第24話 遺憾千万

 とりあえず、フィギュアが如く首でももぎましょうかね。


『マスター。誤解が遺憾です』


 遺憾砲が意味ないことくらいこの国では常識なんすよね。

 それに誤解も何も冗談はその貴女の魔法だけで良いんですよ。

 

『私のせいじゃないですよっ! だ、だいたい遺憾砲なのはマスターのその無駄に存在感のある未使用早撃ちんち──』

「死にたいんですか?」

『ごめんなさい』


 それから何故、僕の健太郎様が光ったのかを聞き出すと、どうやら作成者のイタズラらしい。

 くそっ!

 絶対そいつ性悪ですよ!


「とりあえず動けるまでは回復してきましたけど、今これどういう状況ですか?」


 ドアや窓が消えた以外、内装は変わらずなのはまあ良いとして、三人とも万歳してM字で床に座り口開けて舌を出しアウアウしてるんですが。

 スカートの奇跡がインフレしてるんですが。


「これじゃあ時間停止モノと変わらないじゃないですか…」


 目が吸い寄せられてしまうじゃないすか。


『神話から概念だけを抽出し構築した術式ですね。効果はわかるんですが、原理はわからないです』

「スマホみたいな感じですか。その効果とは?」


『屍体にするな、喧嘩を止めろ、黙らせろ、と願い承っておりますが?』

「間違えてはいませんが…」


 血濡れ金髪女子二人にめちゃくちゃ睨まれてるんですが。

 同じく血濡れの黒川さんだけは目を閉じて舌を出したままなんだか頬を染めてあーんしてるんですが…。

 確かに健太郎様はまだまだ元気ですが。

 これなんとかならないのか…。


『手伝いましょうか?』

「結構です」


 脱ごうとしないでください。

 試みたくなるじゃないですか。

 そもそも隆々としていたのはフォーさんのせいでしょ。


『今は何にもしてませんし、違いますよ。それ、マスターのただの性欲です。今まで随分と抑制していたみたいですね?』

「…」


『ふふ。ではマスター、次はこれを』

「何故にナイフとハサミを?」


 鋼っぽい黒の短剣と地獄の獄卒が持ってそうな刃のない真っ黒なハサミが出てきたんですが。


『この後の流れですが、メス共の舌をその鉗子で引き出し剣で切って落とします』

「何ですって?」


 閻魔の所業ですか?


『落ちた舌は、ピクピクと動いていました。そしてあろうことか、マスターはそれを見つつ拘束された彼女をアーレーするのでした』

「サイコパスじゃないですか」


『何事もなかったようにマスターが家に帰ると、待ちわびている義妹に、涙ながらに作り話をしました。「残念なことに、彼女は航海の荒海にさらわれて…俺は、俺はぁぁ…!」と後悔する──』

「ストップ」


 それ何の話ですか?


『これはあれです。子種をいただきつつ邪魔者を排除し、心にトラウマを植え付けるための実験汚染コンタミナー系監禁洗脳魔術ですね』

「…よくわかりませんが、なぜそれをダウンロードしたんです?」


 それに監禁洗脳してどうするんですか?


『ぶっちゃけこのメス達面倒だなって』

「わぉ」


『マスターもワタクシのアバターも無視してましたし当然の報いかと』

「そうですか…僕は気にしてませんけど、その恨みは推し量れませんね…」


『現世の肉体が傷付くわけではないので大丈夫ですよ? 痛みは数倍ですが』


 ニコニコして何なのこの子…。

 やっぱ首へし折ろうかな。


『冗談です』

「ほう」


 じゃあやはり死にたいのかな?

