2-18
千香がクラブハウスサンドを持ってテーブルにやってきた。古館の目の前に皿を置き、千香はスマホを取り出した。約束通り、彩女に連絡を取ってくれているらしい。付け合わせのフライドポテトの揚げたてのにおいに食欲をそそられながら、古館は彩女が電話に出るその時を待った。
「あ、彩女? 私、千香だけど。今、いいかな? うん、あ、そうなんだ。ごめん。急ぎっていうか、今、電話じゃないと話せないことなんだけど……」
話ながら千香が古館をちらちらと見やった。
「今ね、お客さんで、新聞記者の人なんだけど、M中学の……」と、千香が助けを求めるように古館を見た。
「吉井零士」
「吉井零士って生徒のことを調べてて。彩女、M中学だったよね。それで、もしかして知ってるかなって思ってさ。うん、うん……そうなんだ。直接話してみる?」
千香がテーブルにスマホを置いた。スピーカー設定にしたスマホから高い声が聞こえてきた。
「もしもし?」
「私、毎朝新聞記者の明神と言います。今、2hill関連の取材をしていてですね……」
「2hillって、あの2hillですよね。死んだのによみがえったとか言っている」
「はい、そうです。吉井零士という人物が2hillではないかという情報がありまして、真偽を確かめに取材しているわけなんです」
「そうなんですか。でも、さっきも千香にも言ったんですけど、吉井くんは2hillじゃないですよ」
迷いのない発言だった。断言する根拠は何だと尋ねたいのをこらえ、
「よかったら、直接会って話を聞かせてもらえませんか」
その方が話が早いからと彩女は快諾した。
「そこのファミレスの先にカラオケのお店があるんです。そこまで来れますか? 私、今そこに友達といるんです」
「わかりました。すぐ向かいます」
クラスハウスサンドをかきこむようにして平らげる。味はまるでしなかった。膨らんだ腹を抱え、ファミリーレストランを出る。
カラオケ店は真っ直ぐに歩いた先にあった。
店の外からスマホで連絡を取る。部屋番号を教えてもらい、店内に入っていった。
部屋には彩女を含め、3人の少女がいた。
明神がドアをノックするなり立ち上がってドアを開けた少女が彩女だった。セミロングの髪は明るい色に染められている。彩女は、席に座っている2人をそれぞれ奥から郁美、絵里奈と紹介した。郁美はショートカットでぽっちゃりとしていて、絵里奈は和風な顔立ちだ。
彩女、郁美、絵里奈は3人ともM中学の同級生だという。
「吉井くんのことを取材しているんですよね」
彩女が口火を切った。
「そうなんだ。2hillは吉井零士だという情報があってね。その人物はM中学の時の同級生だと言っていた」
「同級生……じゃあ、私たちの誰かってことなんだ」
「そうだろうね。その人は卒業アルバムの写真も送ってきてくれた。これはコピーだけど」
古館は、ドリンクやおつまみの容器を退け、千香にも見せた写真のコピーをテーブルの上にひろげてみせた。郁美と絵里奈はすぐさま写真を覗き込んだが、彩女は興味を示さなかった。
「2hillに似てるよね」
絵里奈がぽつりと言った。郁美がうなずく。
「似てるってだけだよ。吉井くんは2hillじゃない」
すかさず彩女が否定した。
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