第18話 運命縛鎖
「…えっと、やっぱりそんなの無いんですけど………あの、黒川さん? 何故に抓るんです?」
いつの間にか真横にピタリと近づいていた黒川さんは、無言で暴挙に出てきた。
太もも痛いんですけど。
サラサラとした黒髪がめちゃくちゃいい匂いなんですけど。
「それ、わざとなの…?」
「急になんですか?」
しかも次は抓ったとこ撫でてきたんですけど。
この人情緒大丈夫かな。
太ももすべすべするのやめてくれませんかねぇ。
健太郎様が呼んだか俺様を? なぁ童貞ボーイってめっちゃイキってくるんすよ。
「か、神様は全てお見通しってわけ…?」
「だからそれやめてくれません?」
いじめですか?
買いますよ?
「ご、ごめんなさい…! で、でも助けてくれるって言ったよね?」
「え? はい」
「怒らないって言ったよね…?」
「言ってませんけど…?」
「巻き込んだことも含めて今日のこと許してくれたから助けてくれるって言ったんだよねっ!?」
「よ、よくわかりませんが、何かあったんですか?」
それより急に立ち上がるから黒のバミューダトライアングルがチラッと見えたんですけど。
パンチラは奇跡なんすよ。
奇跡なのにそんなに多発されると怒りは消えましたけど、違う怒りが湧いたというか。
仮にも美少女なんですし、そこは鉄壁じゃないと。
それになんですかね、ここが自宅風だからですかね。ものすごく帰って欲しいんですけど。
一人にして欲しいんですけど。
ムラムラするじゃないですか。
「怒らない…?」
「内容によりますが」
「ッ!?」
「そんな驚いた顔をされても…当たり前では?」
すると、黒川さんは立ち上がったままウロウロし出した。
スカートが揺れてまあこれが目に花なんですよね。毒だっけ。
「じ、実はね。帰ってこない神くんを待ちながら、段々と意識が遠く無くなっていったの…」
「え? 大変じゃないですか」
ここの床は自宅と同じように一面グレーのカーペット仕様でした。
この下は硬いコンクリみたいな感じのまま。
あの天使店主様、再現性が高過ぎますね。
頭から倒れたら一大事ですよ。
「そ、そう! 大変だったのっ!! ボス倒してくれたのに! クリアしたのに! いくら待ってても神くんは! 帰ってきませんでしたっ!」
「それは…」
あれから健太郎様と遊んでましたけど、そんなに待たせたかな。
いや、アスナさんか…。
正直どれくらいああされていたかわからないんですよね。
そんなことを考えていたら、黒川さんが、なぜか顎に手を添えキメ顔を作ってた。
「──もちろん助けるに決まってるだろう? ルミカ、いい子で待っていろっ! そう力強く言ってくれたのにっ…!」
「言ってませんが」
捏造が過ぎる。
僕そういうんじゃないんすよ。
あと声作るのやめてもらって良いですか?
腹話術と被るじゃないですか。
「そうして待てど暮らせど帰って来やしません! それは人類最短記録の約束破りなんじゃないでしょうかっ!?」
「…」
あれ?
なんかうざくなってきたんですけど。
可愛さ余って憎たらしさ100倍でしたっけ。
流石にそこまでは思わないですけど。
これが顔面偏差値のパワーですね。
健太郎様すみません。
僕は現代人なんです。
「しかも知らない部屋にポツンとひとりぼっちのわたし…! ベランダも! 他の扉も! まだ拡張してないのはさっき説明した通り…! なのに君は帰らないっ!」
まあまあ長いすね。
さっきから右左往復を繰り返しながら身振り手振りしながら喋ってますけど。
演劇部ですかね。
鑑賞してて良いですか?
