第14話 不正野郎

「な、なんなんだよっ! お前はなんなんだよぉッ…!!」

「…」


 お前はなんなんだ、ですか。

 また哲学ですかね。


「最初から俺があの[戦争ウォー]だって知ってたのかッ…!」

「…」


 知りませんけど。

 あのも何も渾名とかどうでもいいんですけど。

 確かに剣やら槍やら弓やらウォォォーっていろいろ出すんですけど、僕にとってはハンマーとあんまり変わらないんですよ。

 どれもこれも使いこなせてませんし。

 

「まさか、疫病が…? 誰に頼まれたっ!! 言えよっ!」

「いえ、誰にも頼まれていませんが。先に襲ってきたのって君ですよね?」

「っ!?」


「あとやめてほしいって何回か言いましたよね?」

「クッソォ!! こんなの酷すぎるだろぉがっ…!」


「…」


 頭の中、大丈夫かな。

 それともやり過ぎた?

 でもそれ、ほぼ僕のせいじゃないですよね?

 いえね、最初は肩関節だけ外したんですけどね。そのパワフル健太郎様パワーそのままにハンマーぶん回すものだから見事に自分で腱と筋肉を断裂させた模様で。

 まあ、糸の切れたマリオネットみたいにダランとなっちゃいましてね。

 つい面白くて他どうなるかハマっちゃいました。

 つまり地面を這いずる芋虫健太郎様の完成ですね。

 おもろ。

 でも死なないとかマジヤバいすね。

 二回ほど首捻ってうっかり絶命させたと思うんですが。

 キモ。

 まさにゾンビ。


「そ、そうだ! その女をやるっ! だから見逃せよっ! ガチャ突っ込んだから身体は最高だぜ!」

「…」


 いや、要りませんけど。

 女の子にガチャ突っ込むなんて日本語無いと思うんですけど。

 それにしても人権無視とか生贄とか身体サイコーとか倫理観がエグいっすね。

 中世ですかね。

 まあ、今の世の中、まさにそうで乱世の予感バリバリですが。

 至る所で分断が始まってますし。

 強者にしかそんなことは言えませんが、自分がそうだと思って疑わないこの感じ。

 草生えますね。


「イ、インベントリっ、[不帰の水晶]っ! ほら、持ってけよっ! それが明日菜の所有権だっ!」


 そんなの要らないんですが。

 でもこれ、なんなんですかね。

 "御座の前は水晶に似たガラスの海だった”、の一節からでしょうか。

 見た目トイカプセルなんですけど。

 すごいカジュアル。

 だけど綺麗。

 なんこれ?


「…消えた…?」


 もうイヤ。

 一応どんなものか知ろうと持ってみたら瞬間消えたんですけど。

 具体的には雪みたいにして掌に溶けて消えていった感じなんですよ。

 手を振ってももう遅い。

 いろいろキモいんですけど。

 そもそも僕がこの空間から消えたいんですけど。


「うはは、嬉しいだろ? そいつは美容系アイテムで強化してある。具合はトロトロなのに締め付けてくる。しかも彼氏持ちで最高なんだぜ?」

「…」


 彼氏持ちの何が最高なのか。

 意味がわからないんですが。

 トロトロ締め付けという謎パワーワードは気になりますが。


「それでそいつはお前のモノだから──」

「それより回復薬を出しましょうか」


 彼、健太郎様が途中使ってたんですよ。

 小さな乳性飲料みたいな見た目の、小学生のマストドリンク感のあるやつ。

 どうも直接飲まないと使えないぽい。

 とりあえず飲まさないよう何回も転かせたら溢して怒ってましたし。

 卑怯だとかすごく理不尽。

 というかそこは魔法じゃないとか意味がわからないんですが。

 まあ、つまり今の芋虫状態なら使えない模様。最初にアスナって女の子の両手を潰したのには意味がある。

 納得ですね。


「あ、やっぱりインベントリ出してください」


 碌なものしか持って無さそうですし。

 

「は、はは、いいぜ。何やりたいのか知らねーけど、人のモノは奪えな…何で掴めるんだっ?!」

「え?」


 これ、タッチしてましたよね?

