第2話 知らない世界

入学式が終わり、最初のホームルームが始まった。教室の窓から見える夕暮れはやけに静かで、どこか心を落ち着かせてくれる。中学校では教室の空気に圧迫されることが多かったが、ここには違う空気が流れているように感じた。


担任の先生は中年の男性で、少し疲れたような目をしているが、声は穏やかだった。

「みんな、それぞれの理由でここに集まってきたと思います。この学校では、自分のペースで進めばいい。焦らなくても大丈夫ですからね」

その言葉に、真一は少しだけ肩の力が抜けた。中学では感じられなかった「許されている感覚」に、不思議な安堵を覚える。


先生が出席を取りながら、1人ずつ簡単な自己紹介を促した。順番が近づくにつれ、真一の心臓は速くなった。自己紹介なんて中学校では地獄のような時間だったからだ。揶揄の声が飛んだり、笑いが起きたり、居場所を失う瞬間ばかりだった。


「じゃあ、次は君」

順番が来ると、真一は一瞬息を飲んだが、できるだけ平静を装った。

「えっと……真一です。16歳です。ここでは、自分のペースで頑張りたいと思っています。よろしくお願いします」

声が少し震えた気がしたが、他の生徒は特に反応を示さなかった。ただ、隣の茶髪の男子が小さく「よろしく」とだけ言ってくれた。


他の生徒の自己紹介を聞いていると、意外なことに気づく。

「昼間は建設現場で働いてるんです」

「シングルマザーで子どもを育てながら、勉強し直したくて来ました」

「定時制なら学び直せるって聞いたんで、再挑戦です」

年齢も背景もバラバラだ。真一より年下の子もいれば、30代や40代の大人もいる。この多様さに、真一は驚きつつも興味を持った。中学ではみんなが似たような生活をしていたはずなのに、ここでは一人ひとりの人生が違う。


「この人たちは、どうしてこんなに色んな道を歩んでいるんだろう?」

それを考えたとき、自分が知らない世界がたくさんあることに気づいた。自分の選択が正しかったのか、まだわからない。でも、ここで何か新しいものが見つかるかもしれないという期待が、心の奥底に少しだけ芽生えた。


ホームルームが終わり、みんながぞろぞろと教室を出ていく中、真一は一人で立ち上がり、教室の外を眺めた。

「知らない世界だらけだな……」

夕焼けが赤く染まる校庭を見つめながら、真一はこれから始まる日々に不安と少しの希望を抱いていた。

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