第6話 偏向報道
朝起きるとあの妙なキーホルダーは消えていた。
確かに机の上に置いて寝たんですけどね。
「オェ…。気持ち悪いぃ…なんだこれぇ…」
なんだかとてつもない悪夢を見ましたね。
あのシャッター通りでキーホルダーのマスコット、ニュルニュルとした青いイカタコに襲われる夢が悪夢。
僕の股間は水道の蛇口になっていて、そのニュルニュルした触手で捻られ、ドバドバ水みたいに出してました。
まあ、無視しましたけど。
ただ、無視できない大災害が布団の中にありますけど。大海原なんですけど。大惨事なんですけど。
「この歳で…マジですか…」
これ、一人暮らしで助かりましたね。
「はぁぁぁ…しかし、夢か真かどっちかわかんないなぁ…」
キーホルダーはいいとして、鞄と時計がやっぱりないんですが。
「もうこんな時間…。帰ったら洗濯しよ…。今日は寝袋でいい。なんかもうダルいし。いろいろ死ぬす」
そんなことを言いつつも、結局は学園に向かう僕は偉い。
駅に落とし物の届出を出し、学園に向かうと、教室での黒川さんにはちゃんと輪郭があって、人形にはもう見えなかった。
やっぱり夢かな。
いろんな意味でそうであって欲しい。
それが黒髪天使の黒川ルミカさん。
そのルックスは学園で三本の指に入るくらいの可愛い系美少女。「付き合ってください」と言われたら、その場で承諾してケモノになっちゃうレベル。
背中まで伸ばした黒髪ストレートのロングが清純派な感じ。変化球は嫌いじゃないけど、この子は直球で勝負できる美少女。性格も悪くないし、成績も上位な優等生。
もしかすると別れてただ落ち込んでただけ? 気持ちが落ち込んでて、僕と同じようなぼっちな存在感に?
いや、単に思い込みなのかな。
そう思って前を見ると、その彼氏だったはずの彼が今度は人形ぽい。
おう…。
なぜ?
「そこにいないように見える」
昨日と同じように呟いてみたけど、今度は無視された。
いや、反応されても困るけど、なんでしょうね。
直接の関連性はわからないけど、おそらくあの天使店主と関わりがあるなと僕のシックスセンス改めヨハネが言っている。でもあんなの二度と会いたくないし深く考えないようにしよう。
たとえ夢であってももう会いたくはないですし。
喉カラカラで下着汗でびちゃびちゃだったですしおすし。
お昼休み、購買に寄ってから屋上に向かうと、道すがらやっぱりそこかしこに人形はいた。
でももう気にならなくなっていましたね。
人は理解が追いつかない恐怖を受けると脳が拒否るものなのです。
七割使ってないことに意味はあるのです。
◆
そんなわけで、ようやく現場に戻りました。
女心と秋の修羅場と事案です。
「ほらしゃぶれよっ!」
「だからやめてってばっ!」
やっぱり聞き違いじゃなかった。
すごいパワーワードが出てきましたよ。
童貞には思っても口に出来ない単語ナンバーワンっす。
つい古の敬語が出るレベルっす。
うっすうっす。
マジそんけーっす。
え? 通報? いや、理解が追いついてないので脳が拒否してますね。
とりあえず晴れ渡る秋の空の真下、隠れて動画配信オン。
これはただの現代人の嗜みです。
ちなみに昨日のシャッター街は真っ暗な画面しか映っていなかった。つまり誤作動が濃厚。日付時刻はスルー。あれは夢。布団の中の悪夢も夢。
「いい加減にしてっ!」
「ちっ! まだ抵抗すんのかっ! ほんとゾンビのくせにしつけーなッ!」
「しつこいのはアンタでしょっ!」
もう一つのパワーワードを忘れてましたね。
人権的にはアウトなんじゃないですかね。
ゾンビがヘイトなのかは知りませんけど。
でも生きてる人にゾンビか…。
現代社会なんてそこかしこでゾンビゾンビって言うし、そこまで変じゃないのかな。
−へへっ、それでお終いかよっ…!