 そりゃ掴めるでしょ。

 とりあえず健太郎様のインベントリを掴み、僕のと重ねてえいやって叩いてぶち込んでみました。

 ほら、入るじゃないですか。


「お前っ!? チート野郎だったのかッ!?」

「…」


 酷い風評被害。

 チートが何なのか知りませんが、そこはかとなく悪意のある蔑み感がビンビン。

 でも、ただ巻き込まれてバスに乗り遅れただけなんですよね。多分。


「インベントリ! インベントリ! クソクソクソっ!! 強奪スキルだったのかッ!? こ、この卑怯者っ!!」

「…」


 重ねてきますね。

 酷くない?

 そもそも敗者は勝者に全て奪われるのが道理。

 その原理原則であなたも襲ってきたでしょうに。

 というかさっき自分でシーフ系って言ってましたがそれは。


 まあ、懸命に錯乱してる健太郎様は無視しつつ、この初回ボーナスインベントリから回復薬を取り出しました。

 流石に使い方はわかってきましたからね。

 そして倒れたまま虫の息のアスナさんに飲ませました。

 おお。

 ひしゃげた腕が戻っていきますね。

 でもやっぱりデジタルっぽい見た目で、巻き戻るように再構成されていきます。

 まあ、そういう世界なんでしょうね。

 キモ。


「あ、ああッ…! ぅぅ…! あああああああアァァアッ!!」

「え…?」


 アスナさん、なんか唸り出したんですけど。

 まさか毒? 

 いや、確かにさっき健太郎様が飲んでたモノと同じだったんですが。

 なんすかこれ。

 顔とか首とかビキビキに血管浮いてるんですけど。


「彼女に何が起きてるんですか?」

「…そいつ、レベルアップしたんだよ」

「レベルアップ?」


「うはっ、うはははははッ!! しかもラブポで強制発情中だっ! その上更に全回復しただろ? つまり反動がデカいんだよっ!! 普通そんなこと鬼畜でもやらねーよっ!!」

「ラブポ…? 反動?」


 それに鬼畜?

 助けたのに酷くない?

 でも確かに苦しそうですね。

 それに発情なんて、人間年がら年中だと思うんですけど。


「ははは、何も知らねーんだな…お前。しかも童貞だろ? さっきからチラチラ見てよぉ。バレてんだよ。俺が1からハメ方教えてやるからよ。だから回復してくれよ、な?」

「…」


 彼氏持ちってさっき言ってなかった?

 こいつ頭大丈夫かな?

 それとチラチラ見てないですー。

 大丈夫か気になってただけですー。


「はは、その状態は童貞には手に追えねーって。それこそ[廃棄物]みたいに好きなだけ吸い取られちまうぜ?」

「廃棄物? 吸い取られる?」


「ああ、オドを馬鹿喰いするサキュバスみたいなクソ女共さ。何人が屍体にされたかわかんねーよ。中にはトラウマになった奴もいるって話だ。まあ、とりあえずその状態の明日菜は危険だ。正気に戻すには死ぬほどしゃぶらすかハメて中出し──いだっ!? な、なんだ…? いぎぃやぁぁぁッッ!!」


 まあ、後ろから骸骨が迫って来てたんですよね。

 あの玉串も消えたし当然ですね。

 インベントリを収納したらボディスーツも奪ってましたし。

 アスナさんも偶然脱げたら良かったんですが、天使店主様は残酷ですね。

 おお、骸骨達、健太郎様に懸命に食いついてますよ。

 まさに亡者。

 楽しそう。

 それにしゃぶるは仲間ハズレなんすよ。

 罰ゲームは踊り喰いです。

 つまり生身全裸と骸骨全裸のコントラストがいい感じで睦み合ってます。

 これがいわゆる格差社会ってやつですかね。

 肉と骨の、ですが。

 あ、健太郎様の健太郎様がぶちゅって…。

 もぎたて血の革命ですね。

 いたそ。


「あぎぃゃぁああああ゛あ゛!! あ゛ギィっ!? いだあ゛あ゛ぁ!? バリアがぁぁぁッ!? ゾンビはぁぁあああ゛あ゛あ゛あ゛ッ! ゾンビは嫌だあ゛あ゛あ゛ぁぁッッ!!」

