ばかりが膨らんでいた。学校に行くべきか迷いながらも、結局制服に袖を通し、いつも通り登校することを選んだ。


その日の授業は国語だった。授業中、担任の先生が真一の様子を気にかけているのに気づいたが、真一は目を合わせないようにしていた。


放課後の呼び出し


授業が終わり、帰り支度をしていると、担任の先生が声をかけてきた。

「真一くん、少し時間あるかな?」

真一は断る理由もなく、静かに先生についていった。


職員室の隅のソファに座り、先生が正面に座った。

「最近、何か悩んでることはない? 表情が少し元気がない気がするけど」

その言葉に、真一は少し戸惑った。悩みがあると言えばまた面倒なことになるのでは、という不安がよぎる。しかし、何も言わないわけにもいかない。


「……授業中に笑われたのが、ちょっと辛くて。昔のことも思い出してしまいました」

真一は正直に言葉を紡いだ。先生はうなずきながら、真一の話に耳を傾けてくれた。


「そうだったんだね。中学の頃も、似たような経験をしてたんだね」

真一はうなずいた。

「ここでもまた同じだって思うと、どうしていいか分からなくて……」

その言葉を聞いて、先生は少し考え込んだ後、静かに口を開いた。


「真一くん、1つ覚えておいてほしいんだけどね、人が笑う理由って、いつも悪意からじゃないこともあるんだよ」

真一はその言葉に少し驚いた。

「もちろん、辛い気持ちは大事にしなきゃいけない。でも、時にはその笑いにどんな気持ちが隠れているか考えてみることも大切だよ。自分がどう受け取るかで、世界の見え方は少し変わるから」


少しの希望


先生の言葉はすぐに真一の心に響くものではなかったが、どこかに引っかかるものがあった。職員室を出た後も、その言葉が頭の中をぐるぐると回り続けた。


「笑いが悪意じゃない場合もある……?」

自分に向けられるものが全て敵意だと思い込んでいたことに気づき、真一は少しだけ視点を変えてみようと思った。


帰り道での決意


その日の帰り道、真一はまた独りで夜の街を歩いていた。灯りの少ない道はどこか寂しく、心の中の不安とよく似ていた。


しかし、少しずつ先生の言葉を思い返すうちに、自分の世界が少し狭くなっていたことに気づいた。すべてを悪い方向に考えるのではなく、少しだけ周囲の言葉を受け入れてみよう。それでまた傷ついたら、そのときはまた立ち上がればいい。


「先生の言う通りかどうか、試してみてもいいのかもしれない……」

真一はそう思いながら、次の日の自分に少しだけ期待を込めて、家路を急いだ。


変化の始まり


夜、自分の部屋で机に向かい、ノートを開いた。次の数学の授業で指されてもいいように、問題を解き直してみる。すぐには解けなくても、努力している自分を少しだけ誇らしく思えた。


「きっと、何かが変わるかもしれない」

その夜、真一は少しだけ軽い気持ちで眠りについた。

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