第17話 神様ノ雫
謎は謎のまま放置した方が、精神衛生上、一番健やかなのが僕の経験上正しいけど、もはやそうも言ってられないかもなぁと、黒川さんから聞き出すことにした。
するとどうやらここ二日で目撃していた人形みたいな生徒達は、この悪趣味イベントに参加させられた人々が、地下世界で死ぬと必ず陥る状態なのだと言う。
それを
健太郎様のあのモーレツ嫌がりように納得しつつ、さっき起きたアスナさんの事を聞いてみると、ダブルブッキングに驚いた黒川さんは眉を顰めながら口を開いた。
「それは多分深度Ⅰの状態だと思う…」
「深度…?」
「うん。えっと、さっきスピード落ちたでしょ?」
「ええ」
「あれは体内のオドを使い果たしたの」
「その、オドって言うのは?」
「オドって言うのは内燃エネルギーって言えばわかる? ゲームのMPとかSPみたいなモノでね、スキルを使うと消費するの」
「スキル…? ああ、あれですか…」
そのスキルっぽい名前を叫んだ健太郎様のイキった勇姿が思い浮かぶ。
直前の動きとまったく関係なく定型的な動作を繰り返すのでつい笑ってしまい、怒らせてしまったんですよね。
いや笑いますって普通。
慣性を無視してたからマリオネットみたいにしか見えなかったですし。
普通にキモい。
「スキルは様々でね、オドの消費もそれぞれ違うんだけど、それを使い果たすと立ってられないくらいの虚脱感に襲われるの」
そしてそのスキル以外にもオドを捧げて扱う武器もあると続けた。
黒川さんが膝をついたのはあの武器のせいなのかな。
まあ、普通の人にいきなり戦えなんてかなりの無茶。槍でも素人なら三日は掛かるし、余程のセンスがなきゃ無理でしょうし、スキルと魔法武器様々ですね。
「そこからオドを長く補給しなかったら、落ちていっちゃうんだけど、多分、その子は最初に飲まされたコレのせいだと思う」
そう言って黒川さんは渡した例のアイテム[
もうネーミングからしてアタマ悪そうなアイテム。
回復飲料はメロンソーダみたいな色だけど、こっちは見るからに毒々しい真っピンクの液体。
でも人によっては美味しそうとも思えるかも。
まあ、彼ったらこれを嬉しそうに嫌がるアスナさんに飲ませてたし、きっとそのまま碌なモノではないんでしょうね。
黒川さんも眉をひそめてますし。
「その、落ちるとは?」
「えっと、簡単に言うとゾンビに近い状態のこと」
簡単じゃないんですけど。
まだ、よくわかってないんですけど。
「言いなりになるんですか?」
「現実世界とはちょっと違うんだけど…これはオドを無理矢理に活性化させる効果もあるらしいから、多分一気に深度が加速したんだと思う」
「加速ですか」
確かに普通ではない状態でしたね。
いろんな意味で加速してましたね、ええ。
「でもオドをちゃんと補給すれば、深度がⅡ、Ⅲと回復していって、意識もはっきりしてきて普通に喋れるようになるの。具体的な数値はないけど、意識の混濁加減とかで判断するかな…」
トリアージみたいなものかな。
あれは1最優先、2非緊急、3軽微、4死亡だけど、それとあまり変わらないのかもしれない。
「そ、それで直接死んだりはしないけど、バリアがあっても戦ってる最中は間接的に危ないからみんなオド切れを避けるのが普通なの」
「バリアと言うのは?」
「バリアはね、ヒットポイントバリアって呼んでてね、二回まで命を守ってくれるの。三回目でアウト。ログアウトしてゾンビになるの」
「…」
よくわからない顔をした僕に、黒川さんは続けた。
何でも、プレイヤーと呼ばれるこの不思議イベント参加者達一人一人は、ログイン時に三つの命を持っていて、それを失うとあの不思議世界から強制的に排除されるのだそうな。
延命措置、いや救済措置なのかな。
あるいは、侵略者と戦える人材に足り得ないと排除されたのかも。
健太郎様を殺したのはまずかったかな。
いや、死んではないのか。
ややこしいな。
「だから契約して──」
「一ついいですか?」
「あ、うん。何?」
「そもそもニビル以外にオドってどうやって補給するんですか?」
「……」
え? 何…?
なんか急に黙ったんですけど。
何言ってんだこいつ、みたいな顔してるんですけど。
黒川さん曰く、あの小さなメダル──ニビルはこの不思議世界で何でも交換できるポイントやソシャゲの石みたいなものだそうで、まあ、つまり現実のお金と同じ通貨。
商店街にはめちゃくちゃあったけど、どうやら敵を倒さないと普通は手に入らないらしい。
プロセス的には敵を倒し、ニビルをゲットした瞬間に自動的に失った分のオドを満たすそうな。
残った分が報酬で、それをガチャやアイテムに使うらしい。
その設定も罠くさい気もするなぁ。
「……」
「あ、ああ、すみません。回復するのは普通にアイテムですよね」
「……」
そんな黙ったまま睨まなくても…。
かわいいだけですけど。
というより、まだ回復って概念がしっくり来ないんですよね。手も足も命も一度でも落としたら二度と帰ってこないのが当たり前ですし。
こういうモノだからとそんなルールを押し付けられてもなかなか受け入れ難いんですよ。
ただ、命の残機は三つだとしても、スキルを多用したりすると当然ジリ貧になるのは目に見えてる。倒してからじゃないと補給出来ないなんて、おそらく人によっては無理だと思う。
まあ、レイドと呼ばれる複数人でのパーティプレイが可能になった今なら無理じゃないのかもしれないけど。
「うーん…」
インベントリのホーム画面には武器、防具、アイテム、水晶、骨、みたいな感じで並んでました。
水晶と骨は無視してアイテムを見てるんですけど、よくわからないモノが多い。
健太郎様はかなりの資産家だったようで、大量のアイテムがありました。
初回ボーナス様々ですね。
でも、効果や用途は載ってるけど、オドを回復するようなアイテムが見つからない。
というか探すのが面倒くさい。
「一応探したんですけど、見つからないんですよ。なんて名前なんですか?」
インベントリから顔を上げて黒川さんに話しかけると、彼女は思いっきり横を向いてボソボソと小さな声を溢した。
「……か、神の…雫…とか…?」
「なぜ疑問系なんですか?」
「……」
「黒川さん?」
そしてなぜまた黙る…?
それにその大量の汗は何ですか?
この空間、快適温度なんですけど。
まあ、神系悪口リストには入ってないから怒りませんけど。
でも、そんなアイテムどこにもないんですけど。
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