第9話 揶揄われる痛み

給食の出来事から数日後、真一はまた別の試練に直面していた。数学の授業中、先生がクラス全員に質問を投げかけた。

「この問題を解ける人はいますか?」

真一は問題をノートに写し、集中しようとしたが、頭がぼんやりして式が理解できない。クラス全体が静まり返る中、先生が真一を指名した。

「真一くん、どうかな?」

突然の指名に心臓がドキッとする。答えがわからないまま立ち上がり、必死に頭を働かせようとしたが、結局、何も言葉が出てこなかった。


「……わかりません」

教室に微妙な空気が流れる。その瞬間、後ろの席から小さな笑い声が聞こえた。

「真一、全然ダメじゃん」

その言葉に、クラスの何人かが笑い始める。先生が「静かに!」と注意したものの、その一言は真一の心に深く突き刺さった。


過去の記憶のフラッシュバック


その瞬間、中学校時代の記憶がフラッシュバックした。答えを間違えたときに笑われたこと。苦手な運動で失敗してからかわれたこと。そして、その笑いが広がり、いつの間にか教室の中で孤立していったこと。


「また、同じことの繰り返しか……」

席に戻りながら、真一は自分の弱さを再認識した。中学時代のトラウマを引きずったまま、高校でも同じ壁にぶつかっているように感じた。


良平のフォロー


授業が終わると、良平が近づいてきた。

「おい、あいつらのこと気にすんなよ。誰だって間違えるし、わからないことくらいあるだろ」

その言葉に、真一は少しだけ救われた気がした。だが、それでも心の奥底には痛みが残っていた。

「ありがとう。でも……俺、やっぱり弱いんだと思う」

「弱いとかじゃねえよ。ただ、他の奴らが気にしすぎなんだって。お前が悪いわけじゃない」

良平の言葉には迷いがなく、そのまっすぐな態度に真一は少しだけ安心した。


帰り道での対話


授業が終わり、帰り道を歩きながら真一は自問自答を繰り返していた。

「また笑われたらどうしよう。これからもずっとこんな感じなのかな……」

頭の中で不安が渦巻く。だが、その一方で、良平の言葉が何度もよみがえってくる。

「お前が悪いわけじゃない」

その言葉が、少しだけ心を軽くしてくれるようだった。


自分の居場所を探す決意


家に帰り、ノートを開いて数学の問題をもう一度見つめた。答えはまだわからない。それでも、自分で考え直してみようと思えた。

「できないままで終わりたくない。少しでも変われるなら……」

自分の居場所を見つけるために、何かできることをやってみよう。真一はそう思いながら、また少しだけ前に進む決意を固めた。


この夜、窓から見える星は相変わらず少なかったが、それでもどこかで輝いている星があることを信じたかった。

「明日はきっと、少しだけでも違う日になるかもしれない」

小さな希望を抱きながら、真一はゆっくりと目を閉じた。

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