第25話 青天霹靂

『ズボンがないなら逆に顔を隠せば良いのでは?』

「…確かに」


 そういえばマスクしてたら裸にも蝶にもなれるえちちな女の子っていますものね。

 その発想はなかったっす。


「でもこれ…目出し帽とか、マスクとか何か他に無いんですか?」

『ベッドの上に色とりどりありますが?』

「全部パンツじゃないですか」


 グレーのふんどし型レースとか凸形的にはこの仮面に似てますけど、パンツをかぶるとか変態が加速して僕の評価がデフレるでしょ。


『正式なかぶり方は足を出す部分に目ですけど』

「変態じゃないですか」


 それに正式って何ですか?


『そんな人族ばかりでしたからワタクシてっきり』

「変態ばっかじゃないですか。おそらく天使の洗脳か何かでしょうけど…」


 何を睡眠学習させてるのか。

 いや、変態でもないのか。

 神話なんて変態ばっかだし。


『普通に生物の本能ですね。臭いは生死に関わる重要な要素ですから。ええ、これは仕方ないことなんです』

「股間に話しかけるのやめてもらっていいですか?」

『失礼しました』


 しかし…マスクとかヒーローモノ嫌いなんでイヤなんですけど。

 いや、パンツよりまだマシか…。

 仕方ない。

 これで我慢しますか。

 おお。

 何だか気が大きくなりますね。

 蕁麻疹出そう。


「では、短剣と鉗子をお持ちください。玄室ここへ至る鍵みたいなものなので。えっと、起点は…』

「手早くお願いします」


 もう変態装備がメンタルブレイク限界です。


『え? あ、はい。では。むむむ……むむーぅんっ!』


 宙を漂うフォーさんが下から上に両手を目一杯掲げると、また部屋が闇に包まれ暗くなり、ペカっと白く輝きましたね。

 急かしたせいなのか、またもや僕の健太郎様が彼女の行使する不思議の起点になった模様。

 白のブリーフがいい感じで闇に浮かんでます。

 それを見たのか黒川さん達が咽せてますね。

 かなりおふざけが過ぎてますよね。

 やっぱ首もごうかな。


「おお…」


 そうして光が晴れると、キラキラとした光の渦から四人ほど現れました。

 香水なのか、色が着いてそうなくらい甘ったるい匂いが部屋に広がってきましたね。

 みんなそれぞれ黒川さん並に可愛いとは思うんですが、金髪だしメイクが異様にケバいしスカートが短いしネイルも長いの装備してるしソックスがルーズで目が虚。

 なんか普通に怖い。


「…」


 しかし、何故キツめのギャル友ばかりなのか。

 もしかして黒川さんって昔遊んでたんですかね。

 いろいろとショックなんですが。


 いや…これはあれじゃないか?


 黒川さんに美人局されると金髪ギャル達が後から出てくるってパパカツアゲアゲ上納システムなんじゃないか…?

 くっ!

 すっかり騙されましたよっ…!

 この清楚ビッチめぇぇ…!

 僕の幼気な純情を弄んでぇ…!


「…」


 いや、まあ、天国みたいな地獄でしたけど。

 くっそ早くて情けなく失神したのは黒川さんのオーラルテクニクスの妙と剥き出しの世界だからと信じてます。

 日々、独自オナグッズで鍛えてるこの僕がそんな簡単に早撃ち失神するはずがありませんし。


「…はっ! な、何が……えっ!? ル、ルミっ!? ココッ! ノンも! 血がっ!?」

「ひっ、酷い…! 散々痛めつけて…辱めてっ! 更に首輪なんてッ…!」

「ひぃっ!? み、皆さんっ! へ、変態がいますぅっ!」

「学ランブリーフ仮面っ!?」


「…」


 それはまぁ…、そうなりますよね。

 僕もそんなことはわかっています。

 ただこちらには心強い味方がいます。

 今度こそ民主主義を始めましょうか。


 さぁ、フォーさんや。

 満を持して、今こそ姿を現すのですっ!