趣味、演劇鑑賞なんですよ。
履歴書に書くと華やかになりますよね。
というかミニスカもっと堪能出来ると思うんですよね。見えないのがいいと言うか、奇跡の一歩手前にこそ深淵があるというか。
「これが神待ち少女の絶望感なのかと…!」
「意味わかって言ってます?」
あと苗字を弄るのやめてくれませんかねぇ。
「薄れゆく意識の中、君に何かあったんじゃないかな。大丈夫かな。心配だな。でも意識が…!」
「聞いてます?」
「それはまさに純然たる心配と純粋な恐怖でしかなく、わたしに出来ることはっ、ただ震えながら無事を祈り彼を待つことだけでした……!」
「えっと、それは…すみません」
そこまで待たせていたとは…というか今何時なのかな。ここでもスマホは使えないみたいですし。
「謝らないでっ!!」
「え? なんでですか?」
「なんでもなのっ!!」
「…」
この人情緒不安定過ぎて怖いんですけど。
「そして朦朧とする意識の中、気づけばそこには聳え立つ天使の梯子がっ!」
「天使の梯子は聳え立たないと思いますけど」
普通は天井裏収納階段みたいにして降りてくるんじゃないかな。
というかこの人はさっきから何を言ってるんだろうか。
「そこにあったらそんなの普通登るでしょ! 駆け上がっちゃうでしょっ!」
「駆け上がったら召されると思いますけど」
「そうなの…召され堕ちたのっ…! 天使は雲を割ってわたしを白い大海原に突き落としたのよっ!」
「何を言ってるんですか?」
「いいから聞いて! そして神くんはズタボロの姿でベッドに死んだように寝ていてっ…! もぉ、濃厚ごっく…わ、わたしが意識を取り戻した時にはもうたっぷりと遅かったんですっ! 生きててくれてありがとうっ!」
「それはどうも。お互い無事で何よりでしたね。でも今なんか言いかけましたよね?」
あとたっぷりと遅いってなんですか?
確かに遅かったのは悪かったと思いますけど。
「くっ、だ、だから深度がIになってたのっ!」
「…あれ? ボス倒したって言ってましたよね?」
ボスらしい個体なんていませんでしたけど、クリアはしたんですよね?
何故に深度がIに?
「…つまり流石は神くんです。本当にありがとうございました」
「どういたしまして。いや、意味がわからないんですが、オドの話で合ってます?」
「だから合ってるってばっ! 前からそんな気はしてたけど! 神くんのいじわるっ!」
「…意地悪…?」
いや、そうじゃなくて、頑なにはぐらかすのか意味がわからないんですが。
そもそも戦の基本は兵站ですし、武器防具より何より重要なのが供給力なんですが。
オド切れ狙ってんだろ、なんて健太郎様も言ってましたし。
「つまりもうわたしって助かってるよね?」
「…もう助けなくて良いってことですか?」
「ん〜〜っ! 何でわかんないのっ! 絶対わざとでしょっ! このドSっ!」
「ド、ドS…? いや、どうやったらオドを補給出来るか聞いてるだけなんですが…」
それにドSってグール先輩とか健太郎様とかだと思うんですけど。
あと何でそんなに顔と耳真っ赤になるまで怒ってるんですかね。
そろそろ面倒なんですが。
「くっ、こ、これはどうやってもわたしの口から言わせたいという固く頑なに強い意志を感じますねっ…!」
「そんな意志は毛頭ありませんが」
どちらかと言えば僕は流されてしまうタイプでしたよ。ええ、はい。一時の快楽に身を任せるタイプでしたね。ええ、ええ。
「はっ!? もしかして…これが噂に聞く調教の第一歩…? まさにアメからのムチ…違う、待って。これもある意味…アメ…? やだわたしったら…」
「さっきから何を言ってるんですか?」
「…ほ、本当に怒らない?」
「その話、もしかしてループします?」
もう帰りたいんですけど。
