2-17

 乗り継ぎを経、吉井零士が通っていた中学校のある街の駅に降り立つ。ベッドタウンの昼過ぎとあって、人の行き来は少ない。と言うより、なきに等しい。駅前のアーケードをそぞろ歩いてみるが、建物は古いし、看板も古い。昔からあるような店ばかりで、新しい店構えの店が見当たらない。駅前のアーケードというより、町中の商店街といった佇まいだ。住民は駅を利用するが、買い物自体は自宅の近くか郊外のショッピングモール(あれば、だが)のような場所でするとみえた。


 古館は駅へと引き返した。在来線に乗り、近くの有名観光地近くの駅まで行く。


 改札を抜けた瞬間、正解はこちらだったと古館は確信した。駅前の開けようは先ほどの駅とは比べようもない。新幹線も停車する駅だ。初めからこちらで降りるべきだったか。


 腹の虫が鳴ったのをきっかけに近くのファミリーレストランに入った。


「なあ、この子、知ってる?」


 注文を取りに来たアルバイトの少女に古館は吉井零士の卒業アルバムの写真のコピーを見せた。


「え? 2hillですか?」


 写真のコピーを覗き込むなり、少女は即答した。コピーとはいえ、カラーで質は悪くない。少女の年齢も二十代前半ぐらいと2hillを知っている世代だ。こちらが何も言わなかったにもかかわらず、少女の口から2hillかという言葉が出てきた。その反応は古館を喜ばせた。


「んーでも違う? 坊主頭だし、制服着てるし。誰ですか?」


 少女は小首を傾げてみせた。ポニーテールの毛先が首の後ろで揺れている。一瞥しただけで2hillだとわかったというのに、じっくりと写真を眺めまわして細かい点まで注視してみるとかえって誰だかわからなくなってしまったらしい。


「M中学の吉井零士って生徒だ。知ってる?」

「M中? 彩女の出身中学だ」


 しめた、と、小躍りしたい気分を抑え、古館は出来るかぎり優しい声音で尋ねた。


「その彩女ちゃんって子、友達?」

「あ、はい。バイト仲間ですけど」

「その彩女ちゃんって子に会えるかな? この写真の生徒のことを知っていたら、少し話を聞きたいんだ。あ、おじさん、新聞記者なんだ」


 古館の正体を怪しみはじめた少女にむかって古館は明神の名刺を差し出して見せた。名刺は、社への連絡先も把握しておきたいからとあらためてもらっておいた。明神は律儀に予備だといって何枚か余分に渡してくれた。


 毎朝新聞の名前の威力は絶大だった。少女の警戒心はたちまちにほどけた。むしろ好奇心をすらかきたてたようで、自分の名前も自ら打ち明けてくれ、取材に協力すると申し出てくれた。少女の名前は千香といった。


「彩女、今日はシフトに入っていないんですけど。連絡してみましょうか」

「お願いできるかな」


「はい」

 古館の注文を取り、千香は去っていった。


 注文のクラブハウスサンドが届くまでの時間は長く感じられた。千香はバックヤードで彩女という少女に連絡を取っているはずだ。やはり賑やかな駅に移動して正解だった。最初の駅は吉井零士が通っていた中学の最寄りの駅だったが、あまりに人がいなさすぎた。


 古館が会いたい人間とは吉井零士を知る人間、同じクラスだったというのなら両手をあげて大歓迎だが、そうでなくても同級生か、上級生、下級生、同じ中学に通っていた生徒だ。


 彼らは二十代前半、大学に通っているか、働いているか。大学生ならアルバイトぐらいしているだろう。それも近場でだ。古館の読みはあたった。M中学出身の生徒が駅ひとつ隔ててより賑やかな場所でアルバイトをしていた。


「お待たせしました」

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