(マスター、やっぱり拘束までは無理でした。ワタクシ疲れたのでひとまずお暇を。七人もなんて、あんなお掃除ペロペロ分じゃ足りないです。今すぐというのならサイズがアレですので仕方ありませんが、ワタクシのアバターにぶっかけて呼び出してください。何ごとにも対価は必要ですよ。アデュー)


 アデュー……?

 というか今ドロンとかマジですか。

 確かにギャルの後ろに一匹やる気ない感じのフォーさんが遅れてひょっこり現れましたが、この子が分身体…?


「あの子に…ぶっかけ……?」


 しかもこの状況で?

 ははは。

 そんなことできるわけないじゃないですかっ!

 それにどこの世界にこんな状況の、女の子過多の、しかも出口のない部屋で発射できるサイコ野郎がいるというのか…!


「ぶ、ぶっ…かけっ?!」

「コス仮面に白ブリーフ……? 血だらけの部屋…にぶっかけ……はっ!? み、みんなぁッ! こいつ[紅白聖夜シンタクラース]だよっ!」

「あのッ?!」


 どの?

 それに神託ラースって何ですか?

 天使の使徒か何かですか?


「穢血と白濁の処女狂い! あなたが黒幕でしたか!」


 違います。

 なんですか、その変質者みたいな二つ名は。


「皆さん、対人武装を!」

「は、はぁい!」

「でもインベントリが!」

「使えない!? くっ、用意周到とはまさに! みんな! D Tデストロイ ティンコ装備をっ!」


「…」


 D Tって何で見抜かれたんでしょうか。

 あのイタズラ妖精まさか僕にタグ付けしてませんかねぇ。

 それにしても見た事ない制服ですけど…指定鞄なのか、お揃いの紺のスクールバッグから何やらいろいろ取り出し始めましたね。

 練度高めで臨戦体制はバッチリです。

 ここは無抵抗的に万歳しましょうか。


「はっ! そんなテント見せつけてさぁっ! 少し早いホワイトツリーってワケ? 何回だって切り倒してあげるよッ! この白濁変態外道仮面っ!」

「お、おパンツさんがこんなに…? 聖夜にミルクおパンツを無理矢理履かせる気なのでは…?! あ、あ、あなたは立派な精神異常者ですっ!」


「…」


 皆さんの冤罪力ってすごいすね。

 流石は美人局一味でしょうか。

 僕も何だかそんな気になってきましたよ。

 クックック。

 ようこそ我が支配領域、羊小屋へ。

 ここは僕が人形みたいな妖精にアレしないと出られない部屋です。

 最悪ですね。

 マジかよ。

 でもミルクおパンツって何ですか?

 ぜひ後ほど詳しくお聞きしたいんですが。


「ルミカちゃん…疑ってごめんなさいっ! そんなにカピカピになるまで責苦を…!」


 いえ、それ多分僕のじゃないっす。


「お二人を庇ってっ! ずっと一人で戦っていたんですね…! 私は自分が恥ずかしい…! ぐすっ、す、すぐに助け出しますからっ! 貴女こそ真のリーダーですっ!」


「…」


 そんな事を一番小さなロリギャルさんが涙ながらに言うもんだから黒川さん罪悪感か何かで目がくっそ泳いで大量に汗かいてんですけど。

 ココアさんもノゾムさんも死んだ目で黒川さん見てるんですけど。

 皆さん、彼女達の表情をよく見て欲しいんですが。

 観察って大事ですよ。


「そんなアリス鉗子なんて持ってさぁ…! 死なないからってみんなの大事なとこ潰して楽しむ気かなッ…?」


 モデルみたいなスタイルの金髪ギャルさんが僕を睨みつけながらそんなことを言ってきました。

 大事なとこって…そんなとこハサミで潰して楽しむ気なんて毛頭ありませんが…。

 発想が怖いんですけど。

 それにアリス鉗子って何?

 このハサミのこと?

 短剣もそうですが、これ手から離れないんすよ。

 不思議ですよね。

 ははは。

 呪いかな?

 ジーザス!

