第3話 死者之書
シャッターに挟まれた通りで僕は頭を抱えていた。
「どうしよう」
スクールバッグがパンパンになってしまった。重い。単純に重い。取っ手が千切れそう。夢中で集めたら持って帰ることを考えてなかった。
「そりゃ銀行できるね…」
しかもたったこれだけの量でも一枚無くしたとて多分わからない。
ザル勘定必至。
いやどんぶりかな。
まあ、補助通貨は厳密にはお金とは呼べないからいいのか。
空港で換金出来ないし。
持って帰るのは確定だけど、どうしようか。
このメダルがなかったら多分ムラムラが治らないと思います。
それに価値とかわからないけど、せっかく集めたのに手放したくないですなぁ。
ニマニマ。
「いつでも取り出せるような、せめて預金みたいにデータになってくれれば…」
そう呟いた時、僕の目の前にウインドウみたいな半透明の板が現れた。
「…ウインドウが現れた」
都合二回言ったけど、正直意味がわからない。
デザイン的にはワイヤーフレームというよりゲームの吹き出しみたいなポップアップのよう。
そこに『ロボットではありません』的な歪んだ文字で、何か日本語っぽく書かれてあるんですよ。
なんだこれ。
「イ…ニかな? ニビル、30…? 回しますか…?」
そんなことが歪んだ「はい、いいえ」と共に書いてある。
もちろん回さないけど?
「30ってこのメダルのこと? 枚数?」
聞いてみたけどウインドウには何の変化もない。
一枚が何ニビルか、一回が30枚のニビルか、それとも普通に円なのかは知らないけど、回すなんてガチャだろうか。
でも僕はこのメダルそのものが気に入ってるんであって、ガチャには別に興味がない。
「銀行みたいな預け屋ないの? あるんでしょう?」
誰に話しかけてるのか、そんなことをつぶやいてみた。
多分僕は混乱してる。
だって場所離れてもこのウインドウ着いてくるんだもの。キモ。
掴んで投げてもブーメランみたいに戻ってくる。マジキモい。
なんこれ。
でも今度は反応があった。ウインドウの文字は消え、代わりに違う文字が表示された。
あらかじめQ&Aがあって、それに反応してるのかな。
でもまた読みにくい字体だ。
「…死ぬ、と全…て、無くなりますが、それでも預け…ますか…?」
そんな事が書いていた。
ここが夢の中とはいえ、死んだらそりゃ権利とか無くなるんじゃないかな。
交番に警察いないかったし。
メダルはいっぱいあったけど。
「…まるで生き返る前提みたいだな…」
それがもうひたすら怖い。
自分が生み出したと考えると更に怖い。
とりあえず闇バイトがごとく家探しした手前、このメダルを早くマネロンしたい気持ちしか今はない。
でも一応聞いてみる。
「…死んだら僕はどうなります?」
すると何やら急に胡散臭い文章が、やっぱり歪んだ字体で並び出した。
「宇宙、憶に保存…? はぁ…何これ? これは分身、体かな? 陰…と陽…魂魄劣化の防止…?」
歪んでいるのもそうだけど、そもそも内容が難しくてよくわからない。
「世、界滅亡後のやり直しを行って…いるため外郭が…? なんだ滅亡してたのか…って滅亡っ? 僕にそんな狂気染みた願望が…?」
驚愕の事実にびっくら仰天。
「あの、僕そんな生き汚くはないんですけど。諦めないだけで…いや、これは反語的な?」
他にもツラツラと続いてるけど、正直目が疲れるし何言ってるかわからない。
そう思って眺めていたら急に掻き消えた。
「…もしか見ちゃまずかったやつ? 大丈夫です。僕、そういうのちゃんと忘れるタイプなんで」
生きてると人の痴態とかに遭遇しますよね。
夢なら自分の。
今なら今まさに。
だから大丈夫です。
僕は見ざる言わざる聞かざるがデフォなので。
僕じゃなくスマホがその役やってるんで。
「出口はないんですか?」
今度もダンマリだった。何していいかわからないこの感じ。やっぱりゲームだったら萎えてしまうと思います。
それにしても、ここから出られないのは困る。
持って帰れないのも。
おそらくあの四辻を抜ければまだまだメダルはあるんだろうし、ゴールもあると思う。
でもなぁ。
そうなると夢であって欲しい率が下がるというか、上がるというか。
そんな気がしてくる。
「うぉ。入った」
どうなってるのかわからないけど、ウインドウにメダルを置いてみたら消えた。その代わりに右上に⚫︎×100と出た。
一枚100ニビルかな。
「なんかやだな…」
せっかく集めたのにはわけがある。
この小さなメダルはトキめくくらい魅力的だった。
500円どころか2000円くらいの価値があると思ってた。
それくらい魅惑のメダルだったのに、もう100円にしか思えない。
貧相な僕の経済観ならそんなモノですかね。
「つまりガチャだと三回ってことかな」
というか、狙ったものズバリじゃないと嫌なんですよね。福袋買う人の気持ちとかわからないんですよ。
「ガチャ以外ないんですか? あるんでしょう?」
すると今度はずらっと文字が並んだカタログというかリストみたいなものが現れた。
「そうそう、こんなリストが…」
よく見るとそこには人の名前で溢れていた。知らない名前ばっかで、ビジュは無い。
名前だけじゃわからないけど、おそらく女の人ばっか。
いや、男の人もいる。
その横に数字がある。
1万とか10万とか。
これは値段? 円? ニビル?
お、100万の人もいる。
でもだいたい女性名。
「これが人身売買って奴かな…」
まさにアングラ。
都会は怖いですね。
いや、これが夢なら自分が怖い。
「自分に対してここまで恐怖を感じるとは……ん?」
そのリストに、何故か黒川さんの名前があった。
生まれ滑るドットナックス 墨色 @Barmoral
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