第7話 枝移接続

 放課後、そそくさと帰り支度をして、さっさと学園を出た。

 いつものルーティンが如く、個人古書店に足早に向かい、いつもの立ち読みを敢行。

 ここはシールで閉じられてないんです。

 ありがたいことです。


 それに店主のお爺さんには気にいられてるので怒られないんですよね。


 正直なところ、スマホだと頭に入ってこないんですよ。

 多分光の色とインクの色の違いなのかなと個人的には思ってます。


「…」


 ニビルを調べてみたら為替レートにはなかったんですよね。

 仮想通貨はあったんですけど、あのメダルはちゃんとモノでした。

 まあ、手元にないんですけど気になるじゃないですか。

 古銭を調べても何処にもないし、この辺のゲーセンのメダルにもあんなデザインのはない。

 ネットにはカードゲームのモンスターとか、地球の4、5倍の大きさの惑星とか別の惑星Xとか、カルトっぽい宗教とかいろいろあってよくわからなかったんですよ。

 古い本を開いても、同じようなモノでしたけど。


「…そんな惑星があればすぐに見つかっている。だからそれは人類滅亡説を金儲けに利用する為に考えられた陰謀論だ…ですか」


 どれもこれもだいたい陰謀論扱いですね。

 陰謀論も陰謀論という言葉で縛り、それ以上考えさせないようにするという、人間の心理をつき思考停止させる話術だったような覚えがあるんですけどね。


 それ陰謀論でしょ、って言う奴はだいたいのソースが他人が陰謀論って言ってたからという事実がもう怖い。それに気づいてないのが更に怖い。


 まあ、それはともかく、カルト宗教が唱える人類滅亡の終末論ドゥームズディは割とポピュラーなんですよね。あのウインドウにも滅亡とか書いてましたし、もしかするとこの世界は一度……ん?


「あれは…」


 本屋の外には黒川さんがいた。

 キョロキョロと誰かを探しているご様子。

 そんな猫しか通れないほっそい路地にもゴミ箱の中にも誰もいませんよ。

 いや、これ多分僕探してるんでしょうね。

 

 お昼のシャブリー野郎はそれこそ血走ったグールみたいに駆けてきたので、すれ違いザマに足を引っ掛けると見事に転び、アゴと股間を強打して悶絶してました。


 どこぞの塾長みたいに地面には勝てなかった模様。


 さしもの怪物も呆気ないものだな。

 マジおもろ。


 ただ、くたばってはおらず、顔を見られての難癖コースっぽかったので、つい後頭部を踏みつけて気絶させてしまったのは平和主義という名の不可抗力です。

 争いは望みませんからね。

 つまり根切りが基本。

 それがラブアンドピース。

 そんな僕はピースメイカー。


 それから学校の先生に報告…するのは面倒だったので、よくわからないことをわーわー言ってた黒川さんにその動画をシュポっとプレゼント。

 煮る焼く炒めるはお任せしました。

 多分停学か退学なのかな。

 私学だしどれくらいがボーダーか知らないけどグールを野に放つのは危険だと思います。

 さあ、この学園の実力、見せてもらおうか。

 動かなきゃメディアにプレゼントしましょう。

 偏向報道されるがいい。

 いや、曲がってはないか。

 巡ると戻っちゃうよね。


「さてと…」


 ここはダッシュで帰ろ。

 ゾンビにしろ、グールにしろ、しゃぶれよにしろ、売約済みにしろ。ご主人様にしろ、もう言葉の洪水にお腹いっぱいです。


 流石にご主人様呼ばわりは堪えますし、クラスメイトに言われるとか草生えますし。

 しかも僕みたいなパンピーが奴隷ムーブとか何の罰ゲームなのかと。

 それにあれは漫画かアニメか上位2パーほどの超富裕層だけの世界です。


 キョロキョロと辺りを見渡しながら駅に向かう黒川さんを背後からそろりと尾けて、途中離脱。

 そして駅構内に素早く入る。

 すぐに鞄と時計の落とし物がないか聞きに行きました。

 だけど届けにはなかったよう。


「また教科書買わなきゃなのか…」


 実家頼りたくないなぁ…。

 何て言い訳すれば良いのかな。

 河川敷で震えて困ってた人に薪として渡したとか言おうかな。


「…ごくり」


 いや、今はそれよりここだ。

 昨日の摩訶不思議アドベンチャーの入り口だ。

 この魔の改札を前にし、僕はスマホを眺めながら少し祈る。

 ホーリープレイっすね。

 まあ朝は何もなかったんだし、大丈夫でしょう。


 あれは夢。

 ご主人様も夢。

 ご主人様が夢。

 あれ? うっかり間違えましたね。

 儚い夢をありがとうございます。

 

「よし…これから安全な帰宅を開始する」


 そう宣言した僕はピッと鳴らすために、さあ帰ろうと腕を振り上げた。

 今日は安全に帰りつき、オカズは黒川さんのバミューダ沖トライアングルで決まり、なんて思ったのがいけなかったのか、後ろからご本人の圧が来た。


「いた! ご主人様っ! 待ってっ!」


 黒川さんが焦った様子で叫び、僕を呼び止めた。

 

「ええ…」


 そんな大きな声困るんですけど。

 もはやイジメじゃないですかねぇ。

 側からみたらクズぽく映るじゃないですか。プレイにしても高度すぎないかな…って…誰もこっちを見ていない?

 なぜ? 

 日常では割と聞けない言葉だと思うんですけど。

 目を背けるのはわかるのはわかるんですけど、どうやらそういう訳じゃなさそう。


「聞いてっ! 話を聞いてっ! ご主人様っ!」

「あ」


 よそ見をしていたら、腰にどしんと良いタックルを喰らいましたね。

 柔か。

 すぐに体操男子平行棒みたいにして両腕を改札機に突っ張って耐えました。

 ただ、掴むとこないんですよね。

 片手スマホ持ってますし。


「ご主人様呼びがダメなのっ!? じゃ、じゃあ神くん様っ! お願いっ、待って神様!」

「ちょっとそれやめてくれません?」

 

 僕に神様は禁句ですよ。

 ただの悪口ですし。

 今はそんなことよりピッ、してないから無賃乗車になるんですけど。

 離して欲しいんですけど。

 でも駅員も誰もこっち見てきませんね。

 どういうことなんですかね。


「なんでなの!? …放置プレイってこと? それとも成金足長おじさんプレイ…?」

「…」


 何言ってんですかね、この子。

 アタマ大丈夫かな。


「若いのに…? あ、も、もしかしてそっちが趣味とか…?」

「そっち? 趣味?」


「き、嫌いじゃないけど…あっ! なんでっ!? 扉じゃないのに!? ログインしちゃう!?」

「扉? ログイン?」


 とりあえず、黒川さんこそ人の話を聞いて欲しいんですが。というか変な姿勢過ぎて腕が滑りそうで倒れそうなんですけど。


「あ。もう無理です」

「ああっ!?」


 耐えきれずに前にこけると、またトプンと聞こえました。


 今度ははっきりとわかりましたね。

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