 

「女の子の体を何だと思ってるのかなッ…! 君! 地獄を覚悟したらいいよっ!!」


「…」


 黒川さんの味方が増えて結構ですが、また勘違いが加速してますね。

 まあ、この状況なら誰だってそう思うでしょう。

 僕もそう思うと思います。

 誰が見てもこの惨状はただのサディスティック快楽異常者の根城にしか見えませんし。


 でも僕は民主主義を諦めない。


 例え銃を突き付け合っていても、人は話し合えば分かり合える生き物なんすよ。

 

「あ、あの…」

「「問答無用ッッ!!」」


 こわ。

 はい無理ー。

 話し合いとか無理無理。

 ただでさえギャルとか怖いのにガチギレとか普通に無理っすよ。

 骸骨の方が全然マシっす。

 あいつら表情わかりませんし。

 遠慮要らないですし。


「みんなッ!」

「おおっ!」

「はいっ!」

「は、はい!」


 何やら皆さんスタンガンやら特殊警棒やら持って一致団結してますね。

 ようやく意見がまとまって嬉しい限りですが、望んでない感じの民主主義が可決成立してますね、これ。

 いや、これが全体主義って奴か…。

 勘違いで革命とかマジクソ迷惑なんですが。

 こんな時は逃げる一択ですけど、あのポンコツ妖精、何の説明もなく現場からドロンとか、あり得ないんですけど。

 口に出すと書いて出口とか新解釈すぎてついていけないんですけど。


「くっ! 何なのそのヌルヌルした動き! 気持ち悪いっ! やぁっ! 死ねっ!」

「変態のくせに! 生意気かなっ! はぁぁっ!」


 スポーティな金髪特殊警棒さんとモデルな金髪スタンガンさんが二人で襲いかかってきました。

 そんな短いスカートでハイキックとかもしかしてサンタですか?

 まあ、仮面で目線は悟られませんが。

 グッジョブ、健太郎様。

 おかげでブリーフがテント張って、膨張インフレが止まるところを知りません。

 煽るのやめてくれませんかねぇ。


 他二人のギャルママみたいな金髪ロープさんとロリギャルみたいな金髪手錠さんは黒川さんのところに向かいましたね。

 どうか助けてあげてください。

 そして冤罪を晴らしてください。

 逆転勝訴待ってます。


 しかし、それまでどうしたものか。

 おそらく天使のヒットポイントバリアも無くなってるだろうし、何倍も痛いらしいし、間接外すとまずいかな。

 女の子の悲鳴って怖いんすよね。

 鼓膜突き抜けて蝸牛に刺さるし超苦手。


 いったいどうすれば──


(──…いや…、…待てよ…?)


 こんなに立て続けにアンラッキースケベが重なるなんて、明らかに…おかしいのでは…?


 思えば一学期あたりから何か違和感を感じていたような気がしないでも──


『──兄ちゃんっ! 全然気にしなくていいからね! 僕はへいきだよ! じょなん? って言われても、あんまりよくわかんないけどさっ! えへへっ』

「…」


 これ…もしかして僕に回ってきたんじゃ…?

 いったいどうやって──


「考えごとなんてしてさっ!」

「派手に逝くと良いかなっ!! 必中ぅっ!!」


「──ふぉごッッッ?!!」


「やったか!?」

「メイッ! それ負けフラグ! 残心っ!」


 どうやら彼女達を僕は過小評価していたらしい。

 でも当たらなければどうということは無いんですよ…!

 当たらなければねっ……!


「…くく、くっくっくっ、くは、は、はははははは…! はぁーはっはっはっはぁ───ッ!!」

「嘘…!? 改造スタンガンだよっ!? 笑うとか変態過ぎないっ!?」

「ならもう一回かなっ! メイっ! 構えて! 削るよっ!」


 だから当たるともうどうにかなっちゃいますね。

 玉キンに。

 流石に無視できないほどの超絶冷たい痛みが脳天まで炸裂し全身に燃え広がって逆に笑えてきましたよ。

 内臓から何か何やらいろいろ生まれそう。

 これは吐く。

 つまり死ぬ。


「はぁーはっはっ、はっ、ははっ、ぐ、ぐぅ、オェ、や、やっぱ、あ、あの妖、精───」


 ぶっ殺、そ───


 

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生まれ滑るドットナックス 墨色 @Barmoral

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