−くっ、こいつゾンビかよっ! いい加減死んどけやっ!!
いや、不撓不屈感あるし、ヘイトではないのかな。
−このゾンビ企業がっ! 早く潰れろっ! みなさんもそう思うでしょうッ!?
−そうだそうだッ! ゾンビ企業は潰せぇっ!
いや、好景気だったらゾンビじゃないし、潰して底値で買い取りたい気が透け透け満々なんですがそれ。
やっぱりただのヘイトですかね。
透け透け満々ってなんかいいな。
とりあえず爆速で裏垢登録してネットに接続ゴーしてます。彼の名は「しゃぶれよゾンビ」に決定。「骨の随までしゃぶってやるよゾンビちゃんよぉ」もアリだけど、長いしボツ。
しかし、どちらにせよ、完全に頭終わってるね。
強引に腕掴んだり、スカート捲ろうとしてたりしていて、例え彼女が本当にゾンビだとしても死体にしゃぶらす気満々なのが倫理的にシュールしてる。
これが新自由主義者って奴でしょうか。
今だけ竿だけ自分のだけ、でしたっけ。
そこは僕も混ぜてくださいよぉ。
みんなで幸せになろぉよぉ。
まあ、自由と平等は一行で矛盾してるくらいみんな知ってるんですよ。
こんな風に自由を許せば不平等が広がり、平等を押し付ければ自由は制限される。
その不具合こそ革命を起こす赤い毒で自分の血なんですよね。
わかります。
先生の受け売りですけど。
まあ、その歴史の先生曰く、主義は宗教の代わりに生まれた
いずれやんごとなき御方からの天罰が下るでしょう。
多分。
というか歯が当たるというか、噛まれたらゾンビになるんじゃないの? そんなに上級者なんですかねぇ。
つまりゾンビになりたいのかな?
死体としたい?
それなんてダジャレ?
屍姦ですか?
いいえ、痴漢です。
というか、こんなくだらないことしか浮かばないので早く始めてくれませんかねぇ。
「いい加減にしてっ! 知らないって言ってるでしょ! それにもう売約済みなのっ!」
そんな事をダラダラと考えていたらついに怒った彼女がそう叫んだ。
またもやパワーワードの出現に僕のメンタルがゾクゾクしてます。
「ははっ、嘘つけ。オメーら
「なっ!?」
「みんなビビってよぉ。はっ、それなら試してやるよ」
そうイキったグール男子は鼻で笑ってズボンを脱ぎ出した。
なぜ?
メンタル強すぎない?
そうしてパンパンに張ったトランクスを見せつけつつ、ニヤニヤしながら女の子に言いました。
「お前、これ見てそんなこと言えんのかよ?」
「…」
言えるでしょ。むしろ言うでしょ。それよりあそこまで拒否されておっ勃つなんて剛の者。ある意味尊敬する。こわ。
僕? そりゃもうギンギンですけど? 女の子のビジュアル次第ですけど? 冗談ですけど。
「ってあれ…」
よく見るとこの子、黒川さんじゃない…?
一応、顔は映らないように画角を考えて撮ってたんですが、そういえばこんな声だったような。
あ、こっち向かって走ってきましたね。
グール男子、足がもつれてら。
頭の中もカスカスなのかも。
ズボン下まで下げたらそりゃそうなりますって。
しかし、黒川さんの表情、迫真でいい感じですよ。まあ、映したら可哀想なのでフレームには入れてませんが。
あ、そんなに足上げたらパンチラ入っちゃうじゃないですか。
あざーす。
「か、神くんっ!? 見てたなら助けてよっ!!」
確かに僕の苗字は
身バレやめてくれませんかねぇ。
「ご主人様でしょっ!」
捏造もやめてくれませんかねぇ。
TVじゃないんだから。
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