しゅらららば04/顧問と嘘
「オラオラオラ隠れてんじゃねーぞカケルぅ!! キミの事がウルトラスーパーデラックス好きな莉羅ちゃんが会いに来たんだぞぉ!」
「助けてマイシスター! 見た目美少女のゴリラが求愛して殺されるぅ!!」
「はいはい落ち着いてくださいカケっさんセンパイ、(ゴ)リラ先輩はお触り禁止ですよー、触るなら千円払ってーっ」
「俺売られた!?」「今ボクの名前変な発音しなかった??」
思わずツッコむカケルとリラに、菫子は悪戯っ子のような表情を浮かべ。
「気のせい気のせい、――それで? 本当に入部しに来たっすかリラ先輩? 冷やかしなら帰ってくれません?」
(あ、あれ? 菫子なんでそんな刺々しい?? 守ってくれと入ったけど……??)
菫子の声色が急に冷たくなる、彼女の後ろで隠れているカケルには分からないがリラの顔を覗き見すると。
リラの目つきがすっと細まり、途端、空気がギスギスとし始め。
「……ふーん、ボクら久しぶりに会話した気がするけど生意気さは変わってないね在賀ちゃん」
「(ゴ)リラ先輩こそ、まーだ諦めてなかったんです? あの時にムダだって言ったでしょ、未練がましいオンナは嫌われますよ~~っ」
「ちゃっかり妹ポジで居場所キープしてる浅ましいヤツに言われたくないな」
(あっるぇええええええええええええっ!? 思った以上に空気が凍ってるんだけどおおおおおおお!?)
リラという脅威から菫子が守ってくれるのは嬉しい、カケルの認識では二人はそこまで親しくなく、友達の友達で他人同然。
だがこの物言い、以前に関わりがあって、しかも対立していたと言わんばかりではないか。
しかも火種が今回と同じくカケルの様で、彼としては困惑しかない。
(前? 前ってなんだ!? 俺のコトでコイツら喧嘩してたのか!? 諦めてないとかどういうコト!? 前々からリラは俺のこと好きだったってマジ!? コイツ本気でマジで俺のこと好きなのか?? わざわざ入部しようとするぐらいに???)
いったい何時、そんなにリラの好感度を上げていたのか。
カケルから見たら彼女は一年の頃から仲の良い女友達で、幼馴染みの京美の親友で――。
「――ま、仮にワタシが入部を許したとして……部長であるカケっさん先輩と顧問のやっちーが許すかな!!」
「ちょい待ち菫子!? 俺部長なの!? 初耳なんだけど!?」
「あれっ? やっちーセンセって卓ゲ部の顧問だったの!?」
「(ゴ)リラ先輩はともかくカケっさん先輩は初耳…………あ、そういえば言ってなかったわ、部長会議は副部長でも出席可なんでワタシ出てましたし」
「いやもっと早く言って!? 色々と手伝うから!」
「まー大した仕事ないっすから、ウチの部って予算少なくても歴代の部員が自費で買って置いていったボードゲームが沢山ありますし」
「へー、棚にある大量の箱はそういう……じゃなくて! 要は顧問のやっちーセンセに言えば入部させてくれるってコトだろ!! なら――」
次の瞬間、開きっぱなしの扉から白衣の人物が勢いよく入ってきて。
「――――話は全部聞かせてもらったっ! ウチに入りたいって、やった久々の新入部員っ、だーー!!」
「あっ、やっちー先生だおはよー! ボク入部したいんだけどオッケー?」
「来るなりなに喜んでるっすかやっちー!? こんな泥棒ゴリラの入部なんて断ってくださいよォ!!」
「命の危機なんだよやっちーセンセ!! 俺を助けると思って拒否してくれええええええ!!!」
「え~~、どうしましょうかねぇ。部員が増えるのは良いことですしおすし、顧問として特に問題のない桜路さんを拒否するのはちょっと……」
「えっ、じゃあオッケーってこと!? やったー!! 今日からカケルと一緒に部活~~!」
「やっちー!? 風花!? 八千代先生!? 俺の命がヤバイんだけどおおおおおおおおお!?」
カケルは青ざめた、顧問である彼女が許可を出してしまったが最後、己は彼女のアプローチ(物理)に耐えられるだろうか。
――同時に、ズキっとした胸の痛みに気がつかず。
ともあれ、カケルだけでなく菫子も慌てる中。
「だがしかし!! 生憎と私はカケすみてぇてぇ派なんでねっ! 二人の邪魔をするなら――容赦はしないぜリラちゃんよぉ!!」
「なぬッ!? そんなヤッチーはボクの味方だと思ったのに……まさかそんな派閥があったなんてっっっ!!」
「え、センセ?? ワタシはカケっさんセンパイ趣味じゃないんですけど???」
(――――どうして)
変だ、おかしい、とカケルの頭の中で何かが訴えている。
だけど単語一つ、具体的な何かが浮かんでこない。
困惑の眼差しを風花に送るカケル、それに気づいた菫子は右の拳を握りしめ。
「…………はぁ、じゃあ折角だし言っちゃいましょうかカケル先輩?」
「おぐっ!?、あ、おう!!(話し合わせろって肘打ちだよな今の??)」
「菫子ちゃん? 何かあるんです? あ、もしかして新作のボドゲ買ったとか!!」
「それならボクも参加するー! 今からやる? それとも放課後?」
ゲームとあらば子供のように目を輝かせる保険医風花、ゲームへの興味半分、恋心半分でテンション高いリラ。
そんな二人に菫子はニマリと不敵な笑みをひとつ、次の瞬間ぐいとカケルの横にずれ。
押しつける、彼の腕にむぎゅっと胸を、見せつけるように押しつけて密着。
「実はワタシ達! 昨日から付き合ってまーす!! いやぁそこのゴリラ先輩が告白失敗してなきゃ恋人になれてなかったですよー-、アシストありがとーございまーーすッ! ね、カケル先輩っ!」
ああ、と頷こうとしてカケルは辛うじて首を縦に振った。
どうしてだか今は、肯定する言葉を喉から出てこなくて。
出来ることと言えば、菫子の嘘への困惑を見せないよう顔を背けてみせるばかりだ。
――幸か不幸かその姿は、風花とリラにはカケルが照れている様にも見えて。
「うっ、嘘だッッッ!!! 絶対に嘘だってそれ! ボク聞いてないそんなの聞いてなああああああああああああい!!!」
「ふーーーーーーん、昨日から、そう、昨日からなんだぁ…………ね、か、……天城くん? 先生、ちょおおおおおっと詳しく恋バナ聞きたいなぁ??」
(なんかヤッチーも怒ってる!? 怒ってるよねコレっ!? ヤッチーに捕まれた右肩がすっげー痛いっていうか爪食い込んでる感じしてるんだけどおおおおおおおおお!?)
「へいへいへーい、彼ピに手を出すなチョーーップ!!」
「ふぎゃっ!?」「あいたぁ!? なんでボクまでっ!!」
「今ですよカケル先輩! ホームルーム開始まで逃げましょう!!!」
「わ、わかった!!」
そうして、偽りの恋人関係となった二人は部室から全力で逃げ出したのであった。
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