第8話 銀蟾円匙

 咄嗟に身体を捻ったおかげか、背中から無事受け身着地。

 そして僕のお腹には黒川さんが綺麗に跨って座っていて、なん、柔か。良い匂い。至極。


「…」

「いたたた…あ、ご、ごめんなさいっ!」


 いや、それは全然構わないしむしろ都市伝説ラッキースケベを堪能してるところなんで急がなくて大丈夫ですし今制服という君と僕の境界線上の膜を限界まで無くそうと煩悩が仕事してますので動かないでください。


 というか動かれると僕のアレが炸裂するかなと。今だけ竿だけ自分のだけの新自由主義なアレが。

 いや、このいきり立つムラムラ具合は例の商店街でしょうね。


「…どこここ?」


 違いましたね。

 ムラムラは変わらないんですが、昨日と全然違う場所に出ましたね。


 辺りは前回同様ホラーっぽい真っ青な色味空間ですけど、地面は土で、原始的洞窟というよりかはやや人工的に四角くて、角丸洞穴っぽい仕様の四方に囲まれてます。


 まさに近代から中世に遡ったような遺跡発掘不思議具合。


 ゴツゴツとした岩肌には、真っ暗な穴が無数に空いている壁が嫌な不気味感満載なんですけど。

 絶対なんか出てくる感じじゃん。


「そ、そんなッ!?」

「どうしたんですか?」


「ここ、ボ、守護者ボス部屋よっ!」

「…へー…」


 答えになってませんねぇ。

 しかし、黒川さんの表情と話す内容から導くこの状況は、なんだか不味いっぽい。

 これが天使からの人類への告知なのかもしれませんね。

 

 でも天使って基本スポ根脳筋なんですよね。

 役割見てもほぼほぼ軍隊ですし、悪魔が殺した10人に対して、少なくとも200万人以上ぶっ殺してますし。

 地獄に連れてくのって基本天使ですし。

 ラッパ鳴ったら80億人はかたいですし。

 今の時代そういうの流行らないかなって思うんですけど。


 まあ、今はそれより電車の改札が不思議への入口なんて超迷惑をどう回避したものかと頭を悩ませてますが。

 これはいよいよ避けてきた自転車通学へと反語的夢化したと見るべきなんでしょうか。


「へーって! なんでそんなに落ち着いてるのっ!? い、今二人きりなのよっ!?」

「緊張しますね」


「緊張してなくないっ!? はっ!? ご主人様だから余裕なの…? つまり…神くんは、やっぱり神くん様…?」

「それやめてくれません?」


 確かに僕の苗字は神です。

 ジンじゃなく、カミです。


「割と多い苗字なんですけどね」

「…珍しいと思うけど…?」


「パラオとかクック諸島くらい人口いますー。バチカンなんてワンパン余裕ですー」


 苗字ランキング9500位くらいですけど。


「え?」

「あ、いや…」


 しまった。苗字弄りに過敏に反応してしまった。この苗字のせいで今まで散々いじられてきたのです。

 この学校でも一年の時はそれなりにやられましたから。


 ちなみに下の名前は比色。

 ヒロじゃなくてヒイロじゃなくてヒーロー。

 つまり僕の名前は神比色カミ ヒーロー

 マジDQN。

 マジファック。

 マジジーザス。

 マジ死ぬ。


 まあ、そんな名前のせいで卑屈になってしまいましてね。特に見目麗しい女子とは関わりたくないんですよ。


 助けても見捨てても何か言われますし。


 まあ、それはさておき、黒川さんには残念無念ですが一旦退いていただき、起き上がって辺りを見渡しました。


「こんな部屋初めてなんですけど、黒川さんは来たことあるんですか?」

「初めて…?」


「はい。地下商店街なら堪能したんですけど」

「う、嘘…!? まだそこ!?」


「まだも何も、今回でこの世界二度目なんですけど、ボスってなんですか? ここって敵とか居る世界なんですか? 一度も遭遇したこと無いん…どうしたんですか?」

「あ、ああ、あぁ……」


 何やら口をパクパクしながら目を見開いてますね。

 変なこと言ったつもりはないんですが。

 しかし、とことん驚いてるご様子。

 とりあえず僕の質問に答えて欲しいんですが。

 まあ、女の子の青ざめて驚く顔ってマジそそりますよね。


「か、神、神くん、あ、あれ、あれ見てッ…!」

「穴がどうし…あれは…」


 黒川さんが指差した方を見ると、何やらタンニンっぽく日焼けた骸骨がその壁穴から次々と這い出てきましたね。

 おそらく成人男性くらいの骨格。

 まさにホラー。


「筋肉も腱も軟骨も神経も、いや脳すら無いのにどうやって動いてんでしょうか。キモ」

「イ、インベントリッ!」


「え?」


 黒川さんが焦った様子でそう叫ぶと例のウインドウが現れました。

 おお。

 それが合言葉ですか。

 何やら急いでタッチしてますよ。

 焦る女の子の横顔も、うむ。


「あったっ! きてっ! [銀蟾円匙ルーナショベルト]ッ!!」


 するとそのウインドウから勢いよく銀の大きなショベルが出てきましたね。

 土掘ったり人埋めたりするアレですね。

 それよりちょっと大きいかな。

 持ち手の端がヒキガエルなのがチャームポイントでしょうか。

 ちなみに足を掛けてザクッと出来る部分の無いモノは全てスコップと呼びます。

 どうでもいいですよね。

 でもこれで、しゃべる、しゃぶる、しょべると揃いましたね。

 いや、ショベルとシャベルは同じ意味でしたね。シャブルだけ仲間ハズレです。

 つまりグール男子ですね。

 いや、僕混乱してますね。

 何なのこれ。


「くぅっ!!」


 黒川さんがそのショベルを両手で掴むと、淡く銀色に発光しました。

 しかし、その銀のショベルの大きさが美少女と可愛い制服に違和感バリバリなんですが。

 いや、園芸部もあるのかな。

 帰宅部なのであんまり知らないんですけど黒川さんにはバスケ部とか陸上部がお似合いだと思うな。良い膝の位置と良質な太ももしてますし。

 

