第4話 空腹と周囲の視線

新しい学校生活が始まって数日が経った。真一はまだ学校の雰囲気に慣れず、授業中はできるだけ目立たないように過ごしていた。周りのクラスメートは年齢も性格もバラバラだが、楽しそうに話している様子を見ると、自分だけが浮いているような気がしてならない。


この日も真一は、小さなパンひとつだけを持って登校した。偏食のせいで、食べられるものが限られている。母親は「もっとちゃんと食べなきゃダメよ」と何度も言うが、それができない自分を責めるのはもうやめた。けれど、昼休みが来るたびに、空腹と周囲の目が気になってしまう。


昼休み、良平がまた声をかけてきた。

「今日も一緒に食べようぜ」

真一は一瞬ためらったが、断る理由も思いつかず、良平の隣に座った。彼はコンビニで買ったお弁当を広げ、大きな一口を頬張る。

「お前、本当にそれだけで大丈夫か?」

良平の視線が真一の手に握られたパンに注がれる。

「うん、これで十分だから」

無理に笑って答えたが、心の中では不安が渦巻いていた。良平が優しいからこそ、本当のことを話しづらい。


そのとき、近くの席から笑い声が聞こえてきた。別のクラスメートたちが冗談を言い合っているようだったが、ふと、真一がパンを食べている様子に視線が向けられた。

「おい、あいつ、パンだけかよ。ダイエットか?」

その言葉に、周りの数人がクスクスと笑った。真一は顔が熱くなるのを感じたが、何も言い返せず、ただ黙ってパンを口に運び続けた。心の中で、こう思っていた。

「何でこんなこと言われなきゃいけないんだ……」


昼休みが終わり、午後の授業が始まると、空腹のせいか頭がぼんやりしてきた。ノートに文字を書き写そうとするが、手が止まってしまう。周りの生徒がテキパキと問題を解いている中、自分だけが取り残されている気がしてならなかった。


授業が終わると、良平が真一に近づいてきた。

「お前、大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「うん……ちょっと疲れただけ」

本当は空腹でフラフラしていたが、そうは言えなかった。良平が自分を心配してくれることが嬉しい反面、あまりにも自分が情けなく思えた。


帰り道、真一は自分に問いかけていた。

「なんで、こんなにも自分は弱いんだろう?」

中学校時代の記憶がフラッシュバックする。いじめられ、揶揄され、そして自分のことを理解してもらえなかった日々。それが再びここで繰り返されるのではないかという不安が、心の奥底に重くのしかかる。


家に帰ると、母親が晩ごはんを用意していた。

「今日は好きなもの作ったよ。ほら、食べて」

食卓に並べられた料理を見て、真一はほっとした気持ちになった。

「ありがとう、いただきます」

食事を取りながら、彼はふと思った。この定時制高校での日々も、きっと少しずつ自分を変えていくのだろう。今はまだその兆しが見えなくても、きっと何かが待っている。そう信じたいと、初めて小さく思えた日だった。

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