 何がしたいのか皆目検討がつかないんですが。


『ち、違うんです。こっちが本命です』

「これは?」


『★5、[美しき海の石ブリーシンガメン]という名の真愛の首飾りです。炎にめちゃくちゃ強いのですが、パートナーが必ずエヌテーアールされてしまうという品で、心が焼かれ性癖が芽生えるか愛が枯れるか死を願うかを試すのに適した──』

「ぶっ壊しましょう」


 ただの呪いじゃないですか。


『もちろんわかってますよ。それをこうやって──むーんっ!』


 小さなフォーさんがその青くて綺麗で傍迷惑な首飾りをチャンピオンベルトが如く掲げると、パキンと弾けました。

 そして同時に黒川さん達の首に何か装着されましたね。

 でも真愛なんて真逆も真逆の黒革の首輪になってるんですが。

 ちっちゃな金髪の子、ノゾムさんが泣きそうなんですが。

 相変わらず舌出して万歳したM字のままですが…。

 外したくても近寄れないくらい睨まれてるんですが。


『そそりますよね?』

「…それよりこの趣味と頭の悪い首輪は? 見たところ何の変化もありませんが」


『なっ!? ちゃんと仕立て直したんですよ! それに大事なのはその効果なんです!』

「その効果が見えないんですが?」


『…装着者同士なら喧嘩出来ません。仲良くデキます』

「そうですか…ありがとうございます」


 ならひとまずはそれでいいとして、先に服を何とかしましょうか。

 ずっと睨まれてますし。

 ただ、インベントリが使えないんですよね。


 どうも僕のインベントリをリフォームしてフォーさんの支配下に置いたのが今のこの空間らしい。

 家主が天使から妖精に変わり、自由度や維持管理コストなどが破格の扱いになった模様。

 そんな話はどうでもいいんですが、それより問題なのは彼女が未来の猫型ロボット化してる事なんですよ。

 僕がインベントリを自由に使えないなんて意味がわからないんですよね。


『自由に使っていたらあの天使に精神を汚染されますよ? 便利なモノには罠が必ずありますから。だから隔離したんです』

「そうですか…よくわかりませんが、ありがとうございます。では、何か服を出してもらえます?」

『女物しかありませんけど。よろしいですか?』


 全然よろしくないですね。


「防具とかありましたよね?」

『まだ無理ですよ』


 どうやら天使の用意した装備品は、人々の恐怖や歓喜、欲望や欲求などの感情を糧に生み出した呪いの品だそう。健太郎様やら他の保持者が持っていた垢が付いていて、それは呪いと何も変わらないらしい。

 それを黒川さん達の分身体を使ってしゃかしゃか磨き落としてる最中だそうな。

 よくわからないけど、とりあえず現実から持ち込んだ物は出せるみたい。

 けど碌なモノがないんすよね。

 紐みたいな水着とかコス衣装とか。

 全然戦争が出来そうな服が無いんですけど。

 健太郎様の性癖覗いてるみたいで嫌なんですけど。


 下着をとこの子に服頼んだらパンツを出してはくれたんですよ。

 白ブリーフですが。


『学ランに白ブリーフは至高ですが何か問題が…?』

「もしかして頭の中腐ってます?」


 しかもこの未使用ブリーフ以外、女の子の下着しかなかったんですけど。

 おそらく健太郎様の私物くさい。

 パンツが大量に出てきた瞬間を見た彼女達の汚物を見るかのような視線に──。


『ゾクゾクしますよね』

「…しませんが」


『マスター、そろそろ次の段階に移ってもよろしいですか?』

「何がです?」


『さきほどの短剣と鉗子です』

「死にたいんですか?」


『ち、違いますよ! そこのメス共の仲間でしょうか。か細いですが舌からパスがまだ出ています。例え口約束でも天使を介した契約は全て断ち切りたいんです』


 聞けばどうやらこの空間も首輪も天使からの介入を断ち切るのに適したモノを揃えたらしい。

 でもまだ繋がりは残っているのだとか。

 だからといって舌を切り落とすとか無理ですよ。


「ちなみに残すと何か問題があるんですか?」

『繋がった先が空間破裂手前まできてますね。閉鎖空間にして…天使に見つからないように監禁系魔術で全ての出入り口を塞いで備えたんですけど、おそらくこちらも無事では済まないかと』

「大変じゃないですか。早く助けてあげてください。切らずに出来ますか?」


『え? おすすめはしませんが…』

「お願いします」


『…仕方ありませんね。ではまずはこれを』

「仮面…?」


 凸型のアズナブルみたいな仮面をどうしろと?


『え? 助けるにはこちらに招くしかないのですけど…。その格好、恥ずかしくないんですか?』

「…」


 この子…大丈夫かこいつ、みたいな顔してマジ腹立つんすけど。

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