「た、た、多分初回ガチャで、はぁっ、ひぅ、はぁっ、あ、あ、当てたとかなんだよねっ!」

「初回ガチャ?」


「はぁ、はぁ、や、役立たずだけどっ、肉壁にはなるから…!」

「肉壁…?」


「はぁっ、はぁっ、あははは、ハァ、ハァ、わ、わたしっ、わたしっ、か、勘違いして喜んでたのっ!」


 黒川さんは言いたいことをダダダっと言い放ってから、その骸骨に駆けていきました。

 なんだか過呼吸気味で、錯乱してる模様。

 戦っても勝つことが絶望的って感じの悲壮感で、いや、もう何言ってるかわからないですね。


 しかし、あの骸骨をショベルで埋めてあげるんでしょうか。

 思っていたとおり優しい人ですね。

 綺麗な花が咲くと良いな。

 彼岸花とか。


「はぁぁぁッッ!!」


 そんな大きな掛け声と共にシャベルを勢いよく骸骨に叩きつけたのは誰あれ黒川さん。

 パカランって感じの間抜けな音とともに骸骨はバラバラになりましたね。


「えぇ…」


 仏様になんて事を…。

 アナーキーインザ…何処でしょうね、ここ。明らか和風じゃないんですけど。


「コイツらはっ! 銃も剣もっ! 効かないからッ! ハアァァッ!! 打撃で! 折るしかないのッ! やぁぁあああ!!」


 そんな物騒なことを叫びながら、彼女は穴から出てくる骸骨達に猛烈アタックを仕掛けています。

 大きな銀のショベルからは綺羅綺羅とした光のエフェクトが漏れ、それを撒き散らしながら、骸骨を次々とバラバラにしています。

 すごく熱狂的。

 しかし、一応敵とはいえ、仏様だと思うのですが、新しいスタイルの供養方法なんですかね。


「この骸骨はねッ! 体力が半分以下になると! バラバラに崩れて行動しなくなるのッ!」

「体力…?」


 骸骨に…?

 ゾンビに生意気やら、骸骨に体力やらこれもまた哲学ですかね。

 動いてるだけでもはやアレですが。


「でも一定時間が経つとねッ! 復活してしまうの! やぁっ! やぁぁっ!」


 黒川さんはそんな説明と共に地面に崩れた骨を勢いよく叩き折ってます。

 正直、正規のショベルの使い方じゃない。だけど、戦場なら正しい使い方だと思います。

 だからか無双状態。

 そんな今の黒川さんは言うなれば女子高生の枠を飛び超えたスーパーグレートJK。

 つまりS.G.J.K。

 一文字惜しい。

 さあ、第二問。間違いはどの文字でしょうか。

 いや、やっぱり僕混乱してますね。


「ハァっ! こんな風にバラバラに崩れたらッ! しっかりとどめを刺さないとッ! ダメなのッ! はぁぁぁッ!! 死ねッ、死ねェェェェッッ!!」

「…」


 いや死ねも何もすでに骸骨なんですがそれは。

 生きるって何でしょうね。

 意味を問われてる感じで困惑します。

 まあ、おそらくこの骸骨が侵略者なんでしょうけど、恐怖なんて感じないんですよね。


 それはだって仕方ないじゃないですか。


 黒川さんって、スカート短い目硬派ノーショーパン科つやつや黒髪属美少女種なんですよ。絶滅危惧種なんですよ。レッドデータブックにバリバリ載ってるはずなんですよ。


 そんな彼女が、おそらく今、大事なことを実践付きで熱心に教えてくれてると思うのですが、ほんとそれどころじゃないって感じの大事なところを隠す秋の黒のパンチラ大放出祭なんですよ。

 春の風がまた吹き遊び、S.G.J.Kなのにゴールがガラ空きなんですよ。


 そんなの耳に入ってくるわけないじゃないですか。


 僕の天の岩戸クラスの糸目も本気出して見開きますって。

 誰だって爪楊枝をフィールドに吐き捨てて本気出したり、ファイヤー、勝った者が強いんだっ! ってなりますって絶対。

 

「やぁっ! 破ァァっ!」


 しかし、ほんと女子高生とは思えないパワーとスピードで次々と骸骨をバキバキに撲殺してますね。こわ。

 いや、これがつまり暴力系ヒロインって奴でしょうか。

 いやはや、そんなの初めて…ではないか。

 僕が対象ではないですけど、過去遭遇したことはあります。はい。


「ハァッ、ハァ──ッ、くっ、やぁぁあああッッ!!」


 でも、次々と骸骨を倒す黒川さんの表情には必死さと焦りしかない。

 いったい何なんですかね。

 見たところ余裕勝ちに見えるんですけど。


 しかし、黒川さんがいくらS.G.J.K黒川サンだったとはいえ、女子高生があんなパワーとかスピードとか意味わかりませんね。

 少なくとも最初より三倍は早いですし。


 つまりここ、ゲームみたいな世界なんですかね。

 ショベルもなんかキラキラ光ってますし。


「いや、もしかして、彼女がアウトサイダー…?」


 確か地元出身だったはずですが、彼女がその越境者って人なんでしょうか。


 越境入学者は僕なんですが。


 まあ、今は黒のレースはやはり良いな。とだけしかわかりませんねぇ。

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