不憫かわいい密着系後輩りとちゃんは、大好きな先輩の心が読める 〜心を読んで完璧なアプローチをしてるのに先輩が全く本気にしてくれません!〜
【第3話】これ完璧すぎません? 必殺のハグ大作戦!・後編(side:りと)
【第3話】これ完璧すぎません? 必殺のハグ大作戦!・後編(side:りと)
さてさて、どうしたものでしょう。
先輩を抱きしめたいあたしは、お仕事そっちのけで作戦を考えています。
⚫︎作戦その1『不意打ち』
正面から行っても確実に避けられてしまいます。なので、うしろから行くしかありません。
いや、それでもあの速度には敵わないかもしれませんね。
つまり『隙だらけの先輩に背後からいきなり抱きつく」という不意打ちをするしかありません。
いやいや……
最低すぎませんか!? もう人としてヤバいですよね!?
いくらはしたないあたしでも、それくらいの事は分かりますよ!
⚫︎作戦その2『偶然を装う』
先輩が無意識に避けるというのなら、あたしも無意識に抱きついてしまったという事にします。
それには咄嗟に抱きつくようなシチュエーションが必要です。
例えば、虫が飛んできたとかはどうでしょう。
それなら先輩の背後から不意打ちで抱きついても自然なのではないでしょうか。
別に本物の虫を用意する必要もありません。虫を見たけど、どっかに飛んでっちゃったって事にすればいいんです。
あれ? なにこれ?
完璧すぎません? これ完璧すぎじゃありません?
何? あたし天才ですか? 我ながら身震いしました。
なるほど……あたしが神……。
◇
お昼休みになりました。早速実行しましょう。
善は急げです。考えてる事は悪ですが。
でも慎重にいきましょう。あくまで突然に、偶然に、自然に起こったように装います。
先輩の席に行くあたし。そこに先輩が座っている日は決まってお昼ごはんに誘います。
なのでこれはとても自然ですね。
気づかれないようにそっと近づきます。スニーキングってやつです。
そして、いつもはすぐに声をかけますが、座ったままだと抱きつけません。なので先輩が立ち上がるまで待ちます。
先輩のすぐうしろ耳元50cmの距離……よし、今です!
「きゃっ! 虫がっ!」
とても自然な叫び声で、考えていたセリフを言います。どうですかこの演技力!
あたしは同時に思い切り腕を伸ばします! しかし……
「あれっ?」
抱きしめようとした腕が空振ります。また消えた?
あたしはうしろを振り返りました。しかし先輩の姿はありません。
今度こそ本当に瞬間移動ですか?
(痛っ……びっくしたぁ)
いや、心の声は聞こえます。
ふと下を見ると、先輩は床にしゃがみ込んでいました。あれ?
「えっと……棚橋さん。どうしたの?」
「え、えへへ! 虫がいてびっくりしちゃいました! もうどっかいっちゃいましたけど」
「あ、そう。俺もびっくりした」
「えへ、すいませ〜ん」
(あれ? なんで俺しゃがんでんだろう?)
ガッデム! また超反応で避けられた!
しかも今度は避けた事に気づいていない!? つまりオートスキルですか!?
一見最弱に思えるけど、実は絶対に攻撃が当たらない最強の回避能力じゃないですか!
異世界転生したら無双できますよ!
「全く……なにやってんのさ、2人とも」
「あ、柚香(ゆか)さん」
「今お昼休みだけどさ。仕事中じゃなきゃいいってわけでもないからね」
「い、今のは虫がですね……」
「いやいや、分かってっから。丸わかりだから」
「むぅ……」
さすがは柚香さん。あたしの思考と行動はなんでもお見通しというわけですか。
それも異世界転生したら強そうな能力ですね。
「あっ、りとちゃん! 虫っ!」
「もう、柚香さんまで……」
「いやマジで! そっち行った!」
「え? わぁぁあ!」
本当に出ました。嘘から出た真。じゃなくて虫。
あたしの方に近づいてきました。
「あっ」
焦ったあたしはバランスを崩して、前に倒れました。
ダメだ。こけちゃう。
世界がスローモーションに見えます。
あぁ、きっとバチが当たったんですね。
嘘をついて先輩に抱きつこうとしたから、神様が怒っちゃったんですね。
あたしが神とか言ってごめんなさい。
「棚橋さん! 危ないっ!」
--ぎゅっ
あれ?
こけてません。痛くもありません。
「ふぅ、よかった……」
耳元で声がします。
「え? 先輩?」
気がつくと、先輩があたしの身体をしっかりと受け止めて……
って、えええぇぇぇえ!!!
あたし今、先輩に抱きしめられてるっ!
先輩の方に倒れちゃったから、咄嗟に受け止めてくれたんですねぇ!
あぁぁもうっ! 至福っ! 愉悦っ! 感無量っ! 愛してま〜す!
「うるせえっ!」
--バチンッ
「ひぁっ!」
柚香さんにバインダーで頭を叩かれました。
ヒドい! 危うく異世界に行きかけましたよ!
「うるさいって、あたし何にも言ってないじゃないですかぁ!」
「いいから! いつまでくっついてんの! 離れる離れる!」
「は、はいっ! ごめんね棚橋さん!」
先輩があたしから離れる。
んもぅ……柚香さんうらやましいからって邪魔する事ないじゃないですか。
「ご、ごめんね……つい……」
呆然としている先輩。でも心の中では……
(あぁ、りとちゃんギュッてしちゃった。りとちゃんギュッて、りとちゃんりとちゃんりとちゃん……)
あたしの事で頭がいっぱい!
「いいんですよぉ先輩! むしろ助けてくれてありがとうございますっ!」
あたしも先輩に抱きしめられて幸せいっぱい! 愛してま〜す!
なんて思っていると……
「おい石冷。何をキョドってるんだ。そんなんじゃ肝心な時に女の子を落とせないぞ!」
「か、課長……」
「どうだ? 久しぶりに一緒に昼メシでも行くか!」
「あ、はい……是非」
そう言って課長は先輩と肩を組んでどこかへ行きました。
あたしは抱きしめられた感触の余韻(よいん)に浸っていました。
そのおかげで肝心な事を忘れていたのです。
「お昼ごはん……あ、あぁぁぁ!!」
ガッデェェェェェム! 先輩とのお昼ごはん!
先を越された! 課長ズルい! 男はズルい!
「だからうるせぇって!!」
--バチンッ
「ひぁっ!」
また柚香さんの攻撃。
「うるさいって、あたし……」
いや、今のは声に出してました。
「メシくらいいつでも行けんだろ! そんな事で発狂すんな!」
「は、はい。そうですね」
あたしとした事がはしたない。はい反省。
でもチャンスはいくらでもありますからね!
抱きしめ作戦は失敗に終わりましたが、結果的に抱きしめられたので大成功でした。
善は急げですが、急がば回れって事ですね。
あと嘘はやっぱりよくないですね。
お昼ごはんには誘えなかったので、次はお夕飯大作戦です!
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