朝が弱くて、マルチが苦手で、一点集中するしか出来なかった1461日
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 トラウマと新しい制服
四月の朝、主人公の真一は薄青い制服を手に、鏡の前で立ち尽くしていた。
「似合ってないな……」
制服が自分の体にまとわりつくたび、胸の奥がぎゅっと痛む。中学校時代、制服を着るたびに感じた屈辱と恐怖が、今でも鮮明に甦るのだ。
中学では、真一は「標的」だった。教室の隅っこでひっそりと過ごしているだけなのに、無視や陰口がエスカレートし、次第に身体的ないじめにも発展していった。ある日、誰かがわざと彼の制服を泥だらけにして、全員が見ている前で大笑いした。その瞬間、真一の中で何かが壊れた。それ以来、学校へ行く足は重くなり、ついに卒業式も欠席してしまった。
「これが、僕の新しいスタート……」
鏡に映る自分に言い聞かせるように呟く。しかし、胸の奥の痛みは消えない。高校に進学することを決めたのは、自分を変えたいと思ったからだ。それでも、新しい環境がまた中学校のような場所だったらどうしよう、という不安が渦巻く。
初めての定時制高校。真一が選んだのは、昼間ではなく夕方から始まる特別な学校だった。同世代の生徒だけでなく、年上の人も通うこの場所なら、自分の居場所が見つかるかもしれない。そう信じたかった。
校門に着くと、夕方の空が薄紅色に染まっていた。真一の心も少しだけ穏やかになる。
「よし……行こう」
深呼吸をして校門をくぐる。入学式が行われる教室に向かう廊下には、見知らぬ顔がいくつも並んでいた。みんなバラバラな年齢で、それぞれの事情を抱えてここに集まっているように見えた。中学時代とは違う雰囲気に、少しだけ肩の力が抜ける。
席に座り、静かに入学式を待っていると、隣に座った茶髪の男子が声をかけてきた。
「なあ、君、いくつ? 高校生っぽいけど、全日制じゃなくて定時制にしたの?」
「……16歳。中学校の後、普通の高校は……ちょっと無理で」
口をつぐみそうになったが、茶髪の男子はそれ以上詮索する様子はなく、「そっか」とだけ返した。
その瞬間、真一は少しだけ救われた気がした。この高校では、あの中学時代とは違う自分でいられるかもしれない。
「ここからがスタートだ」
そう心の中でつぶやきながら、真一の新しい1461日が始まった。
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