第13話 過信先輩

 とりあえずこのピタピタの卑猥野郎から、鈍器で殴ってきた理由を聞くことにしました。

 

「…何の真似ですか?」

「うはははは、レイドのおかげでここまで来たんだろうが、俺と出会うなんてなぁ。はは、残念だったな」


「レイド? 残念…?」


 それ君の頭の中じゃないですかねぇ。


「無惨に殺されても現実じゃあ死なねーから安心しろよ。ちょっとばかし痛いだけだ。それに最前線の攻略組じゃあもう決まってんだよ」

「…?」


 何が?

 何を?

 そう言えばさっきも死なないって豪語してましたし、殺しても死なないなんて、それなんて哲学?

 というかまたレイド?

 最前線は何となくわかるんですけど、そろそろいい加減に教えてくれませんかねぇ。


「俺ら四騎士がッ! 見つけ次第オメーらフツメンを潰すってなぁぁぁッ!! [突貫]んッ! オラァァァッッ!!」

「こわッ!」


 急に速度アップとか魔法かな。

 すごい速さで向かって来たんですけど。

 貰うと危なかったな。

 でも四騎士って何?

 厨二か山賊の間違いなんじゃないでしょうか。

 それにフツメンにそんな恨みあるとかどれだけ自分を下げるのか。

 顔面に熱いこだわりがすぎる。

 まあ、確かに一般的美醜顔面偏差値的にはアバンギャルドですね、としか。

 僕はそう思いませんけどね。

 大昔なら君はイケメンでしょうし。


「はははっ! 素早さ特化のスキルかッ? ラン&ガンかパルクール、奇襲あたりのスキルだろッ! 逃げるとかダセェなァァッ!!」


 もう何言ってるかわからないんですが。

 スキルって何?

 でも確かに速くなってる気はするんですよね。

 修行も筋トレもしないでとかキモ。

 僕の筋肉ってどうなってんでしょうか。

 絶対後でぶり返しそう。

 アイシングとストレッチしたい。


「はぁ…」

「なんだその態度はぁぁぁッ! [スマッシュ]ッッ!!」

「おおっ」


 こわ。危な。

 でもさっきのと同じで大振りで直線的な攻撃は助かりますね。

 挙動は変ですが。

 いや、それよりその態度も何も、自分の境遇に嘆いてるんですが。

 なんで誰もわかってくれないのか。

 まあ、そういう星の下に生まれてるのは理解してますけどね。

 うちの家系、そんなの多いし。

 まあ、ある意味呪い。


「ちっ! 素早いな…ああ、ははははは、お前も勘違い系なんだろ」

「勘違い系?」


 それだから君じゃないかな。


「居るんだよな、正義感拗らせた奴がよぉ…」


 別に正義感は拗らせてはないけど。

 それにどういう勘違いか知らないけど、そういう勘違い系は全部あいつのお役目なんすよね。


「インベント──」

「はっ! させねーよ! この勇者気取りがッ!! くらえっ! [石化炬火ストーントーチ]ッ!!」

「うわっ!?」


 なんかハンマーから石がいっぱい飛び出して来たんですけど。

 石礫と思いきや、実体のない魔法みたいでしたね。

 避けきれずにもらったかなと思ったら白シャツがメキメキと灰色の石風に固まっていきます。

 まあ、すぐに脱ぎましたけどね。

 ヤバげな魔法くさいし。


「はは、短時間でここまで来たってのは、それなりの実力だってか。でも明日菜のスキルは効果抜群だったようだな。震えてんのバレてんぞ」

「…」


 いや、シャツ汚すどころか石にされたとか実家頼りたくないだけなんですけど。

 これカチンカチンなんですけど。

 どうなってるんですかね。

 元に戻るんですかね。

 あと二枚しかないんですけど。

 かなり嫌なんですけど。


 何だかよくわからないけど、とりあえず戦うしか無さそう。

 機能多種でエンジンだけバカでかいただの素人相手とか、まじイヤなんですけど。

 男の身体とかマジ触りたくないんですけど。

 しかも黒ボディスーツの性能がやばい。

 テント張るんじゃなくて、そのまま包んでる。しかも何故か臨戦体制。

 つまりほぼ裸同然黒シルエットの健太郎様の相手とかマジイヤ過ぎる。

 女の子が着るなら美しいって感じは少しはあるんですけどね。


「はっ、やるじゃねーかっ! だがシーフ系はこうやりゃ済むんだよっ! [掘削]ッ!!」


 健太郎様はそう叫んでハンマーで地面をぶん殴りました。

 地面が破裂して捲り上がり、大小さまざまな土の塊が飛び散って来た。

 面制圧とかやるじゃないですか、健太郎様。

 バク転で下がります。

 でもこれは流石に全部は避けきれない。


「いたっ」


 いや、痛くない…?

 何これ。

 感触はあるのに、痛みがない。

 え、キモ。

 やっぱりゲームなんですかね。

 ゲーム、あんまやったことないんですけど。

 あの天使店主様、考えるの面倒だったのかな。

 これの参加者達のある程度の知識の共有、ゲームみたいな設定を下敷きにすることで、戦いに参加し易く促した、とか?

 いや、超常現象みたいな存在に、そんな機微はない。あったら皆殺しにはしない。

 やはり人間側に誰か提案者がいるんでしょうかね。

 

「はっ! 隙だらけだぞっ! 死ねやぁぁぁ! オラァァッッ!!」

「…」


 目、ガンギマリって感じで血走ってますけど、殺すことに興奮してる…?

 どう見ても一般人が?

 でも殺人衝動とはまた違うと言うか。

 血管もプチプチ切れそうな健太郎様の感じに、薬物かなーって思うんですけど。

 それに健太郎様、さっきから股間バキバキぼっきんきんですし。

 面白くてつい見ちゃうけど、殺人快楽者とはまた違うと思うんですよね。

 単に僕が邪魔って感じだけですし。

 勘ですが。

 でも邪魔で死ねとかヤバくない?


「オド切れ狙ってんのか知らねーけどなぁっ! あいにく補給満タンだこらぁぁッッ! オラァッ! オラオラァァアッッ!」

「おっ、わっ、と、オド切れ…?」


 さっきの黒川さんもそれだったんですかね。

 いや、殺すだの死ぬだの、それこそみんなすでに魂を抜かれたゾンビ状態なんでしょうかね。

 屋上のグールもこんな感じでしたし。

 と言うかオドって何ですか?


 まあ、確かに今の世の中、弱者を叩き、強者の失敗を笑い、心の平穏を保とうとするというのがデフォというか。

 世の中全員が週刊誌みたいな価値観の世界に支配されてるとは思いますけど、これは酷い。

 

「…」


 まあ、だからこそか。

 だからこんなにも命を粗末に扱えるのか。

 草生えますね。


「ははっ! 足が止まってんぞっ!! おらァァァッ!! ガチャ行っとけやぁぁあああ!!」

「…」


 仕方ないか。

 あいつなら不殺なんでしょうが、天才でもない僕には無理なんですよね。

 なので継げないと言いますか。


 まあ、黒川さんがいなくて良かったな。

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