さっきのアスナさんを思い出しながらとかすごく捗るんじゃないかなって思うんですけど。
「ループって言うより出来たらプールしたいなって言うか、ロープで…くっ、こうなったらっ!!」
「あっ」
ピンクの危ない奴、飲み干しましたね、この人。
ごきゅりごきゅりいきましたよ。
それ一応僕のなんですが。
まあいいですけど。
おごりますよ。
「ぷはぁっ、まずい!」
「まずいんですか」
というか飲んでも大丈夫なんですかね。
飲んだ意味もわかりませんが。
「そう! これはまずい事態なのよ! 知らないんだからッ! 言わせようとする神くんが悪いんだからぁっ! わからせてあげる! ご主人様の鬼畜ぅ!!」
「もう何言ってるかさっぱりなんですが」
しかも凄い風評被害。
誰が鬼畜ご主人様ですか。
そういえば、まだそれの説明もらってないんですけど。
それよりワカラセとか今時流行らないと思うんですけど。
ただのパワハラなんじゃないかなと。
「突然ですが、ここで新システムの出番です」
「本当に突然ですね」
新も何もまだ何も掴んでないんですが、加速しますね。
「ギルドインベントリィッ! 来てぇ! [
黒川さんが、おぼつかない足取りでそう叫ぶと、黒を塗り潰したようなマットな金属製の、犬の鎖の二倍くらい野太いボールチェーンみたいなのがインベントリから出て来ました。
全長5メートルくらいでしょうか。
ぐるぐると彼女の周りをゴリゴリ回ってます。
アンドロメダって感じで、綺麗な螺旋運動を描きながら彼女を包みましたね。
「からのぉっ、
「おお──あっ」
回すの上手いなぁって眺めてたら何故か簀巻きにされましたね。
酷くない?
それにしても虫の便りが無かったな…?
殺しに来てるわけじゃないのか。
「むふっふっふっふ──っ! 配下のインベントリィに鍵掛けにゃいとかぁ、あはっ、有り得らいしぃ、えへへっ、そこがぁ死神くんしゃまのぉ、良いところ! むふふふふ!」
「ええ…」
これがオドの活性化?
ただの酔っ払いじゃないですか。
何言ってるかわからないし、このままじゃあ、お家に帰れなさそう。
流石に酔っ払いは放っておけないし、お仕置きしないといけませんね。
ええ、ええ、これは仕方ない事なんです。
しかもこれは暴行ですよ、暴行。
悪質ですしパンチラ程度じゃあすみませんよ。
罪には罰をと言いますしおすし。
でも昨今は空からもし美少女が落ちてきても助けてはいけませんからね。
後で訴えられるかも知れませんし。
心臓マッサージすら怖い、男は辛いよの世の中なんです。
まあつまり
それにこんな簀巻きなんて、何回脱してきたと…ん? あれ? 上手く力を逃がされる…? もう手放してるのに…?
「何だこの鎖…? 生きてる…?」
しかも力が入らない…?
なんこれ。
キモ。
「ご主人しゃまがぁ、悪いんりゃからぁねぇ…! んふふふ…もうルミカ達から逃げられにゃ…あぁっ…! やっぱりぃ…オドがぁ! 煌めいてりゅぅぅ…!」
そう言って両手を頬に当てニンマリして頭を左右にぶんぶん振る黒川さん。
目がトロットロにキマッてますね。
ダメな方に。
これ絶対幻覚見てるでしょ。
クラスメイトのキマってる姿なんて見たくないんですが。
「……あの、黒川さん。盛り上がってるところごめんなさい。停戦を申し込みたいんですが…」
こういうのは酷くなる前に折れるべし。
これは我が家の家訓です。
男だけの暗黙ルールですが。
「あぅん…? てー…へん…? いま底辺って言ったぁ! やっぱり馬鹿にしてたぁっ! うわぁぁ〜んっ!!」
「いやそんなこと言ってないし思ってな──あ、ちょっと!? 何するんでぇぁぁあああ!!?」
また僕の健太郎様がぁぁあああ!!
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