「バリア…? あっ」


 彼も…消えましたね。

 黒川さんみたいにではなく、心臓中心に吸い込まれるようにしてさっきのカプセルみたいになって落ち、最後はフっと地面に消えていきました。


「…」


 あれだけタフでしたし、堅かったからまだまだおかわりイケると思ったんですけど。

 もっといろいろ教えて欲しかったんですけど。

 しかし、黒川さんの時とは違いますけど、消えたことに違いはないし、彼女、大丈夫かな。


「う、あ゛あ゛うぅ、うう゛ッッ!!」

「…」


 このアスナって子も。

 さっきからこの子、自分で自分をいじり倒して童貞殺しに来てるんですけど。

 その為に手を回復したわけじゃないんですけど。

 狂ったように、遮二無二擦ったり抓ったりしてますね。

 頑張って無視し続けていたこの紳士ムラムラが、もう限界突破しそうなんですけど。


「はぁ…」


 とりあえず、残った骸骨達を例のごとくバラバラにし、インベントリしたあとに黒ボディスーツの彼女に近づきました。

 この子も全身マジ卑猥。

 すごい素材の服だなぁ…。

 凹凸拾いまくりですよ。

 いったい何で出来ているのか。

 そして人前で何で出来るのか。

 健太郎様あざーす。

 

「……あ、あの、ア、アスナさん、ですよね? お、お取り込みのところ申し訳ないのですが…」

「はぁ、はぁ、ハァ、ン、ハァッ!」


「せ、聖セイラム学園二年の神と申します。初めまして」

「ンッ、ンんか、カみ…? かみしゃマ…?」


「違います。えっと、僕は君を助けたいんですけど、一旦立てます? いけますか?」

「たってりゅ? ぁぁあああ…! はぃいぐ…ッ、ましゅッ…! あ゛あ゛ぃぃぃい〝ぐぅぅッッ!!」


「ええ…」


 こわ。

 ビィィンと背筋が伸び腰がガクガク震えてるんですけど。

 そのあとカクンカクンと震えてビタンビタンのたうち回ってるんですけど。

 喉ざらざらで何言ってるか聞き取れなかったんですけど。

 というかこの子…死なない?

 泡ふいてるんですが。

 それになんかすごい匂いがすごい良い臭い。

 いや、僕も混乱してますね。


「ア、アスナさん? 気をしっかりし…えっ!? うわっ!? だ、大丈夫ですか…?」


 ようやく収まったのか、寄りかかってきたんですけど。

 下半身に抱きつかないで欲しいんですが。

 なんかベタベタするんですけど。

 ズボンは一着しか無いんすよ。

 それになんか目が爛々としていて満面の笑み。

 怖いんですけど…。


「えあ…? あ〜うぅ〜…?」

「あ、あの、ここから出る方法を知りたいんですけど…おしゃべりできます?」


「…おしゃ…ぶ、り…?」

「……惜しい。違います。お話しです」


 今日これ何回させられるのか。

 これはもうお話できる状態じゃないですね。


「インベントリ。何か回復アイテムとかないのか──」

「いうぅ゛ぅぅッッ!! ああ゛ぁぁああ゛あ゛ッッ〜〜ッ!!!」

「──ええっ?! あああっ!?」


 僕のズボンがパンツごとっ!?

 パッカーンってモーセの海割りがごとく引き裂かれて弾けたっ!?

 力つっよ!

 何してんのこの子!?

 びぃよよょんって健太郎様しちゃったじゃないですか!?

 恥っずっ!!


「ア、アスナさ──」

「あはっ! んじゅぶりゅぅッ!!」

「──あひょっ!!? え? え? 嘘、あひん!? な、何してるんにゃぁぁぁああ゛ッッ!?」


 にゃにこれぇぇぇッ!!?

 なんか根こそぎ持ってかれちゃうぅぅ!?

 これらめぇぇぇぇッ!!

 それ回復アイテムりゃないかりゃぁぁぁッ!!

 それに浮気りゃないって聞くけろそれ絶対嘘らと思うかりゃぁぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!


 そうして僕は、何度も何度も押し寄せる潮騒に飲まれ、真っ白で真っ白になり意識を失いました。

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